試乗による航続距離の推定結果
執筆/撮影:Kaoru Kobayashi(小林薫)
【画像】魅力いっぱいの600e、でも残念ポイントも 画像はこちら 全5枚
最近多くの輸入車EVが話題になっていますが、この9月にフィアット600eが発売され、コンパクトEVなのに航続距離が493kmであることに驚きました。車両重量1580kgと軽量、バッテリー容量は54.06kWh、モーター最大出力115kwであるのにもかかわらず、WLTCモードは500km近いのです。
7年乗っている日産リーフZE1型40kWhの後継として魅力的だったので、早速フィアット甲府店で試乗させてもらうことにしました。本当にそのような航続距離が出るのか半信半疑の気持ちでハンドルを握ったのが事実です。
試乗の目的地は、富士五湖の河口湖近くにある旅の駅で、フィアット甲府店からは約30kmの距離となります。途中に御坂トンネルがあり、このトンネルの標高は約1000mとなる山越えの道です。甲府の標高は約250mなので、トンネルの入り口までは急こう配の上りになっており、快適に走るにはそれなりに強いトルクが必要です。また、その下りは回生ブレーキが重要となり、それらのEV性能を確認するにはうってつけの道となっています。
試乗当日は、朝一番で甲府店に行きSPORTモードで出発。10月で天気は良くエアコンの使用は必要ありませんでした。ODOメーターと電費をリセットし、フィアット甲府店をバッテリー残量92%でスタートし、御坂トンネルをくぐって旅の駅に到着した時は81%となっていました。旅の駅では600eの写真を撮り、甲府店に戻った時のバッテリー残量は79%、平均電費は9.3km/kWhとなっており、全てSPORTモードで約60km走ったのに13%しか減っていませんでした。
これから計算すると、満充電での航続距離は、なんと461kmとなります。WLTCは高速道路走行を含んでいる航続距離なので、このような数値になっても不思議ではありません。ちなみに、バッテリー容量100%の計算値は49.62kWhとなり、妥当な数値ではないでしょうか。
御坂トンネルへの道は急な上り坂になっています。600eのトルク値は日産リーフより少ないですが、加速は全くそん色なく、力強く坂を登って行きました。一方、下り坂では回生ブレーキを使いますが、かなりしっかりとした制動がきき、Bモードの使用は少なく、ほとんどDモードで下りてくることができました。
日産リーフと比べると、この600eの方が強いように感じました。BYDやボルボの回生ブレーキが弱かっただけに、これは意外でした。また、アクセルを戻した時の回生ブレーキは、特に遅れることはなくレスポンス良く制動され、スポーティな運転をすることができました。
今回の試乗の距離は短くて、航続距離などはあくまで推測値であり、本当にどうであるかは別途確認が必要だと考えられます。また、冬の季節はこのような数値は出ないだろうとは想像されます。ただ、山越えの一般道をSPORTモードで走り、このような結果になったことは、回生充電の性能が素晴らしく良く、恐るべきコンパクトEVであるとは思いました。
600eの特徴と魅力ポイント
600eには、航続距離以外にも多くの人を魅了するものがあります。デザイン・内装はお洒落で可愛くて、クルマを見てすぐに一目惚れ。タイプも日産リーフと同じハッチバックだったので、このまま乗って帰りたくなりました。また、最近の輸入車はディスプレイの中に機能スイッチのあるものが増えていますが、この600eのエアコンの操作などは、従来と同じ外部スイッチになっており、安心して使える印象を受けました。
パワーステアリングは快適なハンドリングができるよう調整されており、車庫入れなどがやりやすく、走行時の安定性も良くて、高級車であることを感じました。また、運転席シート、後方のハッチバック扉、サイドブレーキも、日産リーフとは違い電動化されており、ひとクラス上の車格の仕様になっています。
地デジやDVDプレーヤーなど、AV機器も重要ですが、この600eではディーラーオプションとして装備することが可能。HDMI接続となるので、画質は良いことが期待できます。もともと6スピーカーのオーディオが標準仕様となっており、音質もなかなか良かったです。
急速充電に対してはCHAdeMO対応となっており、500eでは必要だった接続アダプターは不要で、利便性が向上しています。
D/B切替がシフトレバーでない
このように多くの魅力ある600eですが、どうしても納得できないポイントも、残念ながらありました。回生ブレーキの強さを切り替えるのが、前面パネルの下にあるD/Bスイッチであり、通常のシフトレバーではないことです。
このスイッチは運転ポジションでは手が届かないため、体を前にしないとタッチできなくて、シフトレバーのように運転中に頻繁に操作することは難しくなります。回生ブレーキはエンジンブレーキと同じで、交差点での停止、車間距離の調節、下り坂での制動などに使うものであり、運転ポジションのまま操作できないことは、あっても実際に利用できないのと同じになってしまいます。
600eではシフトレバーの位置にECO/SPORTモードとの切り替えスイッチがありますが、ここをD/Bスイッチと入れ替えれば、手の届くことになります。なぜそうでないのか理解できず、不思議な感じすらします。
日産リーフのD/Bモード切換えは、バックのRレンジやニュートラルも含めた丸形のシフトレバーになっています。ニュートラルでは、回生ブレーキの全くない滑空するような走りになるので、遠出の時に上手く使うと電費を伸ばすこともできます。
私は日産リーフを13年前に購入し3台目になりますが、このシフトレバーによる回生ブレーキの操作で街中でも快適にEVを楽しめていると言っても過言ではありません。ただ、遠乗りではその操作の使用頻度は低く、それほど重要ではないと思われます。また、エンジンブレーキを普段使う習慣のない人はフットブレーキを使えば良いことなので、さして問題にはならないのかもしれません。
これまで試乗したBYDやボルボのEVでも、運転ポジションで使えるシフトレバーではなく、D/B切替スイッチによる操作になっていました。特定のメーカーがコストやデザイン優先などの理由でシフトレバーをなくすのは理解できます。しかし、もし世界の多くのメーカーがそのような方向にいくのであれば、EV運転の楽しさや面白さを奪われることになり、実用性に問題ないとしてもとても残念に感じてしまいます。
このような状況で、600eを現行日産リーフZE1型の後継として考えていましたが、現在、購入するまでには至っていません。フィアット甲府の店長さんからは、もうしばらく試乗してみてはいかがですかという提案を頂いており、悩ましい日々は続きます。
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