事件のキーワードはホンダNSXとNRだった
最近ある事件が起きたことで話題となったホンダ「NSX」と「NR」。旧車界隈が騒然としたこの事件の関係者と同じく、NSXを20年間所有しているAMW編集部員も思うところがあり、オーナー目線で語ってみることにしました。この事件から得た人生の教訓とはいったい何だったのでしょうか。
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20年という歳月は、同じ年月を重ねた同志にしかわからない重みがある?
すこし前に旧車界隈をザワつかせたある事件が起きた。まだ記憶に新しい人も多いと思われるが、ホンダの「NSX」と「NR」という名前を聞くだけでクルマ好きであればピンとくる事件ではないだろうか。まだ裁判も始まっておらず真相はわからないので詳細は割愛するが、好きな女性のために愛車を手放してしまった末に相手を殺害してしまったという哀しい事件だ。もちろん刑事事件であるので加害者を擁護するつもりはないし、かといって被害者を含めた関係者をジャッジする気も毛頭ない。では、なぜこの事件をAMWで取り上げたかというと、自分も同じようにNSXを20年間所有してきた者として、スルーすることができなかったという点に尽きるのだ。
加害者となった人物は、20年間アキュラNSXを所有していたそうだ。最初にこの事件でNSXを見たとき、まさか20年来のオーナーだとは知らず、今ならお金に換えたくなるほどのプレミア価格もついているし、手放しても仕方ないのかもしれないと考えた。けれども、自分と同じ20年……と知り、なんともいえない気持ちになったのだ。それも手放した理由が自分のためではなかったとしたら……。
それでも売らなかったのは愛ゆえに
自分も何度も「売らないの?」「まだ乗っているの?」と言われてきたし、同じオーナー仲間があっさりと他のクルマに乗り換えていくのを見てきた。今となっては価格的にも残存個体数的にも、一度手放したら二度と乗ることが難しいクルマの部類になってしまっているのだけれど。この歳月の重みや苦労は、長年同じクルマを所有し続けているひとであれば言わずもがなだろう。
事件の真実はわからないが、結婚のために愛車を売却したのだとしたら、それもその人の価値観であるし、誰に文句を言われる筋合いもない。ただ、一番大切なモノを一番大切なヒトのために手放した結果、すべてが幻だったと気づいたときの絶望感となると……。追い討ちをかけるつもりはないが、加害者の自宅にはNSXのミニカーやDVDなどのグッズが大量に所蔵されていたほどのNSXフリークであることは間違いなく、「なぜに」と嘆息するばかりだ。
元も子もないことを言えば、富豪でもない庶民の自分には手放したら二度と手に入れることはできないクルマになってしまっているという自覚はあるので、手放す人の気持ちがわからないというのが本音ではある。実際、当編集部の誰もが口を揃えて愛車を手放すことはないと即答した。もちろん、自由意志で取った行動について、他人を批判するつもりも権利もないので、これはイチ個人のイチ価値観にすぎないことだけは断っておこう。
イタいと思われようが、愛するモノには常に全力
エコや環境性能ばかりが重視される昨今、スポーツカーなんてダサい、時代遅れだという批判がないわけではない。だから、この事件が起きたときにまたスポーツカーが批判されて、下手したらNSXまで巻き添えを喰らっていろいろ言われるのだろうなと落胆していた。ところが、蓋を開けてみたらSNS上に限っては、旧車乗りの気持ちに寄り添う意見があふれていた。まだまだクルマ好き界隈は熱いようだ。
世間ではクルマが好きだと言うとオタクと思われることはある(自認はNSX推しにすぎないのだけれど)。令和になっても、推し活ブームが起きようがオタクには、ダサいとかイタいと言ってもいいという風潮は残っているような気がする。そもそも、この事件の根底にあるのはそこではないかとさえ思えるのだ。個人が大切にしているものや好きなものをいとも簡単に手放せと言ったり、イタいと批判するのは、その対象物に対しても軽視していることにくわえ、その相手も尊重していないことの表れではないのだろうか。
この事件の場合、自分軸の「自分ならどうする」ではなく、他人軸の「相手が望むからそうする」と、軸を他人に委ねてしまった結果の悲劇だと思われてならない。もし自分軸で判断していたら愛車は手放さなかったのではないか。つまりその結果がこれまでの“20年”だったのだから。結局、本人は自分軸で判断して手放したように見えても、じつは他人軸で判断をくだした結果、愛車を手放し、この事件は起きてしまったようにも思えるのだ。そこに気づけなかった本人の責任と言えばそれまでかもしれないが。しかしこれは、どんな趣味嗜好についても同じで、イタいと思われようが「ひとがどう思うか」という他人軸は決して自分を幸せにはしないのだ。
自分が自分を裏切る結果、悲劇を生む。ならば心に「ヒンメル」を飼おう
ほとんどの場合、自分で自分を裏切っていることには気づけないし、自分の行動の結果が失望に終わり、前に進めず誤った判断をしそうなときはどうしたらいいのだろうか。そう考えたとき、ふと頭に浮かんだのは「勇者ヒンメルならそうした」というセリフだ。漫画『葬送のフリーレン』で主人公のフリーレンが、なぜそう行動したのかという問いに対して放つセリフだ。ヒンメルは魔物を倒した有名な勇者で、フリーレンの心にさまざまな影響を与えながらともに旅をした登場人物だ。そして最近、台湾でナイフを持った通り魔を取り押さえた男性が、このセリフをもとに勇敢な行動を取ったのだと発言したことで話題となった。
「自身の心に迷いがあったとき、自分らしさというものが邪魔をするとき、それでも前に進むというのは難しいことである。それでも、勇者ヒンメルだったらきっと前へ進む、そう思うだけで迷いを断ち切ることができる」というヒンメルの行動規範がもとになっており、「勇者ヒンメルならそうする」というフレーズがそれを表しているのだ。
べつにクルマと関係ないじゃん? と思われるかもしれないが、頭にこの言葉を留めて、心にヒンメルを飼っていれば、思い通りにいかない世界にキレて道を踏み外すことはないのかもしれない。クルマの運転でイライラしたとき、カッとなってムキになりそうなとき、理不尽な言葉を投げかけられたときに思い出してみてはいかがだろう。人生を前に進めることができるかもしれない。
前に進む。クルマの運転と同じで、前に進むことが大事なのだ。
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みんなのコメント
アキュラのNSXとNRをニュース映像が流れ見た時に事件の本質が見えた感じがしました