フルモデルチェンジによって大きく進化した新型トヨタ「ランドクルーザー」を、今尾直樹はどう見たか?
40系ランドクルーザーとの思い出
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トヨタ・ランドクルーザーこと“ランクル”は、日本でも別の世界に住んでいる。
そのことに筆者が気づいたのは1980年代半ばだった。その日、トヨタから借りた広報車の70系ランクルを運転しながら街を走っていると、対向車のランクルがヘッドライトをピカピカ点滅させながら近づいてくる。
あれ? と、訝っていたら、すれ違いざま、先方のドライバーがニッコリ微笑みながら手を軽くあげて、こちらにあいさつする。
なんだろう、知り合いでもないのに……。それから、ランクルに路上で遭遇するたびに先方がライトをピカピカさせる。ランクルに乗るひとは、あいさつをしないといけないのか。いまから考えるに、70系は1984年11月に登場している。それまでの40系以来、じつに24年ぶりのモデルチェンジだった。1年後、40直系の70系にもワゴン車が追加設定されている。
これはいわゆるRV(レクリエーショナル・ヴィークル)ブームが始まった頃の話でもあるわけで、ピカピカしてくるランクルが40だったか60だったか、あるいは70だったかは記憶にないけれど、たぶん新しく生まれた仲間を、ランクルのオーナーたちが寿いでいたのだろう。
このとき筆者を悩ませたのは、このような愛好家同士の交歓、あるいは社交に、借り物を運転している自分が参加してよいものか、ということだった。もちろん、あちらが「おはよう」といえば、こちらも「おはよう」と返すのが礼儀であり、返さなければ非礼に当たる。
さりとて、愛好家ではない筆者が、その世界に参加するのもニセモノっぽい。積極的にピカピカするのはよいけれど、あいさつのやり方にも愛好家同士の符丁があるやも知れぬ。点滅回数とか光らせ方によって意味があって、たとえばモールス信号みたいに、筆者のピカピカがたまさか「か・ば」を繰り返し言っている……ようなことになってはタイヘンだ。君子危に近寄らず、ということわざもある。
そこで筆者は、先方があいさつしたら、こちらもちょっと遅れて、いま気づきました、みたいな感じで、ピカピカしてお茶を濁した。自分のでもないのに、自分のみたいな顔して乗るんじゃない! ランクルは好きか? 好きでもないのに乗るんじゃない!! 筆者はそういう、バレたら怒られる、というような不安、ま、妄想ですね、にとりつかれ、前方にランクルを発見するたび、うつむくのだった。
70系ランクルは、筆者にとってトラックに等しかった。試乗記のためではなくて、水原弘とか由美かおるとかのホーロー看板を探しに奥多摩方面まで探検に行くという企画のコスプレ用に借りたこともあって定かではないけれど、このときの広報車はたぶん、ショートボディのバンをベースにしたワゴンだったはずだ。
エンジンは2.4リッターの4気筒ターボ・ディーゼルで、まだグロー・プラグが付いていて、始動にはダッシュボードの右端のオレンジ色のランプが消えるまで待たねばならなかった。ワゴンは板バネからコイルに変更していたはずだけれど、リジッドのサスペンションの乗り心地は堅く、コモンレール方式以前の4気筒ディーゼルはガラガラうるさくて非力だった。最高出力は85ps、最大トルクは19.2kgmしかなかったのだから無理もない。5MTの1速は発進用、もしくは脱出用で、加速がすぐに頭打ちになるところもトラックぽかった。
40系ランクルこそ、地上最強の乗り物で、ヨンマルがあれば、いつ、いかなるときも、どこにでもいける。これこそ自由の象徴だ。と、主張する、「ランクル大王」を名乗るカメラマンの守屋裕司さんと会ったのは、それから数年後のことだ。
40はフレームのフロント・ミドにエンジンを搭載していて、つまりこれはスーパー7、ピュア・スポーツカーと同じである。
当時、サハラ砂漠を横断するパリ・ダカール・ラリーが人気だったけれど、そこに出るクルマのサポート・カーはどこのメーカーもランクルを使っている。ランクルはノーマルのまま、工具と部品を満載して競技車両と共に走り、完走する。どっちがエライ? と守屋さんはビールを飲みながら語った。
先代の正常進化型
それから、だいぶ年月がくだって、2007年9月に200系ランクルが登場し、山梨県の富士ヶ嶺オフロードで開かれた試乗会に筆者も参加した。
このとき、開発のためにランクルが活躍している世界の過酷な現場を飛び回って調査してきたという担当者の方が、ランクルがいかに必要とされ、いかに愛されているかを熱く語るのを聞いた。
「『レンジローバー』は意識しますか?」
と、たずねたら、較べるべくもない。まずもって台数が違う。ランクルのオーナーのなかにはレンジローバーを持っているひともいるけれど、それはいわばよそ行きで、ランクルは生活の必需品である。すこぶる頑丈で、耐久性、信頼性に富み、未舗装路を延々走り続けることを得意とする。どっちがないと困るかといえば、ランクルである。というような意味のことを誇らし気にお答えになった、と、筆者は記憶する。
200系ランクルが発表された頃、ランクルの盗難に遭う率の高さが新聞でも報道された。実際、ウチの近くでも盗まれた。それも家の前に駐車していたのに……という近所の噂話をウチのおくさんから聞いたのもこの頃のことだ。
そんなわけで、このたび、約13年ぶりに全面改良を受けた新型ランドクルーザーが、先代の正常進化型として登場したのはごく自然な成り行きだと筆者は思う。300系と呼ばれる新型のプレスリリースの冒頭に、“「どこへでも行き、 生きて帰ってこられること」を使命としてきた”とあるのは、ランクルの使われ方からして大袈裟でもなんでもない。ランドクルーザーの本質は、「信頼性・耐久性・悪路走破性」であり、新型ではその本質を引き継ぎながら、“世界中のどんな道でも運転しやすく、疲れにくい走りを実現”したというから頼もしい。
興味深いのは、ラダー・フレームから一新しているというのに、4950mmの全長と2850mmのホイールベースを変えなかったことだ。居住空間については不満がまったくなかったのだろう。1980mmの全幅は先代比100mm広がっているけれど、1665mmの前後トレッドは20mm程度の拡大でしかない。新型ランクルが旧型よりスタイリッシュに見えるのは、およそ50mm増となった1925mmの全高に対して、全幅増の割合が大きいからにちがいない。225mmの最低地上高は同一で、ホイールは大きくても20インチ、標準を18インチとしているのは機能優先の証だ。
カルト的人気は当然か
設計上の目玉は、パワートレーンの搭載位置を車両後方に70mm、下方に28mm移動して、前後重量配分と重心の最適化を図っていることだ。
これぞ、「もっといいクルマをつくろう」というTNGA(Toyota New Global Architecture)思想のキモである。ボディのボンネット、ルーフ、ドアはアルミ製とするなどして軽量化を図ってもいる。V8からV6に切り替えたこともあって、車両としては約200kgのダイエットに成功しているという。
もっとも、スペック表を眺める限り、いちばん軽量なモデルで2360kg、いちばん重いので2560kgあるから、ヘビー級であることは疑いない。
サスペンション形式は、先代同様、フロントがダブル・ウィッシュボーンの独立、リアはリジッドを貫いている。オフ・ロードの耐久性を考えると、リジッドにまさるものはないのだろう。
エンジンは2種類のV6ツイン・ターボを用意している。ひとつは、レクサス「LS500」にも使われている3.5リッターのガソリン・ユニット、V35A-FTSをトルク重視に仕立て直したもので、最高出力415ps /5200rpmと最大トルク650Nm/2000~3000rpmを発揮する。LS500比、最高出力は7ps控えめだけれど、発生回転数は800rpm低くなり、最大トルクは50Nm分厚くなっている。
もうひとつは、3.3リッター・ディーゼルで、う~む、ここへきてトヨタが国内にも投入するとは……という驚愕のエンジンである。完全新開発のコモンレール式ディーゼル、F33A-FTVという型式名のこちらは、ボア×ストロークが86.0×96.0mmと、ガソリンのV35A-FTSの85.5×100.0mmとは異なっていて、309ps/4000rpmの最高出力と700Nm/1600~2600rpmというインプレッシヴな最大トルクを生み出す。
どちらも10速オートマチックを組み合わせることで燃費を稼ぎ出そうとしていて、トヨタお得意のハイブリッドの設定はない。
1951年、警察予備隊、のちの自衛隊向けに計画されたトヨタ・ジープBJ型の発売からまるっと70年、ランクルは21 世紀に入ってなお、“どこへでも行き、生きて帰ってこられること”を使命だと公言し、愚直なまでにその使命をまっとうしようとしているのだ。
このようなクルマがカルト的人気を博すのもまた当然であり、しかも約13年ぶりの新型である。発売当初、大人気となるのも、これまた当然であろう。ランクルはレクサス・ブランドも含めて現在、年間30万台以上が世界170の国と地域で販売されていて、累計販売台数は1000万台に達している。
日本国内の買い替え需要だけでも膨大だろうし、買い増しも多々あるだろうから、ランクル人気は当面続くにちがいない。
文・今尾直樹
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みんなのコメント
そんな中、日本らしい故障の強さと走りのタフさは
治安の悪い地域でこそより安心感を得られる。
ましてこの価格(海外での売値は知らんが)。
治安悪ければ悪い国ほど乗りたい頼れる車だと思う。
先進国で売れるのは理由はコスパと知名度なので
ちょっとお飾り感が強くなっちゃうね。
日本の場合の多くは、その所有者の威厳を保つ為のアクセサリーの一つのように思われる。