BMW ジャパンは「Pioneering Hydrogen」と題して、新たなパワートレーンに関するメディア・ラウンドテーブルを開催しました。最大のニュースは、BMWブランドの量産モデルとして初めての燃料電池車(FCEV)を2028年にリリースする、というもの。トヨタ自動車との協業体制によるパワートレーンやインフラの共有化を含めて、「製品の提供」だけでなく「普及促進」にも本気で取り組むことを明らかにしています。
FCEVとBEVは、互いを補完し合うことで魅力が増す
本国発のオンラインによるラウンドテーブルはまず、BMW AGのVice President Hydrogen Vhiclesであるドクター マイケル・ラット氏による、水素燃料電池車に関する現在の展開と背後にある戦略の紹介から始まりました。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
BMWとしては車両単体ではなく「クルマを巡るライフサイクル全体で、CO2排出量を2019年比で少なくとも40%削減する」目標に変わりがないことを強調しつつ、そのために「これからは電気の時代である」と認めています。
一方で、BEVオンリーの対応については、「片足で立とうとするものだ」と語りました。それはつまり「長くは続かない」ということを意味しています。つまりFCEVはもう片方の足であり、両足で立つことでよりリアリティのある近未来のモータリゼーションへの道筋を描くことができる、と考えているようです。
BMWが柱のひとつとして水素に注目する理由のひとつは、自然エネルギーインフラの普及とともに、発電効率の変動にともなっておこりうる「余剰」問題を解決することができる可能性があるから。
純粋に電気エネルギーの利用効率を考えるならBEVが勝りますが、水素化によって貯蔵、輸送が容易になるメリットは、そのデメリットを補って余りあるといいます。燃料補給についてもICEと同等の時間で済む意味でも、ユーザーニーズに最適化していると言えるでしょう。
またラット氏はLCAで検証すればBEVとFCEVのフットプリントは同等である一方、異なる原材料を用いることによるレジリエンス面でのメリットについても触れました。資源の問題も含めたリスクヘッジとしての可能性を秘めている、と考えているようです。
「(FCEVと)BEVは競合ではなく、補完し合うものです」(ラット氏)
あらゆるコンディションで実証された信頼性と走る楽しさ
BMWは2019年のIAAショーにおいて、コンセプトカーとしてBMW X5をベースに開発されたBMW iX5 Hydrogenを初めて公開しました。その後、IAAモビリティ2021で最初のプロトタイプを公開、来場者向けにシャトルカーとして活用しています。
さらに2023年2月からは、「生産予定パイロット車両」として100台弱のBMW iX5 Hydrogenを作り、世界中のターゲット層に向けたドライビング・エクスペリエンスの可能性を実地で検証する活動を進めてきました。
世界20カ国で行われたワールドツアーはトータルで100万kmを突破し、その堅牢性を証明しています。あらゆるドライビングコンディションで性能を存分に発揮し、実用化に向けた自信が高まった、と言います。
たとえばアラブ首長国連邦に属するドバイでは砂漠地帯で試乗を実施。初めて暑さに対する集中的なテストに臨みました。車輌の燃料電池駆動システムは、45℃まで上昇する気温、砂や埃、さまざまな勾配、大幅に変動する湿度といった厳しい条件の中、t見事な性能を発揮したということです。
こうした実地の検証で得られた教訓が、今後の改善につながることは確かでしょう。その過程においてBMWは重要なパートナーのひとつとして、10年以上に渡って信頼と実績のある協業関係にあるトヨタ自動車を選びました。
「現行」のiX5 Hydrogenでもセルに関して提供を受けていますが、BMWは今回のラウンドテーブルにおいて今後の具体的な「共同開発」の流れを発表。トヨタがすでに発表している次世代(第三世代)水素燃料電池ユニットを活用した乗用FCEVを、2028年から量産開始することを明らかにしました。
スケールメリットを生かしつつ憧れ心をくすぐる「独自性」にも配慮。
燃料電池セルとともに主要なメカニズム共同で開発を進めることで狙うのはもちろん、シナジー効果によるコスト削減がひとつ。一方で、ドライバビリティやダイナミックパフォーマンスにつながる部分に関しては、それぞれの独自性や特徴を生かした形で熟成が進められるそうです。
「憧れてもらえる魅力的な商品」によって、FCEV需要を押し上げるとともに、BMWはトヨタとともに、生成、流通、供給といったネットワークインフラの整備についても積極的な協業体制を構築することになりそうです。
今回のパートナーシップ構築に当たりプレゼンに登場したBMW AGのChaiman of the Board of Managementであるオリバー・ツィプセ氏は「今こそ水素のポテンシャルを全開させる時なのです」と意気込みを語りました。
ツィプセ会長と並んで登場したトヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 佐藤恒治氏は、「水素エネルギーが社会を支える未来を実現するべく、多くのパートナーとともに取り組みを進めていきます」と宣言しています。
BMWが謳う「テクノロジー・オープンネス」(マーケットの動向に機を見るに敏に対応しうる柔軟性を備えるための、異なるテクノロジーの活用)と、トヨタの「マルチパスウェイ・アプローチ」というふたつの哲学の融合が、プロダクツやインフラにおいてどんなポテンシャルを発揮するのか・・・その動向に注目が集まります。
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