■「センチュリー」新モデル登場の背景とは?
トヨタは2023年9月に「センチュリー」の新モデルを発表しました。
これまでのセダンと併売するカタチで登場する新センチュリーとはどのようなモデルなのでしょうか。
【画像】「えっ…!」 カッコい良すぎ! 斬新デザインのトヨタ「新型モデル」がこれです。(38枚)
2018年登場の3代目「センチュリー」は「センチュリー(セダン)」として継続して製造・販売され、ここに新モデルが追加されたのです。
これら2モデル、同じセンチュリーを名乗っても見た目はまったくの別モノ。
一般的に言えばSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)の雰囲気がありますが、トヨタの中嶋裕樹副社長は「これは、あくまでもセンチュリーというショーファーカー」として、SUVという表現を使いませんでした。
確かに、センチュリーのみならず、グローバルで近年登場してきたショーファーカーの中には、SUVっぽい風貌はしていても、SUVというカテゴリーとは別の世界観を持つモデルが存在します。
こうしたトレンドが生まれた背景には、アメリカでの富裕層によるショーファーカーの活用法があると思われます。
その経緯を紐解いてみましょう。
そもそも、ショーファーカーは欧州の王族、貴族、さらには伝統ある企業の社用車向けのクルマとして独自の進化を遂げてきました。
第二次世界大戦後になると、欧州やアメリカで新しい産業を発展し、そこで富を得た当時の新興企業のオーナー経営者が、新しい時代のショーファーカーを求めるようになります。
時代はさらに進み、70年代から80年代になると、アメリカの西海岸を中心として富裕層がロールスロイス等の欧州系超高級4ドア車を日常の足である、ドライバーズカーとして使うことが珍しくなくなっていきます。
90年代に入るとアメリカでは、ジープ「チェロキー」、フォード「エクスプローラー」、GMシボレー「タホ」「サバーバン」など、ラダーフレームをベースとするライトなオフロードでの走行も可能なクルマを一般家庭で所有するトレンドが生まれます。
あわせて、ピックアップトラックの乗用化も進みます。
当時ビッグ3と呼ばれていた、GM、フォード、そしてクライスラー(現ステランティス)にとっては、ラダーフレームをピックアップトラックと共用でき、さらに様々な装飾を施すことでクルマの付加価値を高められる、新しい稼ぎ頭を育てていきます。
こうしたカテゴリーを、アメリカではSUVと呼んだのです。
当時、米ノースキャロライナ州シャーロットに居住し、フルサイズピックアップトラックで日常生活を送っていた筆者は、アメリカの東部や南部でSUVが急激に増加する様子に驚いたものです。
こうしたトレンドが米西海岸でも広がり始める中で、SUVのゲームチェンジャーが出現します。
それが、BMW「X5」です。
当時、走り味は他のSUVより優れていると評判になり販売を一気に伸ばしていきました。
そこにメルセデスベンツ「ML」、さらにポルシェ「カイエン」が加わったほか、日系プレミアムブランドのレクサス、インフィニティ、アキュラも相次いでSUVに本格参入していきました。
こうしたアメリカでのSUVトレンドが欧州や日本にも伝播していきます。
さらに、2000年代半ば以降、新興国BRICsの経済発展が進み、なかでも中国の経済成長が著しく自動車販売も急上昇していきます。
2010年代になると、買い替え需要として中国でもSUVシフトが加速し、その中でSUVの高級志向も高まっていきました。
このようにして、グローバルでのSUVシフトが進む中、2010年代に入ると2000万円以上級の超高級車の領域でもSUVっぽいモデルへとシフトが始まります。
■ショーファーカーにおけるゲームチェンジャーは?
ゲームチェンジャーは、ベントレーが2012年のスイス・ジュネーブショーでワールドプレミアしたコンセプトモデル「EXP 9F」です。
ベントレーという、世界的なショーファーカーメーカーがドライバーズカーの領域に本格的に参入するのだと、筆者を含めたメディア関係者の捉え方でした。
これがのちに「ベンテイガ」として成功します。
前述のような、70~80年代のアメリカでのショーファーカーをドライバーズカーとして使うトレンドが、グローバルでSUV市場が成熟する中で、”SUVのさらにその先のカテゴリー”を創出したと言えるでしょう。
その後、ロールスロイス「カリナン」が登場したことに対しても、市場変化の中で十分に理解できる流れだと解釈をしたメディアやユーザーが少なくなかったと思います。
また”SUVのさらにその先のカテゴリー”は、スーパースポーツの領域にも及び、ランボルギーニ「ウルス」が成功し、さらにフェラーリ「プロサングエ」の誕生に至ります。
このように、”SUVのさらにその先のカテゴリー”の市場がグローバルで形成されてきた中、日本らしいモデル、そしてトヨタらしいモデルとして、センチュリーに新たなるモデルが登場することに対して、違和感を持つメディアやユーザーはあまり多くないのではないでしょうか。
トヨタは今回のセンチュリー新モデル発表の舞台に、燃料電池車の「クラウンセダン(FCEV)」や「ヴェルファイア(4座仕様)」を並べて、”ショーファーカー群”というブランド戦略を強調しました。
こうした、トヨタのショーファーカーに対する見せ方を受けて、またセンチュリー新モデルの実車に触れてみて、メディア関係者の多くが、センチュリー新モデル登場の意義について腑に落ちたのではないでしょうか。
中嶋副社長はセンチュリー新モデルの需要について「9割がショーファーカー、1割がドライバーズカー」と予測していました。
しかし、実車を見た筆者の肌感覚としては「ショーファーカーとドライバーズカーが五分五分」でも不思議ではないと思います。
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車に詳しい人には酷い厚化粧にしか思われていませんよ。