先日、マツダのCX-5とCX-8の改良モデルが発表されパワートレーンの変更などと併せて、G-ベクタリングコントロールプラス(GVCプラス)が搭載されたというニュースがあった。このGVCプラスは、マツダの次世代車両運動技術であるスカイアクティブビークルダイナミクスの第2弾と位置付けられているものだ。
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これは試乗も行ない、GVCプラスの効果もこの後レポートするが、この技術への理解を深めていくと、マツダの未来のクルマ像の片鱗が見えてくるのだ。マツダは、ICE(内燃機関)の重要性を明確にしつつ、次世代車は電動化されていくというロードマップも発表している。もちろん、ハイブリッドやPHEVなどにはICEが搭載されているものの、並行してピュアEVも徐々に増えてくるとしている。そのピュアEVに対し、自動車の専門家(アナリスト)の間ではピュアEVの個性化は困難だというのが一般化している。だが、マツダはEV戦略発表の場で副社長の藤原清志氏がMBD(モデルベース開発)によって、マツダらしいクルマづくりをしていくと説明していたのだ。その片鱗が見えるのがこのGVCプラスだ。
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GVC(G-ベクタリングコントロール)はすでにお伝えしているように、ステア操作に対してエンジントルクを制御し、4輪の接地荷重を最適化することで応答性を高めるという世界初の制御技術だった。当時、ステアリングとエンジンを連動させ、前後の加速度制御を横運動と連動させた制御というのは世界初の技術だった。今回のGVCプラスはその技術を進化、深化させたものだ。
また、マツダの車両運動制御の考え方は、曲がる、止まる、走るという運動を個別に考えるのではなく、発生するGをどのように1台の車両の中でコントロールするのかという、統合的な考え方がスカイアクティブビークルダイナミクスの基本となっている。その個別に運動するのが、エンジンやシャシー、ミッションなどであり、これらを制御するコンピューターを通じて、グリッドコンピューティングしていくというのが骨子というわけだ。
さて、そのGVCプラスだが、これはステア操作したあとは、必ずハンドルは切り戻すということをポイントに、GVCによるターンインの姿勢コントロールだけでなく、ターンアウトのシーンでもコントロールしていこう、というものだ。
!ポイント
GVCではターンインのステア操作をすると、即座にエンジントルクがダウンし、フロント荷重を発生させる。その後ステア操舵が止まった瞬間にエンジントルクは復元し、リヤ荷重となり、横Gのループが起こっている。この操舵の停止から切り戻しの動きをするときに、ブレーキを使ったヨーモーメントを制御することで、すなわち直進状態へと戻すための復元モーメントをつくることで、コーナリング時の収束性と安定性を向上させようという制御なのだ。
復元モーメントをつくるとは
具体的にはハンドルを切り戻すときに、旋回の逆方向のモーメントを与えるためにブレーキを使い、目的としてはオーバーステアを抑制、旋回挙動を収束しやすくということになる。切り戻し速度に応じて、フロントの外輪をほんのわずかに摘まむ動きをすることで、旋回を打ち消すモーメントを素早くつくるというわけだ。つまり復元モーメントをプラスしたので、これがGVCプラスということになる。
G-ベクタリングコントロール(GVC)の制御因子は、基本的にドライバーの操作情報である舵角のみである。これを補足する情報として、車速、ヨーレート、前後加速度があり、これらの情報をCAN上からパワーコントロールユニットに取り込んで横の躍度(jerk、加加速度)に変換し、これを基にエンジントルクダウンの指示がおこなわれている。
このGVCプラスでは、エンジンへの指示と同時にブレーキにも信号が送られ、発生させるヨーモーメント量を制御しているのが新しい。このエンジンとブレーキを同時に制御しているケースとして、緊急時にESC(横滑り防止装置=ABSでもある)からエンジンへトルクダウンの指示をする制御は一般的に行なわれている。だが、GVCプラスでは、上記のドライバーの操作情報のみに基づいて、通常走行時からエンジンとブレーキを同時に制御する信号を送る技術は新鮮で新しい。
ここでポイントとなるのは、あるいは難題だったのは、電動パワーステアリングは1/1000秒で制御が可能であるが、ICE(内燃機関)は一般的に1/100秒程度でしかコントロールできない。しかしマツダのスカイアクティブは1/200秒まで反応速度を上げて制御している。こうしたエンジン制御をしていたことで、ステアリングとエンジンの協調制御であるGVCが成立したとも言えるわけだ。
とは言え、その速度差の乖離はエンジニアの合わせ込み技術によって、埋め合わされていると言っていいだろう。GVCが市販車に搭載された時点では、その制御乖離は体感しないレベルになっている。一方で、一般的にブレーキを用いるヨーモーメント制御、例えばトルクベクタリング制御の場合、いつステアリングが切られるのかは予測できないし、ステア操作を止めるタイミングも不明だ。そのため、介入が遅れたりオーバーシュートすることもあるという。
だが、GVCプラスでは切ったハンドルは必ず切り戻すわけで、つまり、ある程度の予測が立つわけだ。コーナーに入るときに切りはじめ、アペックス近辺で操舵は止まり、切り戻す動作に入る。この操舵が止まった瞬間にブレーキの油圧を昇圧するプレフィルを行ない、レスポンスの遅い油圧と摩材というブレーキでも瞬時に反応させることが可能になっているのだ。
ここにはブレーキ制御における曖昧な制御ではなく、正確な制御ができるというロジックが存在していることの発見も大きいと考えられる。
また、マツダの車両はロードスターを除き、デミオからCX-8まで対応車速に違いはあるが、全車速追従できる機能をもっているため、高レベルのESCユニットを採用している。つまり、こうしたブレーキの信号に対するレスポンスには速い応答が求められるわけで、高級なユニットでなければGVCプラスは成立しない。だが、マツダ車はACCが高機能であるために、GVCプラスが全車適応可能ということになった。
さらに、このGVCプラスはそのモーメントコントロール=姿勢制御において、ピッチコントロールもしていることもポイントになる。というのは、車両はターンインでフロント荷重となり、即時反対にハンドルを切るようなシーンでは、切り戻すときにフロントタイヤの抵抗が減り、荷重がリヤへ移動し、逆へステアした時点で再びフロント荷重になる。そのため前後のピッチングが発生しているのが一般的だ。だが、GVCプラスでは切り戻すときにブレーキをつまんでいるので、フロント荷重のままステアリングが切り返されるから、ピッチ変化がかなり少ないのだ。
これはドライビング体験では明確に違いを感じ、ロールしていないかのように感じるのだ。正体としてはロール量の違いはないものの、ピッチ変化が小さいために、ロールが小さく感じる効果があるという。これは横の旋回Gが働いているときにリヤ荷重にすると、ドライバーはアンダーステアだという印象を持つという。それほど、横Gに対する前後加速の与える影響は大きいということなのだ。
試乗テスト
試乗はテストコース内のワインディングを想定したハンドリング路と、高速周回路上に設置したダブルレーンチェンジをテストした。
ダブルレーンチェンジでは操舵スピードを急ハンドルで車両を動かした時、リヤ荷重が減りスライドする挙動が出るはずのところで、GVCプラスが働き姿勢は安定する。身構えて、あるいはスライドのイメージを持っていても拍子抜けするほど安定しているのだ。これはESCの介入の前段階で作動するというので、より姿勢安定を重視した制御と言える。
また、転舵速度をやや落としたWレーンチェンジで試すと、スムーズにパイロンを交わしすり抜けていく。体感的には、何事も起きていないステア操作どおりにクルマが動いた、ということになる。ここまで説明してきたように、フロント荷重が抜けることなくピッチモーメントを抑制しているため、ドライバーは意のままに動いていると感じるのだろう。
また、ハンドリング路では、車速を上げれば上げるほど、ロールを少なく感じ旋回速度の限界が高まっていることを体感する。特にS字の切り替えしではピッチングしないので、フロント荷重のままステア操舵できていることに、非常に高い安心感を覚え、さらに、アグレッシブに走れるという思考が横切るほどだ。
つまり、GVCプラスはサスペンションを固めることなくバネ上をコントロールすることが可能で、高価なアクティブサスペンションと似た領域まで従来のサスペンションで対応できることになる。これは低速域などでの乗り心地を犠牲にすることなく、ハイスピードでもロールの少ない、安心感のあるコーナリングが可能になるということなのだ。
マツダの未来
まとめてみると、GVCプラスはエンジントルク制御に加え、ブレーキによる直接ヨーモーメント制御を追加し、旋回中からターンアウトにかけて、復元モーメントを付加して挙動を安定化させる技術ということだ。それと、ヨーモーメントだけでなく、ピッチモーメントも同時制御することで、ロールに対するヨーの位相遅れを改善し、ピッチの連成運動を実現しているというものだ。
こうした制御とすることで、高速道路での車線変更やワインディングでの一体感のあるフィーリングの向上、緊急時の危険回避性能、安心感の向上、そして雪道など滑りやすい路面環境における安定感の向上といったものが提供価値としている技術だと分かる。
冒頭マツダのクルマの未来像があると書いたが、こうした制御技術は旧来のICEの時代では、ダイナミック性能を個別に制御するところまでだったが、電子制御技術によって一体化したダイナミック性能をつくることが可能になり、ICEをアクチュエーターとした場合でも、ここまでの制御が可能になった、という現実を見せてもらったわけだ。
これが来るEV化の時代になると、モーター制御は1/1000秒での制御が可能になり、より緻密な、そして精緻な制御が可能になるわけで、今回のGVCプラスを例にとれば、フロント外輪だけの作動を対角輪での制御へと制御範囲を広げることも可能になるというし、そうなると、これまでに体験したことのないコーナリングの世界が顔を出し始め、高い制御技術によって新しい走りを手に入れることができるわけだ。だから、冒頭、マツダのクルマの未来像があるというのは、伝わっただろうか。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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