2018年3月、4月の海外での痛ましい事故を契機に、その是非についての議論もひと段落した感のある自動運転。「安全なクルマ社会」という観点から見て、その自動運転への橋渡し役でありながら、しかし自動運転とは別に独自の発展を続けている「先進安全装備」と呼ばれる技術群がある。
現在実用化されている先進安全装備には、衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール、定速走行・車間距離制御装置)、LKA(レーン・キーピング・アシスト、車線維持支援装置)、駐車支援システムといったものがある。
意外な車に名機の息吹あり! あの車と同じエンジンを積む異端車
今回はそのなかでもACCとLKAの2つにフォーカスし、国産車3台、輸入車2台を使っての徹底的な比較テストを行った。テストドライブを引き受けてくれたのは、自動車評論家であり、またレーシングドライバーでもある松田秀士氏だ。
こうした機能について知ることは、家族を守り、自らを守り、ひいては社会を守ることにも繋がる。ぜひ参考にしていただきたい。
TEST項目
・ACCが全速度対応か?
・全速度対応の場合に渋滞時走行車間距離
(最短セット)は?
・LKAの対応速度は?
・高速走行時のLKAのセンタリング
(車線内中央維持)レベルは?
・ACC自動ブレーキ作動時の減速フィールは?
※本稿は2018年5月のものです
文:松田秀士、永田恵一、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年6月10日号
■ドライバーの疲労を軽減し「安全」に直結するACCとLKA
(TEXT/松田秀士)
自動運転が注目されているが、自動運転を前提としたさまざまなデバイスが新型車には続々と投入されている。それらを運転支援システムなどと呼んでいて、そのなかでもボクが注目しているのがACCとLKAだ。
ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は前走車との車間距離を一定に保ちつつ速度調節を自動で行う機能。またLKA(レーン・キーピング・アシスト)は車線内の中央を維持して走行するように、自動的にステアリング操作をアシストしてくれる機能だ。
クルマの運転はいくつもの操作を同時に行うもので、さまざまな情報を脳が処理して命令を下している。ACCによって前車との速度調節&車間距離をクルマに任せ、LKAによって無意識に行っている車線内を真っすぐ走るためのステアリング操作を補助。
ACCとLKAによって頻繁に行う必要のある運転操作への負担を軽減することで、脳の情報処理を軽く速くすることができる、と考えている。
つまり、反応が早くなり、疲労を軽減できるのでトータルで安全運転に繋がるのだ。
■トヨタ セーフティセンス(アルファード)の場合
(TEXT/松田秀士)
トヨタの安全装備にはこれまでTSS(トヨタセーフティセンス)Cとその高機能版のPの2種類があったのだが、新しく第2世代となったTSSにはLTA(レーントレーシングアシスト)がプラスされた。
TSS Pでは車線から逸脱しそうな時にアラートとステアリングサポートを行っていたが、第2世代TSSは車線内の中央走行を維持するようハンドル操作をサポートするところが新しい。これは単眼カメラとミリ波レーダーによるサポートだが、夜間の歩行者と昼間の自転車を感知して自動ブレーキも作動させるのだ。
ACCは全車速対応で、LKAは50km/h以上で作動させることができる。試乗してみるとLKAの機能はとても優秀で、高速道路ではしっかりと車線の中央を維持して走行する。
また緩やかなカーブでも、前走車がいなければ車線中央を維持してコーナーをトレースしてくれる。そして、車線の色が薄くなったりするなど、なんらかの理由でLKAの作動が中断してしまっても復帰がとても早いことが印象的だった。
LKAの機能は今回の試乗車中1番といってもいいほどだった。それほどステアリングに意識を配らずに走らせることができるので、初心者でもすぐに慣れることができるだろう。
アルファードのACCは全車速対応で渋滞時にも機能するほか、最高速は180km/hまで設定、もちろんこのような高速を試すことはできないが、これまでは輸入車にしかできなかったハードルを越えたというわけだ。
また、100km/hで前車追従時の車間距離は最短にした状態でちょうどいい距離を維持している。そこでACCを40km/hに設定し、前方で停止している車両に自動ブレーキを試みたが、かなり直前まで自動ブレーキは作動させずアラートでドライバーに促し、最後はしっかりと自動ブレーキで停止した。ここはドライバーの主体性を優先しているようだ。
第2世代TSSでは、ACCは個別に作動させることはできるが、LKAはACCをONにしないと機能せず、ブレーキを踏んだ瞬間に両方ともOFFになった。
■日産 プロパイロット(セレナ e-POWER)の場合
(TEXT/松田秀士)
セレナには同一車線自動運転技術と豪語するように、先進のプロパイロットが採用されている。これはミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせでACCとLKAを機能させるシステムだ。
セレナもACCは自動停止を含めた全車速対応で、LKAも基本的に同じ。ただし、LKAは一般道ではほとんど作動することはなかった。以前、ガソリンモデルのセレナの試乗会では一般道でもLKAは動作したので、今回の試乗車のコンディションがよくなかったのかもしれない。
ACCの追従機能は優秀で、信号停止から発進の際はアクセルを少し踏むことでそれまで設定してあった速度で追従し始める。さすがにモーター駆動のe-POWERだけあって、このような前走車に後れを取ってしまったシチュエーションからの復帰加速は早いほうだ。
前走車への追従での最短セットでは、どちらかというと割と距離を取っているほう。また、前車が信号待ちで停止した時の自車の停止車間も比較的長めで、アクセルを踏みなおして自分で近づけることが何度かあった。
高速道路走行でも傾向は一般道と同じだが、一般道では動作しなかったLKAが高速道路走行で初めて作動した。その印象は、しっかりしたステアリングサポートを行い、車線内中央維持のレベルもよかった。
ちなみにACCの設定最高速度は115km/hだった。
停止車両にACC設定40km/hでの自動停止テストでは、かなり手前から停止車両を認識し、自然なフィーリングで恐怖感を抱かせることなく自然な減速で停止した。つまり、初心者や高齢者を怖がらせることなく安心して停止してくれる。
セレナはプロパイロットのスイッチをONにすることでACCとLKAが連動して作動するタイプ。ブレーキを踏めば両方ともOFFになる。
■スバル アイサイトツーリングアシスト(レヴォーグ)の場合
(TEXT/松田秀士)
レヴォーグ(スバル)はステレオカメラ(2個のカメラ)によってACCとLKAを動作させる独自のアイサイトが自慢のシステム。他社のシステムがカメラ+ミリ波レーダーによってシステムを構成しているのに対して、コストを抑えることができている。
レヴォーグのアイサイトはVer3.5ともいえる「ツーリングアシスト」と呼ばれる最新のもの。ACCは0~135km/hまでフォローしている。
ACCを最短にセットした時の距離は少し近めで、せっかちなドライバーをも満足させるだろう。追従時の加速はドライブモードの設定で変化させることができるところも使い勝手がいい。
また、ACCをステレオカメラで制御しているため、前走車のブレーキランプを認識して早めに減速を開始するなど、ミリ波レーダーにはない安全機能を持っている点は評価が高い。
LKAもACCと同じ速度域で動作し、そのアシスト力は比較的穏やかでゆっくりとステアリングを切る。そのため、違和感なくすぐに慣れることができる。それとステアリングサポートをできないようなカーブでは早めに諦めてドライバーに移譲してくれるので、急に渡された感がなく慌てることもなさそうだ。
LKAはACCと連動していて、ブレーキを踏むとACCもLKAもOFFになる。LKAのアシストが自然なので、LKAの制御が残ったほうがより自然ではないかと感じた。
ACCを40km/hに設定して停止車両への自動ブレーキでは、早くに停止車両を認識して早めのブレーキ開始だったが、初期を非常に緩くブレーキングして近づくにつれて強くして停まるので、人間の操作に近いブレーキングと感じた。
全体的に制御をジワジワと発揮し、最後にしっかりとサポートするという方向性だ。
■ボルボ インテリセーフ(XC60)の場合
(TEXT/松田秀士)
ボルボは自動運転に向けた開発に力を入れていて、運転支援システムでもとても進歩している自動車メーカーだと言えるだろう。
このXC60に採用されているのはカメラとミリ波レーダーによるサポート。歩行者はもちろん自転車も検知する。注目なのは自動ブレーキでも追突が避けられない状況では、回避操作を行う際にステアリング操作をアシストすること。
さらに、対向車線にはみ出して正面衝突しそうになると、ステアリングを自動修正して衝突回避をアシストする。交差点で右折時の対向車も検知して自動ブレーキを作動させる。ボルボの運転支援への取り組みは、他社に比べてかなり先を行っているように見受けられるのだ。
では、オートパイロットと呼ばれるACCとLKAの使い勝手は実際のところ、どうなのだろうか。
ACCは0~200km/h全車速対応で自動停止も行う。LKAは140km/h以下でステアリングアシストを行う。
まず、停止車両にACC設定40km/hでの自動停止テスト。実は今回テストしたほかのどの車両よりも直前まで40km/hを維持していた。正直なところ、ブレーキを踏み込む準備をしていたのだが、かなり近づいてからやや強めのブレーキを自動作動させて停止。ブレーキの力強さはバツグンだった。
さてLKAだが、ボルボのLKAはとてもアクティブだ。市街地でもONにしておけば積極的に車線を探して車線内中央維持するようにステアリングをアシストする。車線を見失った後の復活も早い。ただし、アシスト時のステアリング操作が非常に速く強めだ。
また、誤認識とまではいわないが、緩いコーナーなどでは最後までアシストを諦めないので、時としてセンターラインを踏むこともあった。これも突き詰めているがゆえだが、少々慣れが必要で、アクティブ派には興味深い特性を持っている。
ブレーキを踏んだ場合、ACCとLKAの両方がOFFになる。
■BMW ドライビング・アシスト・プラス(X3)の場合
(TEXT/松田秀士)
BMWは5シリーズ、6シリーズGT、7シリーズ、そしてこのX3にLKA機能つきのドライビング・アシスト・プラスが標準装備されている。ミリ波レーダーとカメラによって検知しているのは他車(アイサイト除く)と同じだが、BMWの場合は単眼カメラではなくステレオカメラ。ハード面ではかなり奢られたシステムだ。
ボルボと同じく、自動ブレーキで衝突(追突)が回避できないと判断した場合、ステアリング操作の介入によって回避アシストを行う。
ACCは0~210km/hの全車速に対応。210km/hという速度はアウトバーンのあるドイツ育ちらしい。基本的にLKAもそれに準じた対応だが、70km/h以下で先行車両が近い場合は先行車両に追従してLKAを行う。
BMWは70km/hと速度設定が高めで、それ以上の速度では車線認識でLKAを行う。70km/h以上で先行車両追従を行うと、先行車のふらつきに合わせてしまい、危険が伴うからだ。また、ACC&LKAは停止状態でも先行車あるいは車線を認識していればONの状態になっている。そのため、停止状態でもACC&LKAの設定変更ができるのだ。停止中は余裕があるのでとても便利だった。
停止車両にACC設定40km/hの自動停止テストでは、非常に効率がよく、しかも安心できる自動ブレーキだ。ACCでの追従最短距離はふつう。長くも短くもない。
BMWが他車と異なるところは、ACCとLKAが独立していること。LKAはステアリング上のボタンを押すだけで、ACCがOFFの状態でもアシストを行う。ACCの自動車間&速度アシストは嫌だがLKAは歓迎という人にはよく、その逆も可能。したがってACC&LKAの同時使用時にブレーキを踏んでもACCはOFFになるがLKAはONのままだ。
LKAのコントロールは5車中で1番の性能を見せた。
■各社のACC操作性は?
(TEXT/永田恵一)
アルファードは今回テストしたクルマでは、ACCの操作に唯一レバーを使うタイプで、メインスイッチを長押しすると通常のクルコンとしても使える機能も持つ。セレナはメインスイッチを押した後にセットボタンを押すとACCが作動を開始する。また、レヴォーグはセレナとほぼ同じ使い方だが、キャンセルのスイッチがあってもいい気もする。
ボルボXC60はレーンキープのONがスイッチを右に押すのが少しわかりにくいが、リジュームが戻る矢印なのはわかりやすい。BMW X3はリジュームとキャンセルボタンが一緒なのが特徴。
今回の5台で操作性ナンバー1は、スイッチが少なくそのぶんスイッチが大きくて見やすい点も含めてセレナだと思う。
■結論!
(TEXT/松田秀士)
今回の試乗テストはとても興味深い結果だった。こうやって同じ条件の下で比較すると、システムの作動状況の差がハッキリとわかるのだ。
とても興味深かったのはACCを40km/hに設定し、停止している車両に自動ブレーキを使うテストだ。ステレオカメラを装備するアイサイトのレヴォーグと、同じくステレオカメラ+ミリ波レーダーのBMW X3は停止車両の認識が早く、ドライバーに恐怖感を抱かせない停まり方をするが、ほかのクルマ(単眼カメラ)は比較的近づいてからブレーキをかけ始める。レヴォーグ以外はミリ波レーダーを併用しているのだが、このあたりの個性は開発者の考え方によるものだろう。コストも含めたACCのコントロールではレヴォーグが優れているので、ACCのコントロール1番を与えた。
今回テストできなかったが、マツダのシステムはACCとLKAが独立したBMWに近いもの。両社の考え方は、両方使用時にブレーキを踏んだ時に同時にふたつのシステムがダウンすることでドライバーへの負担が増えることを懸念してACCのみがOFFになる。このように各社で考え方に差があるのだ。
また、ホンダが軽自動車のN-BOXにホンダセンシングとしてACC&LKAを採用している。
さて、ACCはかなり以前から高級車を中心に採用されてきた技術だが、LKAは比較的最近の安全支援技術だ。古くは日産が2001年の4代目シーマで世の中に送り出した技術。その後、日産はおろか、どのメーカーにもLKAは採用されなかった。自動運転の注目とともに今頃になって注目されていることが不思議だ。あの時から引き続き開発を続けていれば、今頃は世界のトップを走る技術力を獲得していたはずなのだ。
LKAは無意識のうちにクルマを車線内に留まらせて、しかも真っすぐ走らせるというステアリング操作の負担を軽減してくれる。これとACCを併用することで、高速道路では先行車両に車間距離と速度を合わせる作業から解放されて、ダブルで脳にかかる負担を軽くしてくれるのだ。
クルマの運転とは、ちょうどコンピュータのメモリーがいっぱいになるほどソフトを立ち上げて同時作業を行っているようなもので、メモリーの空き容量が少なくなった高齢者などは反応が遅くなり疲れやすくなる。
そこで、そのメモリーの空き容量を増やしてあげるためにACC&LKAを使うことで周囲の変化に安全に反応できるようになり、疲労も抑えることができるのだ。自動運転までいかないまでも、この種のデバイスの進歩は交通安全に大きく寄与するもの。今後の進化にも大きな期待を寄せている。
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