フルモデルチェンジした新型「ミニ」に加わった、ピュアEV(電気自動車)モデルにサトータケシが乗った。
従来型よりコンパクト
BMWならではのスポーツ性の総決算──新型X1 M35i xDrive試乗記
新型ミニで変化したことのひとつは、クーパーがスポーティなグレード名ではなく、ハッチバック全般を指すようになった点だ。日本市場に導入されるモデルのバリエーションも増え、3ドアハッチバックのミニ・クーパー、ミニ・クーパー5ドア、コンパクトSUVのミニ・カントリーマン、そしてBEV(バッテリー式電気自動車)の都市型クロスオーバーであるミニ・エースマンが発表された。
新しいミニファミリーの特徴は、エースマンは当然として、すべてのモデルにピュアEVをラインナップしていること。今回試乗したミニ・クーパーSEもBEVで、ベースグレードのミニ・クーパーSを34ps上回る、218psの最高出力を誇る。
BMW傘下になってから発表された新世代ミニは、モデルチェンジの度にサイズが大きくなってきた。けれども、今回のミニ・クーパーは、わずか10~20mmではあるけれど従来型よりコンパクトになっている。あわせて内外装のデザインもシンプルになり、かつてのオリジナルミニへの原点回帰を図っているような印象を受けた。
運転席に座ると、まず目に入るのがダッシュボード中央に鎮座する直径240mmの巨大な円形タッチスクリーン。操作系はほとんどこのタッチスクリーンに集約され、物理的なスイッチはスターター、パーキングブレーキ、シフトセレクター、ミニ・エクスペリエンスモード切り替えスイッチ、オーディオのボリュームつまみの5つのみ。
なんでもかんでもタッチスクリーンに押し込むのは使い勝手の観点から疑問なしとはしないけれど、シンプルなインテリアのおかげで運転席からの長めがすっきりすることは間違いない。
他に、ステアリングホイールのスポークの左側に運転支援装置、右側にオーディオや通信系を操作するためのスイッチが備わる。
乗り心地は穏やかなのに気分よく曲がる走り出して驚くのは、しっとり落ち着いた乗り心地だ。跳ねるように元気に駆け抜ける、ゴーカートフィーリングはすっかり影を潜め、路面の凸凹を丁寧にトレースするように走る。さすがに1.6tを超える車重ゆえ、キビキビ走るアジリティは失われてしまったのか……。
と、思いきや、コーナリングの場面では素直にノーズがインを向き、気持ちよく向きを変える。なるほど、フロントにエンジンを置く代わりに、重量物のバッテリーを床下に敷き詰める構造のおかげで、鼻先が軽くなっている印象だ。
ちなみに駆動方式はFF(前輪駆動)で、後輪駆動のほうが効率に優れる(=電費がいい)と、主張するフォルクスワーゲンとは考え方が異なる。このあたり、第二次大戦後のフォルクスワーゲン「タイプI(ビートル)」がリヤエンジンの後輪駆動、そのあとで登場したオリジナルミニがフロントエンジンの前輪駆動だった史実を思い出させて、興味深い。あるいは、オリジナルミニへのオマージュであえてFFにこだわっているのかも……と、想像するのも楽しい。
話が横道にそれてしまったけれど、乗り心地は穏やかなのに気分よく曲がるという、これまでのミニとは違ったキャラクターを獲得している。きゅっと向きを変える個性は少し薄れたけれど、考えてみればゴーカートだって乗り心地がいいにこしたことはないわけで、この乗り味を支持する方も多いはずだ。
このクルマでしか味わえない魅力さらに──。
トグルスイッチでミニ・エクスペリエンスモードを「ゴーカート」モードに変えると、円形タッチスクリーンが巨大な速度計に変わるほか、パワステの手応えが重みを増し、モーターのレスポンスが鋭くなる。
アクセルペダルを踏み込むと、よくデザインされたSFチックなサウンドが室内に響いて、鼓膜を刺激する。クルマ全体がソリッドな印象に一変して、これが新しい時代のゴーカートフィーリングかと、納得させられた。このあたりの演出は、感心させられるほど上手だ。
エンタメだけでなく運転支援装置もしっかり練られていて、前を行く車両に追従するクルーズコントロールは、使いやすいうえに滑らかに作動するから、安心して使える。やはりパワーをコントロールする速さと正確さは、モーターがエンジンを大きく上回るようだ。
一般に、BEVになると他社製品との差別化が難しくなるとされている。モーターのフィーリングは、エンジンほど違いを生み出せない。けれどもミニ・クーパーSEは、デザインや演出などの工夫によって、このクルマでしか味わえない魅力を備えている。繰り返しになるけれど、悔しいくらいうまい。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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