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日帰り700km走破して分かったフィアット「パンダ・クロス4×4」の実力を教えます

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日帰り700km走破して分かったフィアット「パンダ・クロス4×4」の実力を教えます

■ハズシのSUVだけれどもアタリのSUV

 こうまでSUVが幅を効かせるようになると、カテゴリーのなかに1台や2台、ちょっと欲しいモデルだとか気になるモデルが、誰の気持ちのなかにもあったりすることだろう。VAGUEの読者の間では、メルセデスのGやレンジローバー系といった、いわゆるプレミアム系の人気が高いのかも知れない。確かにGもレンジも魅力的だ。

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●一番推しのSUVは「パンダ・クロス4×4」

 が、僕はといえば、2021年4月に発売されたフィアット「パンダ・クロス4×4」に、ちょっとばかり気を惹かれている。モードグレーというシックだけど鮮やかなグレーのボディカラーが魅力的に感じられることがかなり後押ししているところもあるけれど、やはり決定打なのは、ベースのパンダの4駆が、実は誰もが想像するより遙かに総合得点の高いクルマであるのを知っちゃってること。全長3705mmに全幅1665mmとナリは小さいけど、なかなか侮れないクルマなのだ。同じクラス、同じ価格帯にある4WDモデルでは、コスパも断トツなんじゃないか? と思う。

 3代目パンダの4WDモデルは、限定車というカタチでこれまでも何度か日本に導入されている。パンダ・クロス4×4もその流れにあって、2020年秋にイエローのモデルが150台限定で発売され、すでに完売。ついで今度のモードグレーが導入されて、そちらも215台の限定だ。

 パンダ・クロス4×4がベースの「パンダ4×4」と決定的に違うのは、“クロス”の名前が示すとおりの、ちょっとばかりワイルドなオフローダー風味のルックスが与えられているところだろう。ヘッドランプ周りを黒で縁取り、その目元にフォグランプを埋め込み、フロントバンパーの下側にはシルバーのスキッドガードを備え、そこに左右一対の赤いトウフックを埋め込んでいる。リアバンパーもスキッドガード風のデザインとなり、コンビネーションランプもフロント同様、黒のプロテクションで覆っている。これを普通のクルマでやると後付け感たっぷりのわざとらしい感じになっちゃいそうなものだけど、そうは思わせず、ヤンチャなイタズラ坊主みたいな微笑ましさを見る人に感じさせる辺り、パンダ特有のキャラクターなのか、イタリアンデザインの妙なのか。

 でも、このスタイリングのアレンジは、単なる演出じゃなかった。アプローチアングル24度、デパーチャーアングルが34度という数値。それは通常のパンダ4×4よりそれぞれ1度ずつ高い値だ。わずかに思えるかも知れないが、走破性の向上にも繋がっているのである。ルーフレールがキャリアやボックスを取り付けやすい形状のハイトの高いものへと変わっている辺りからも、パンダ・クロス4×4がアウトドアでの時間をさらに楽しめるよう考えられたモデルであることが判る。

●イタリアでは「ジムニー」のように愛されている

 そもそもパンダ4×4は、あくまでもパンダを基礎にしてはいるものの、単なる生活4駆とは一線を画する走破性が与えられたモデルなのだ。イタリアでは、日本のジムニーのような愛され方をしていたりもする。最低地上高はFFのパンダよりグッと嵩上げをした161mm。通常は前輪98:後輪2の駆動を送り、走行状況や路面状況に応じて駆動力の配分を瞬間的に変化させる、トルクオンデマンド式のフルタイム4WDシステム。駆動力に有利な低いギアレシオを持つ6速マニュアルトランスミッションと、アイドリング付近から粘り強いトルクを生み出すツインエア・エンジンの組み合わせ。悪路の王者ジープにはとても及ばないけれど、僕達が週末の野遊びに出掛けて足を踏み入れるぐらいの悪路なら大抵クリアできてしまうくらいの走破性は与えられている。

 しかもパンダ・クロス4×4には、従来のパンダ4×4にあった電子式デフロックのスイッチに代わり、ドライブモードのセレクターダイヤルが備わった。通常走行のための「オート」、4WDの駆動力配分のレスポンスを高め、それぞれにブレーキ制御をかけて空転を抑えるLSD的な機能も働く「オフロード」、足元の悪い下りの急坂などで自動的に細かく絶妙にブレーキを介入させて安全性を高める「ヒルディセントコントロール」の3つの走行モードを選べるよう進化した、というわけだ。

 実は3月も半ばを過ぎてから、僕はイエローのパンダ・クロス4×4で往復750km少々を走り、シーズン最後の雪景色のなかにいってきた。新型コロナウイルス感染症のおかげで真冬の一番いい時期に雪上へと突入することができなかったので、わざわざ雪の残るところを探したのだ。小さくてヤンチャなパンダが雪上ではどんなものか、以前から試してみたかったのである。

 雪が分厚く積もった路面、凍った路面、陽当たりによる雪融けでドロドロになった路面、それらのハイブリッドなど、滑りやすいところをたっぷり走って感じたのは、これ欲しいかも……だった。

■「パンダ・クロス4×4」は、ファーストカーとしてオールマイティな実力

 パンダ・クロス4×4の4WDシステムと駆動に関する制御系は、おそらく誰もが想像するより優秀だ。4輪それぞれが駆動の具合を素早く絶妙に変化させながら、しっかりと足元を踏みしめて前へと進んでいく。その様子がきっちりと伝わってくる。微速域でラフにアクセルペダルをグイと踏み込んでも、前輪の空転は一瞬だけ。ほぼ同時に後輪の駆動が立ち上がって、何事もなかったかのようにスルスルと加速していく。姿勢を乱してみようと試みても、どこかが滑ればどこかが瞬時に補う感じで、破綻させる方が難しいくらい。

 どんなクルマでも一緒だけど、クルマの動きっていうのは物理の法則から逃れられない宿命にあるのだから、当然ながらいずれはどこかで破綻は来るだろう。が、そこまで持っていって何かあるとしたら、原因は間違いなくドライバーの無謀だろ、と思えたほどだった。

 とはいえ、その頼もしさだけに惹かれたわけじゃない。雪のある場所までの道すがらで「やっぱりいいな」と思わされ、帰り道で「うーむ、初めて気づいた」と唸らされた。

●パンダ・クロス4×4の4WDの「やっぱりいいな」

「やっぱりいいな」の筆頭は、ツインエア・エンジンと6速マニュアルトランスミッションの組み合わせだ。直列2気筒875ccターボ、85ps/5500rpmに145Nm/1900rpmに過ぎないこのエンジンが意外や速いということは、クルマ好き達の間ではよく知られている話。

 低回転域から中回転域では粘っこいトルクを沸き立たせ、中回転域から高回転域にかけても望外の勢いを見せてくれるから、街中でも扱いやすく走らせやすし、高速道路でも巡航しやすいしじれったさもない。音は素晴らしく静かとはいい難いし振動も伝わってくるが、それは個性と思える類のモノだし、総じて出来映えは優秀だ。トランスミッションのギア比がFFモデルの2ペダルMTより全体的に低い設定だから、中間加速も素早くなっている。静止状態から100km/hまでの加速タイムは12秒。実用ベースのこのクラスのクルマとしては、そこそこ以上に優れた数値といえるだろう。今回も走っていて不満らしい不満を感じることはなかった。

 もうひとつはフットワークだ。雪景色に出逢うまでには山を幾つか越えるワインディングロードを駆け抜ける必要があった。そもそもFFのパンダはその姿には不釣り合いなフットワークを見せることで玄人筋でも高い評価を得ているクルマだが、パンダ・クロス4×4は最低地上高確保のために車高=フロア高を持ち上げているのだから、当然ながら重心高も高くなっているわけだ。グラつきが大きくなっていたり揺り戻しが出てきたりしてもおかしくはない。

 なのに、確かにロール量こそ大きくなっている気はするものの、その動きはとても自然で解りやすいし、嬉しいことに元々の持ち味がしっかり残されているのだ。ステアリングを切り込んでいくと、とくにシャープというわけではないものの、素直なフィールを感じさせながらすんなり気持ちよく曲がってくれる。そのときの腰をしっかりと粘らせながら長い脚で路面を捉えていく安定した曲がりっぷりも素晴らしい。ハンドリング、なかなか気持ちいいのだ。マニュアルトランスミッション特有の“操縦してる”感もあって、パンダ・クロス4×4で走る峠道は充分に楽しいといえる領域にある。

●パンダ・クロス4×4の4WDの「うーむ、初めて気づいた」

「うーむ、初めて気づいた」の方はどうかといえば、乗り心地である。こればかりはロングを走ってみないと判らない。750kmのドライブは、実は日帰り。その終盤、東京の自宅までおよそ100kmとなった辺りで、ふと気づいたのだ。あれ? 走った距離のわりには疲れてないな……と。

 最低地上高を稼ぎ出すのに伴ってサスペンションのストローク量を大きくしているわけだが、おそらくそれをキッチリ活かしていて、しなやかに路面の凹凸を吸収し、不快な衝撃として伝えてくることがほとんどない。クルマそのものの高速走行時の直進性がいいこと、ステアリングの座りがよくて反応も機敏すぎないこと、シートが上手く身体を沈み込ませて安定させてくれること、車体がコンパクトで視界もいいから気疲れが少ないこと、なども要因なのだと思う。意外なことにグランドツーリングも得意科目なのだ。

それでいて価格は263万円。冒頭に近いところで「コスパ断トツ」と早々申し上げたその理由を、分かっていただけただろうか? これまでにも様々なSUV、様々な4WDモデルにも試乗してきている。そのなかに魅力を感じたクルマがたくさんあることだって自覚している。けれど今、「SUVの推しを1台あげろ」といわれたら、僕はフィアット・パンダ・クロス4×4を選ぶだろうな、と思う。

 ちなみに絶妙な色味のモードグレーの売れ行きは好調で、そう遠くないうちに完売するんじゃないか? という話も伝わってきている。気になる人は、急いだ方がいい。

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