ダウンサイジングの次はライトサイジングだと主張するVWアウディの最注目エンジンが、ポロTSI R-Lineに搭載された。なぜ、このエンジンが注目なのか? エンジン技術に詳しいジャーナリスト世良耕太が試乗。まず、EA211 1.5ℓevoには、ふたつの仕様があるところから。なんと日本導入エンジンは、VGターボではなかったのである。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
2019年1月29日に発売されたフォルクスワーゲン(VW)・ポロTSI R-Lineは、日本初採用の新型エンジンを搭載している。1.5ℓ直4ガソリンターボのEA211 Evo(110kW/250Nm)だ。ポロは日本で、EA211 1.0ℓ直3ターボ(70kW/175Nm)を搭載するTSIトレンドラインとコンフォートライン、ハイライン、EA888 2.0ℓ直4ターボ(147kW/320Nm)を搭載するGTIをラインアップしている。
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TSIハイライン/コンフォートライン/トレンドラインとGTIの間を埋めるのがR-Lineというわけだ。グレード名が示すようにスポーティな位置づけで、その証拠のひとつにGTIと同じ215/45R17サイズのタイヤを履く。外観はリップスポイラーやリヤスポイラーにブラックサイドスカート、内装ではボディカラーと同色のラインでコーディネートしたシートなどを採用し、スポーティなイメージを高めているのが特徴だ。
実は2016年に本国で発表されたEA211 Evoにはふたつのバリエーションがあり、ポロR-Lineが搭載するのは簡易版にして高出力版で、便宜上1.5ℓ TSI Evo 110kWと呼んだりする。最新技術をすべて投入したのは1.5ℓ TSI Evo 96kWだ(最大トルクは200Nm)。技術をすべて詰め込んだ仕様よりも技術を間引いた仕様の出力が高いのは、「技術満載=高出力」という考え方で設計したわけではないからだ。「技術満載=高効率」という考え方である。
1.5ℓ TSI Evo 96kWが本国では「BlueMotion」グレードに設定されていることも、効率追求型(パワーよりも燃費志向)であることを示している。2005年に発表した元祖過給ダウンサイジングのEA211と、その次の世代であるEA211(吸排気の向きを逆転し、吸気前/排気後ろに)の基幹となる仕様の排気量は1.4ℓだった。EA211 Evoで排気量を増やして1.5ℓにしたのは、ライトサイジング(排気量の適正化)のコンセプトを取り入れたためである。
過給ダウンサイジングは、主に低負荷領域で燃費向上効果が得られる。過給を行なうと、自然吸気(NA)エンジンよりも小さな排気量で同等の出力/トルクを発生させることが可能だ。排気量を小さくするとエンジン本体は軽くできるし、機械抵抗は減り、ポンピングロスも減る。過給によって低回転から充分なトルクを発生するので、NAのようにエンジン回転を高める必要がなく、常用回転数を低下させることができ、燃費向上につながる(しかも静か)。低回転域から充分な力が出るので、気持ち良く走ることができる。
これが、過給ダウンサイジングのメリットだ。ところが、日本のJC08や欧州のNEDCよりも高負荷領域で走行するモードを含むWLTCが導入されるようになると、過給ダウンサイジングのメリットが薄れてしまう。前述したように、過給ダウンサイジングは主に低負荷領域を得意とし、高負荷領域を苦手とするからだ。高負荷あるいは高回転域での連続運転では燃費面でのメリットを享受しづらい。
そこで、全域で効率が高くなるコンセプトに切り替えた。それがライトサイジングである。排気量を増やせば自動的に全域で効率が高くなるのではなく、ミラーサイクルを適用するための、0.1ℓの排気量増だ。ミラーサイクルは吸気バルブを閉じるタイミングの工夫で「圧縮比<膨張比」を実現する高膨張比サイクルである。膨張行程が長いために燃焼サイクルの仕事量が増え、効率が高くなる。
1.5ℓ TSI Evo 96kWの容積比(幾何学的圧縮比)は12.5だ。吸気バルブを下死点で閉じて圧縮し、高圧縮による効率向上を狙ったのではなく、12.5の膨張比が欲しかったのだ。実際には下死点に到達する前に吸気バルブを閉じるので、カタログに載っている12.5の数字ほど圧縮比(実効圧縮比)は高くない。1.4ℓの排気量のままでこれをやると吸入できる空気量が少なくなり、トルクが低下してしまうので排気量を増やしたのだ。
1.5ℓ TSI Evo 96kWのもうひとつのキー技術は、可変ジオメトリータービン(VGT)である。VGTは排ガス流量に応じてベーンの角度を調節する機構を備えたタービンのことで、VWは「低回転域での過給圧の素早い立ち上がりを実現するため」と説明している。VGTの可変ベーンは高温にさらされるため、高価な耐熱合金を採用せざるを得ず、従来は高価格なモデル、具体的にはポルシェ911ターボ(3.8ℓ水平対向6気筒)や718ケイマン/ボクスターの2.5ℓ仕様(水平対向4気筒)しか適用例がなかった。
VWの1.5ℓ TSI Evo 96kWはミラーサイクルの適用によって圧縮上死点付近での混合気の温度が低下~ノッキングが抑制される~点火が進角できる~高膨張比のため燃焼サイクルの効率が向上~排気温度が低下という好循環の影響で排気温度が低下するため、高価な耐熱材料を使わずにVTGを採用することができた。
長々と1.5ℓ TSI Evo 96kWの説明をしてきたのは、筆者のこのエンジンに対する興味の現れだ。話はポロTSI R-Lineに戻るが、このクルマが搭載する1.5ℓ TSI Evo 110kWはミラーサイクルもVGTも適用していない。容積比は12.5ではなく、10.5だ。ライトサイジングではあるけれども、96kW仕様ほど効率を追求した仕様にはなっていない。
その代わりといってはなんだが、プラズマコーティングのシリンダーライナー(いわゆる溶射ボア)や350barの直噴システム、低負荷時に2番、3番シリンダーを休止する気筒休止システムといった新世代エンジンの技術的な特徴は受け継いでいる。
前述したようにTSI R-Lineはポロのラインアップのなかでスポーティな位置づけとなっているが、110kW/250Nmの最高出力/最大トルクを発生するエンジンのスペックは1.4 TSI(EA211)を搭載するゴルフ/パサートTSIハイラインと同じであり、首がのけぞるような加速をもたらすわけではない。動力性能は1.0ℓ3気筒を積むグレードより上、といった程度だ。
小田原厚木道路の小田原西IC~厚木IC間31.7km(制限速度70km/h)を、走行車線を中心に走行した際の燃費は23.2km/ℓだった。VWゴルフTSIトレンドライン(EA211 1.2ℓ)で同じルートを走った際の燃費は23.7km/ℓ、2016年1月に先代ポロBlueMotion(EA211 1.0ℓ)で走ったときは21.0 km/ℓだった。
GTIと同サイズのタイヤ&ホイールに合わせてサスペンションにも手を入れており(スポーツサスペンションを装備)、そのせいか乗り味はややハードである。VW(とくにゴルフにその傾向が強い)の美点である、ロールしはじめてからのしなやかな動きと収まりの良さよりも、引き締まった脚(ある程度大きな入力がないと動きを感じにくい)を望んで仕立てた印象だ。R-Lineを名乗るからには……ということなのだろうか。
ポロTSI R-Lineは新世代エンジンの採用により、燃費を犠牲にせず、動力性能はそこそこで、エクステリアやインテリアの装備やサスペンションのチューニングでスポーティなムードを高めたモデルといえそう。実用性の高い居住/荷室空間と取り回し良さを両立したボディサイズは、全ポロに共通する美点だ。
フォルクスワーゲン Polo TSI R-Line
全長×全幅×全高:4075×1750×1450mm
ホイールベース:2550mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム
エンジン
形式:直列4気筒DOHC直噴ターボ
型式:EA211 Evo(DAD)
ボア×ストローク:74.5×85.9mm
圧縮比:10.5
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000pm
最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:40ℓ
燃費:JC08モード 17.8km/ℓ
トランスミッション:7速DCT
車両本体価格:298万円
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