めっちゃ速え~!が特徴
アメリカのヘリコプターメーカーとして名高いシコルスキー社のS-97「レイダー(ライダー:RAIDER)」は、前から見るとほかの小型ヘリと変わらない姿をしていますが、後ろ姿は普通とは明らかに異なります。お尻の回転翼が正面を向く異様なデザインをしているのです。しかも、シコルスキーの親会社ロッキード・マーチン(LM)はこのコンセプトを米国外で活用しようとしています。
ヘリコプターは通常、お尻の回転翼を横向きに付けて、主回転翼で生じるトルクを打ち消して機体が回転するのを防ぎます。これに対して、ロシアの「カモフ」に代表されるヘリは主回転翼を上下に重ね、互いに反対方向へ回転させてトルクを打ち消します。
S-97も同じですが、さらに推進用の回転翼を尾部に加えています。これは高速性のためで、通常のヘリコプターの倍以上となる時速400km以上を出せることが特徴です。主回転翼自体も高速向きの機構を採用し、1基のエンジンで主回転翼と尾部回転翼を動かし、低速時は尾部回転翼のクラッチを切ります。
S-97が初飛行したのは2015年5月。元々は米陸軍のOH-58観測ヘリとMH-6軽強襲ヘリの後継機として開発されましたが、LMによるとS-97は現在1機が飛行試験に、もう1機が地上試験に用いられているとのことです。
そのS-97が2025年6月に実施された世界最大級の航空展示会「パリ航空ショー」で、米国外で初めて姿を見せました。ただし、その姿は華々しいとはいい難いものだったのです。
なんで「尻がヘンなヘリ」を地味~な場所に?
S-97が展示された場所は、多くの来場者が行き交い目立つ会場中央ではなく、出展社が招待客のために設けた「シャーレ」という施設の前。いわばかなり目立ちづらい場所へ、胴体部分の実物大模型とともに展示されていたのでした。
LMによると、米国外初展示となったのは、欧州で2020年11月より進められている、NATO加盟のフランス・ドイツ・イタリアなど7か国で、2035~40年に更新時期を迎えるヘリの後継機開発プロジェクト「次世代回転翼航空機能力(NGRC)」プログラムのためとのことです。
とはいえNGRCが対象としているのは中型汎用ヘリのため、重量約5tのS-97は小型すぎます。LMでは「購入国が現れた場合は改良を加える」としていることから、S-97で得た技術成果を活かし、規模を拡大した機体を設計すると見られています。
こうして見ると、LMがこのような披露方法を選んだのも、一般に広くアピールするよりも、業界関係者が多く行き交うエリアに設置することで、NGRC関係者の見学を優先したと伺えます。こうしたLMの配慮が、今後NGRCへどう影響するのでしょうか。(相良静造(航空ジャーナリスト))
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