日産のビッグネームであるコンパクトカーのマーチが苦境にあえいでいる。2010年のデビューだから、2020年で10年目となる。
マーチは欧州ではマイクラという車名で販売されていて、マイクラは2017年に新型に切り替わっているが、そのモデルを日本に導入するという噂すらない。
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歴代マーチはある時は実直に、ある時は奇抜なまでにデザインコンシャスに仕上げられ、日本のコンパクトカー界をけん引してきた。
特に注目したいのが、2代目マーチで堅調な販売をマークした裏には、さまざまな特装したカスタマイズカー、派生車を登場させていたことは見逃せないポイントだろう。
というわけで当記事では現行マーチの苦境とあまりにも対比的な、歴代日本車でもっともボディタイプが多かったかもしれない、2代目マーチのバリエーションを振り返る。
文:永田恵一/写真:NISSAN、AUTECH JAPAN
【画像ギャラリー】2代目マーチはチューニングベース、カスタマイズカーのベースとしても大人気だった!!
現行マーチの低迷ぶり
2010年7月にデビューした現行マーチは4代目となる。タイ生産のモデルを日本に輸入するかたちで日本で販売を開始したが、クォリティダウンは否めなかった
現行マーチは2010年8月に日本車だとトヨタパッソ&ダイハツブーン、三菱ミラージュと競合するコンパクトカーでも小さいクラス、欧州流の表現ではAセグメントに属するモデルとして登場した。
現行マーチはタイで生産される輸入車で、新開発の1.2L、3気筒エンジン+アイドリングストップによる燃費は確かに優れていた。
しかし燃費以外は見える部分、走行性能といった全体的なクオリティの低さに加えその割に安くもないと、魅力が非常に薄い。
2013年のマイナーチェンジで、日産車のアイデンティティであるVモーショングリルが盛り込まれたタイプに変更され初期型よりも好評
それでもマーチは2014年まではまずまず売れていたのだが、2015年から販売台数は明らかに下降し始め、2019年は2016年登場のトヨタパッソの現行モデルが4万980台売れたのに対し、マーチは9343台しか売れなかった。
これは現行マーチ自体の魅力の乏しさに加え、大きな改良や変更は2013年にフェイスリフトとオーテックジャパンが架装などを行うNISMOが加わったことくらいしか浮かばない。これでは厳しいのも当たり前。
日産車ではライトバンのNV150 ADにすら自動ブレーキが付くのに、現行マーチにはいまだ設定されていない。
これらのことを総合すると魅力に乏しいうえにテコ入れも行われない現行マーチが売れないのは当然で、マーチが輝いていた頃を知っている者としては胸が痛む。
2013年にNISMOとNISMO Sを追加。NISMO Sは1.5L専用エンジン+5MTで魅力的ながら、マーチ本体の埋没により、いいクルマなのに注目度が低いのが残念
2代目マーチの豊富なバリエーション
現在日本では3ドアハッチバックのコンパクトカーはないが、1990年代までは当たり前だったのが懐かしい
歴代マーチでも特に2代目モデルは日産の低迷期に販売されたモデルかつバブル景気の最中に開発されたモデルながら、浮ついたところがなく全体的にとても堅実なモデルだったことを大きな理由に最後まで好調に売れ続けた。
そして現在の日産がマーチを半ば放置プレー状態にしているのとは対照的に、あの手この手でユーザーを獲得しようと必死だった。
2代目マーチは1992年1月に 基本となる3ドアハッチバック(これも今になるとあったことが懐かしい)と5ドアハッチバックが登場した後にカスタマイズカー、派生車を矢継ぎ早に投入している。
初代同様に3ドアとリアの乗降性、利便性に優れている5ドアハッチバックを設定。写真は後期型で、グリルのデザインが違う
オーテックの奮闘が光る!!
2代目マーチのバリエーション展開を語るうえで欠かせないのがオーテックだ。オーテックは現在も日産車にプレミアム性を与える特別なブランドとして認知されているが、2代目マーチではとても精力的にモデルを製作している。
2代目マーチでオーテックが手掛けたモデルは、古い順に、タンゴ(1996年)、ボレロ(1997年)、ルンバ(1998年)、ポルカ(2000年)と4タイプも存在している。
オーテックジャパンの30周年記念モデルはマーチボレロA30で、2016年に30台限定で販売された。数ある日産車からベース車にマーチを選んでいることからもオーテックにとってマーチが特別な存在であることがわかる。
356万4000円で30台が限定販売されたマーチボレロA30はすぐに完売。全幅はノーマルの1665mmに対し1810mmまで超ワイド化。エンジンも1.6Lを搭載
タンゴ(1996年)
オーテックジャパンが初めて手掛けたマーチで、盾のような形状のグリルやメッキパーツの多用などにより、懐かしさを特徴としたモデル。
『街がもっと楽しくなる。懐かしさが薫るマーチ』というのがキャッチコピーだった。
ヴィヴィオビストロの登場以来、ネオクラシックブームとなったが、マーチのネオクラッシック路線の第1弾がこのタンゴだ。
盾形のグリルが独特の表情を作り出している。そのグリル、バンパー、ミラー、ホイールにはメッキパーツがふんだんに使われている超個性的なマーチだ
ボレロ(1997年10月)
マーチのネオクラシック路線の第2弾。
丸いヘッドライトやテールランプの採用、グリルの変更、木目部品を使ったインテリアによりクラシカルな雰囲気を持つモデルだ。
2代目マーチにボレロが設定されて以来、ボレロは3代目、現行4代目マーチにも設定されている。ボレロはマーチのもはや定番と言っていい。
ネオクラシックブームの到来に合わせて市販化したボレロ。現行にも受け継がれているマーチボレロのご先祖様的存在だ
ネオクラシックを謳うからには、ウッド類は必須アイテムで、ステアリング、センターコンソールにあしらわれていた。シート素材も専用となる
ルンバ(1998年11月)
マーチのネオクラシック路線の第3弾がルンバ。
丸いヘッドライトとテールランプ、大きなグリルなどを持つ個性派。軽快なリズムを奏でそうなルンバという名前もナイス!!
ボレロを踏襲する丸型ヘッドライトにボレロとは違う横型の格子グリルを採用。ヘッドランプ回り、グリルは当然メッキパーツとなる
小さな丸灯を縦に配置したルンバのリアコンビランプ。鉄チンホイールはボレロ譲りだが、ボレロよりもいい雰囲気を出している
ポルカ(2000年12月)
ネオクラシック路線の第4弾で、2代目マーチで最後のモデルのポルカは、ルンバから約2年の間を置いて市販化された。
丸いヘッドライトと細長いメッキグリル、タータンチェックのシート地やドアトリムによりレトロ感とカジュアルな感覚をミックスしたモデル。
ボレロ、ルンバとはデザインテイストが大きく違うのが特徴。
オーテックのモデルに続いては、派生車について見ていこう。
ボレロ、ルンバとは明らかにデザインテイストが違う。丸型ヘッドランプの上方にウィンカーを独立させ、フロントマスクをより個性的に仕上げている
ポルカのインテリアは、目にも鮮やかなチェック柄のシートを採用しているのが最大の特徴で、ドアの内張も同じチェック柄となる
マーチカブリオレ(1997年8月)
初代マーチではキャンバストップが設定されていたが、2台目ではロールバーの残るソフトトップタイプのオープンモデルを市販化
電動ソフトトップを持つ4人乗りのオープンモデルで、ボディ側面中央にロールバーが付く点も含めゴルフ4までにあったカブリオを小さくしたようなモデルだ。
価格もCVTで約180万円とそれほど高くなかったが、残念ながら1年ほどで絶版となってしまった。
なお3代目マーチでは2007年にイギリスからの輸入という形で電動メタルトップのマイクラC+Cが1500台限定で販売され、マーチカブリオレのポジションを引き継いだ。
3代目マーチでは電動のメタルトップを装備。マーチの名前ではなくマイクラC+Cとしてイギリスから輸入する形で日本で販売
マーチジューク(1997年12月)
グリル、ボンネット、ルーフ、ホイールキャップが赤、それ以外の部分は黒のボディカラーとなる特別仕様車。この配色はインパクト抜群!!
SUVのジュークの名前は、2代目マーチで登場ずみだった。マーチジュークの趣はつい最近日本では生産終了となったそのジュークのツートンカラーに通じる斬新さも感じる。
写真では見えにくいが、ルーフも赤となる。この配色の斬新さはかなりのレベル。賛否はあれどもこのアグレッシブさこそ今の日産に必要だと思われる
マーチBOX(1999年11月)
2代目マーチの5ドアハッチバックのリアオーバーハングを延長し、ステーションワゴン化したモデルで、生産はマーチカブリオレ同様に高田工業が担当(Be-1、パオ、フィガロといったパイクカーも高田工業の生産だ)。
ちょっと不格好だったことに加え、ステーションワゴンとしては中途半端な感も否めず、後継車は登場しなかった。
マーチの5ドアのオーバーハングを延長しステーションワゴン的モデルとして販売されたマーチBOX。このクルマのチャレンジングだった
MujiCar1000(2001年5月)
無印良品を展開する良品計画が企画した、インターネット経由で販売された1000台限定車。
日産のエンブレムは外され、専用グリルに加えマーブルホワイトのボディカラーや無塗装のドアミラーとバンパー、ダブルフォールディングもするビニール表皮のリアシート、ビニール張りのラゲッジスペースを持つなど、いかにも無印良品らしいシンプルかつ機能的なモデルだった。
また、日本では販売されなかったが、2代目マーチの台湾生産車にはBOX同様にやや不恰好ながら4ドアセダンもあった。
日産のエンブレムは外され、シンプルイズベストを地で行くMujiCar1000。贅沢になった今の時代だからこそ、この質素さがウケるかも
日本で販売されなかった台湾生産のマーチ4ドアセダン。お世辞にもカッコよくないが、ニーズがあると思えば猛進する日産が懐かしい
まとめ
2代目マーチのバリエーションの充実振りは特にモデルサイクルの中盤以降が活発で、「マーチが売れていたから頼りにされ、扱いもよかった」という好循環もあるにせよ、今になるとこういったことも2代目マーチが最後までよく売れた小さくない要因だったと痛感する。
現在は環境性能や安全性といったクルマに求められる要件が当時とは段違いなこともあり、ボディタイプを追加するどころか衝突安全や歩行者保護もありフロントマスクを変えることすら大きな投資を必要となる。
2017年から欧州ではマイクラは写真の新型に切り替わっている。残念ながら日本への導入の可能性は限りなくゼロに近い。みんなに愛されるマーチの再来に期待したい
という点を考えると、もし次期マーチがあるのならボディを増やす、変えるのを求めるのは酷にせよ、歴代マーチのように最初から魅力のあるクルマとしたうえで改良や追加といったアフターケアもシッカリと行って、心機一転して愛されるクルマに生まれ変わってほしいところだ。
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