惜しくも日本代表はベスト8で敗れてしまったとはいえ、ベスト4以降はティア1と呼ばれる英王国連邦の有力チームがぶつかり合い、ほとんど毎戦が事実上の決勝戦状態が続いていたラグビーW杯。オールブラックスとの大一番を制し、いよいよ南アフリカとの決勝に駒を進めた英国は、エディー・ジョーンズ元日本代表ヘッドコーチに率られ、史上最強の英国代表との呼び声も高いが、さすがラグビー発祥の国、サポーターの中にも凄い男が交っていた。68歳の元体育教師の英国人、クリストファー・ブレイキーさん(以下クリスさん)だ。
彼は7月11日の日中に英国はバースの近く、自身の住まうカーシャムの街を出発。愛車の1937年製のオースチン・セブンを走らせてロシアからシベリアをはるばる横断し、ウラジオストクから鳥取県の境港を経て、ラグビーW杯イン・ジャパンにおける英国代表の闘いっぷりを初戦から追っている。ちなみにバースはロンドンよりさらに西へ170kmほど行ったところにある街で、グーグルマップでルート検索すると平面ではなく地球の丸みを映し出すほど引いた挙句に、車でのルートは案内不可能。徒歩を選択すると距離にして1万3215kmという数字が出てきた。
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旅の供にする愛車の名は、バブーシュカオースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
卒業した英国ボストンのグラマー・スクールを訪れた際に、生徒たちとバブーシュカ号と一緒に。
「ロンドンからすこし北に自分が少年期を過ごしたボストンという街があって、折角だから英国を出る前に母校のグラマー・スクールを訪問しました。生徒の前で今回の旅について講演させてもらって、記念のネクタイとバッジを頂いたよ」と、クリスさんは笑う。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
フィンランドとロシアの国境地帯の森の中で、バンガローに泊まりながらオイルポンプの修理に追われたとか。
そこから中東部のハルという港町に向かって英国を出立。「フィンラインズ」というフィンランドの貨物船の船上で2泊3日を過ごしつつ、まずはヘルシンキに入った。つまりユーラシア大陸へは、フィンランドで上陸したのだ。上陸から2日目、最初の数百kmほどで早速、初のトラブルが訪れた。オイルの減りが速いので漏れを疑っていたらその通り、オイルポンプにひび割れができていたのだ。もちろん出発前にクリスさんは機関の万全を期して、エンジンとギアボックスをまるっと組み直していた。都市部の流れの速い交通事情に鑑みて、低中速域での加速が向上するよう、ギアを4速にしてファイナルレシオも大きくした。ちなみに新品のオイルポンプは携行したスペアパーツに含まれていたが、まだまだ残りの道中が長いことを考慮して、パーツ交換ではなく耐熱パテでヒビ割れを埋めることを選択した。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
国境を越えてロシアに入った瞬間。
フィンランドとロシアの国境を越えてから、サンクトペテルブルクまでは100km強。そのさらに先、モスクワまでの道のりは奥方と20歳を迎えた息子さんが一緒で、予定通りに家族での休暇として過ごしたという。クリスさんのオースチン・セブンは元々は2人乗りのスポーツカーボディだが、トランクからテールにかけてのリアセクションと幌が改造され、3人乗り仕様になっている。その少々ぎこちないボディラインを、彼は愛情をこめて「バブーシュカ(ロシアの老婆の愛称)」と呼ぶ。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
サンクトペテルブルクにて、聖イザック聖堂を背景に息子のアーサーさんとバブーシュカ号とともに。
政治的なものを飛び越えてそもそも彼が、日本で行われるラグビーW杯を機に、ユーラシア大陸を横断して観戦に行こうと考えたのは、1966年に母校、ボストン・グラマー・スクールの修学旅行で訪れたレニングラード(旧ソ連時代のサンクトペテルブルクの呼称)とモスクワを再訪してみたいという想いからだった。当時の英国と旧ソ連は当然、西の自由主義側と東の共産主義側に陣営を違えており、雪解けもたまにあったとはいえ基本的に政治外交上は緊張関係にあった。そうした関係にある国を中学校が修学旅行先に選ぶこと自体が驚きだが、今もクリミア併合やジョージア共和国を巡る対立、元諜報員の毒殺未遂事件など、英国とロシアの緊張関係は決して解けていない。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
モスクワのCSKAラグビー・クラブの子供たちから、寄せ書きを贈られた。
「だからこそ自分の目で見て、現地の人々と交流したいと思ったんだ。母校で覚えたラグビーを通じてね」
サンクトペテルブルクからモスクワまでの道中では、3人が乗ったバブーシュカ号は再びトラブルに見舞われた。オーバーホールしたエンジンに新たに組みつけられていたディストリビューターのギアが欠けてしまったのだ。幸い、オーバーホール前の旧ディストリビューターを予備に持ち込んでいたので、交換で事無きを得た。モスクワに着いたのは7月25日の夕刻遅くのことだった。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
モスクワのデパートが主催するクラシックカー・ラリーに、招待枠で出走するという栄誉を受けたクリスさん一行とバブーシュカ号。
モスクワでは驚くような歓待が、ふたつあった。ひとつはCSKAラグビー・クラブ、つまりあの本田圭祐選手が所属したモスクワ市のフットボール・クラブのラグビー版から、会長じきじきの招待を受けたことがひとつ。もうひとつは7月最後の週末、赤の広場で行われたクラシックカー・ラリーに、ゼッケンナンバー「007」で招待され、1番スタートの栄誉を受けたのだ。外交的にはロシアについては、英国でも新聞やインターネットの記事を通じて、対立や問題がつねづね伝えられているそうで、これらの「下にもおかぬ歓待」にクリスさん自身もびっくりしたという。
ここモスクワで奥さんと息子は英国に戻ることになっており、代わってアメリカ在住のロシア系の友人イリヤが、ナビゲーターを務めるために合流した。モスクワまで鉄道で戻れる範囲の片道とはいえ、ロシア語のできる友人がちょうどバカンス期で旅の道連れをやってくれたのは、心強かったそうだ。モスクワを出て約250km先、ニジニーノヴゴロド周辺で1000マイル(1600km)の走行距離に達した愛車に、クリスさんはオイル交換を施した。
バブーシュカ号とラグビーが人をつなげるオースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
家族と交代ナビゲーターのイリヤと一緒に、赤の広場で記念写真。夏休みの季節なので友人が代わる代わる、ナビゲーターに来てくれたそうだ。
そこから先、ヴォルガ川と並行してチェボクサリへ向かう途中からは、変わった経験を色々としたそうだ。クリスさんのオースチン・セブンは通常の巡航時の速度は65~70km/h程度、最高でも80km/h少々といったところだが、何度も地元の警官に呼び止められたとか。違反キップを切るためではなく、警官が自分のスマホに、クリスさんとバブーシュカ号の写真を収めるためだったという。警官に止められるのはほとんど毎日のことで、時々、数日前に会った顔見知りの警官と再び顔を合わせるほどだったらしい。
また反対車線からUターンして、ラグビーの元ロシア代表チーム付けのドクターが、わざわざ激励のために声をかけに来てくれたこともあったという。ドクターは、クリスたちがモスクワでヒストリック・ラリーに参加した時のテレビでのオンエアを見て、カザンからやって来たらしく、現在はアイスホッケー代表に担当が変わったとか。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
オースチン・セブン自体が物珍しいせいも手伝って、警官や軍人に声を掛けられるのは道中のお約束で、ほとんど毎日呼び止められたという。
もう一組、印象に残っているのは、8月初頭で満開のひまわり畑の中で車を停めて休憩していた時、同じく車を停めてクッキーとハーブティーのアフタヌーンティーをその場で用意してくれた、プールトとスヴェトラーナという初老の夫婦だった。彼らはいつもの市場へハーブティーを売りに行く途中で、クリスたちを見つけて足を止め、積み荷の一部からお茶を淹れてくれた上に、持参の弦楽器でバラライカを歌ってくれたとか。
ほとんどシュールなまでの、ロシアの人々の温かい歓迎だったが、ウラル山脈を越え、エカテリンブルクからノヴォシビルスク辺りの区間に差しかかると、「人恋しくなる」という気分がどんなものか、少しずつ実感として察せられるようになってきた、とクリスさんはいう。雪に閉ざされる、暗く長い冬とはうって変わって、8月は冷涼とはいえ過ごしやすく、日は長い。ノヴォシビルスクではイリヤに代わってウィルが交代ナビゲーターとして合流。そこからはダイナモが充電しない問題を抱えながら、予備バッテリーと充電チャージャーを購入して、今回の旅でもっとも長いクラスノヤルスクまでの500km区間を乗り切ったそうだ。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
カザンから先、交通量も人影もめっきり減ったあたりで出会ったというプールトとスヴェトラーナのカップル。オースチン・セブンのボンネットで即席のアフタヌーンティーを淹れてくれた。
あらかじめコンタクトしていたとはいえ、クラスノヤルスクではグッド・サプライズが待ち受けていた。街のラグビー・クラブがスポーツ交流のためという理由で招待してくれ、英国を出発した時は1カ月分しか出ていなかったビザの有効期間が、3カ月へと更新されたのだ。クラスノヤルスクのU18チームの試合で、クリスさんのバブーシュカ号はスタジアムの入り口に展示されただけでなく、地元のガレージで細かなトラブルシューティングをも済ませることができた。一人で進むのは難しくても、ぶつかった先で横から後ろから続々とサポートが入るのが、ラグビーだ。それにしても、クラスノヤルスクはユーラシア大陸横断のまさしく道半ば、ウラジオストクまでは丸々5000kmが残されているのだった。
オースチン タイプ1937 ユーラシアツアー|EURASIA TOUR WITH Austin 7 TYPE 1937
クラスノヤルスクのラグビー・クラブは、交流以外でもビザの更新を手伝ってくれたりして、様々に援けてくれたそうだ。
<続く>
文・南陽一浩 写真・クリス ブレイキー、奥村純一 編集・iconic
取材協力・ジャガー ランドローバー ジャパン、亀岡トライアルランド、ヴァルカナイズ・ロンドン、シュアラスター
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