クルマの乗り心地を大きく左右するサスペンション。
そのスプリングを、コイル・リーフ(板状)・トーションバー(ねじり棒)といった機械的なものではなく、空気バネとしたエアサスペンション(通称エアサス)は、「ごく限られたクルマのもの」というイメージが強いかもしれない。しかし、現在では技術の進化により、特に輸入車の高級セダンなどで増加傾向だ。
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そこで、本稿ではエアサスの最新事情を、その長所と短所や近年の進化なども交えながら紹介していきたい。
文/永田恵一
写真/Daimler、TOYOTA、HONDA
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エアサスのメリットとデメリットは?
画像はメルセデスベンツのエアサス、「AIRMATIC」のアダプティブダンピングシステム。物理的なスプリングではなく、“空気のバネ”と電子制御ダンパーで優れた乗り心地を実現する
エアサスを自動車用として世界で初めて実用化したのは、1986年に登場したトヨタソアラの2代目モデルである。その後、エアサスは日本車から装着例が増えた。
長所としては、コイルスプリングでいうバネレート=スプリングの硬さを走行状態などに合せて調整できる(ノーマルモード/通常走行用の柔らかめ、スポーツモード/硬め、トラックなら積み荷の量によって等)ことがあげられる。
また、車高調整が可能なので、重さに左右されず一定の車高を保つことができ、走行状態などに応じた車高を選べる。
前者はステーションワゴンなどでもありがたい機構で、後者はSUVで挙げると、悪路走行時/上げる、乗降時や高速走行時/下げるといった具合で、乗降時に車高を下げるのはSUVでは荷物の積み卸しの際にも都合が良い。これは路線バスが停留所で左側だけ車高を下げて乗降性を高めているのも同じような話だ。
また、センチュリーのような高級車では乗降の際にリアシートに乗るパッセンジャーのお尻が乗り降りしやすい高さになるよう、車高を若干上げることもある。
なお、エアサスの車高調整機能は、その良し悪しは別にして、エアサスコントローラーなどと呼ばれる商品を加えることで、上下の調整幅をさらに大きくできる場合もある。
そのためエアサスに電子制御タイプなどの可変ダンパーを組み合わせると、サスペンションをセッティングできる幅の自由度がかなり広くなるというのは大きなメリットだ。
いっぽう短所は、エアを供給するコンプレッサーなど高価な部品が増えるだけに、当然ながらコスト=価格が高いことだ。
また、エアサスは部品点数が増え、構造が複雑になるため機械式のスプリングに対し、信頼性や耐久性の面でも劣る。初期のエアサスには悪い意味で船のようにフワリフワリとしたフィーリングがあり、これを嫌う人もいた。
ただ、フィーリングに関しては技術的な面もあったにせよ、機械式スプリングとの差別化や当時の日本人がそういったフィーリングを好んだという面も大きかったように感じる。
技術の進化でエアサスのメリット際立つ
こちらは一般的な機械式のスプリングを用いたサスペンション。コストや信頼性では一日の長があったが、近年はエアサスの進化でその差はなくなってきている
そのため、現代のエアサスは、技術が進んだことや前述したセッティングの自由度の広さもあり、「普段はエアサスらしく柔らかいけど、走行モードを変えるとコイルスプリングよりもシッカリ感のあるもの」や、「機械式のスプリングなのかエアサスなのか分からない」というものが多く、エアサスのメリットがより目立つようになっている。
これはクルマのメカニズムにおいて、「電子制御のほうが機械式よりも将来性や発展性があるなど、本当は優れているけれど、初期のものは嫌う人も多い」というのに似ている。
例えば、現在日本で販売される新車で使っていないモデルはないといってもいい機構のひとつに電子制御スロットルがある。
アクセルペダルとエンジンの出力制御を行うスロットルバルブを、機械的なワイヤーではなく電気信号でつなぐ同機構は、当初アクセル操作に対するレスポンスが悪いなどの不満をよく聞いた。
しかし、何らかの事情もありそういったセッティングだっただけで、本来電子制御スロットルは機械式スロットルのようなフィーリングも可能だ。
さらに電子制御スロットルはソフトウェアでエコモードやスポーツモードなども用意でき、トラクションコントロールへの発展や、クルーズコントロールの装着も容易など、発展性は広く、今では特に不満を聞くことはなくなった。エアサスの進歩もそれと似たようなものなのではないだろうか。
現在の代表的なエアサス装着車は?
高級セダンとして極上の乗り心地が求められるトヨタの現行型センチュリーもエアサスを採用
現在、エアサスを装着している主な新車は以下のとおり。
【トヨタ】
センチュリー、ランドクルーザープラド(リアのみ)、ノア・ヴォクシー・エスクァイア(車椅子対応スロープ仕様車のリア)
【レクサス】
LS、LX
【メルセデスベンツ】
Eクラス、Sクラス、マイバッハSクラス、C&E&Sクーペ、CLS、GLC、GLE、GLS、EQC(リア)、AMG GT4ドアクーペなど
【BMW】
5シリーズツーリング、7シリーズ、X5、X7など
【アウディ】
A8、Q7、Q8など
【ポルシェ】
パナメーラ、マカン、カイエンなど
【ランドローバー】
ディスカバリー、ディフェンダー、レンジローバーヴェラール、レンジローバースポーツ、レンジローバー
【ボルボ】
XC60、V90(リア)、V90クロスカントリー(リア)、XC90など
このように、昔は日本車が多く、輸入車には少なかったイメージのエアサス装着車だが、現在は信頼性と耐久性の向上もあり、特に輸入車で増加する形で、総合的に見るとエアサス装着車は増えている印象だ。
エアサスは今後も増えるのか
こちらもエアサスを採用しているメルセデスベンツの新型Sクラス(全長5180×全幅1920×全高1505mm/ホイールベース3105mm)
エアサス装着車の傾向としては、やはり高価な装備だけに、価格で言えば1000万円近くからのプレミアムブランドに多く、そのなかで前述のメリットが生きるラグジュアリーセダン、ステーションワゴン(リアのみが多いのは荷物をたくさん積んだ際に車高を保つ意味も大きい)、SUVがよく装着している。
また、エアサス装着車はメルセデスと比較するとBMWでは少ないなど、そのブランドのキャラクターや方針が見えるのも面白い。いずれにしても輸入車を中心とした1000万円近くからの高額車でのエアサスの装着は、今後も増えていくだろう。
なお、昔からアフターパーツのエアサスを装着したり、「エアサスが故障したので、そのクルマに普通のサスペンションがあればそちらに交換する」といった例もあるが、スプリングの形式は1台の市販車でコイルとエアサスがあればクルマ自体の型式が異なるくらい重要なものだ。
そのため、普通のサスペンションからエアサス、エアサスから普通のサスペンションとする場合には、車検証上の構造変更や記載変更も必要なので、この点も覚えておきたい。
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