■売れる理由は、コンセプトの方向転換だった?
トヨタ「RAV4」は、2019年4月に発売された直後から販売好調です。同社「C-HR」のターゲット層も取り込んだといわれるほどです。
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2016年に販売不振などの影響によって、一度は国内市場から撤退したにもかかわらず、なぜ新型RAV4は売れるSUVに返り咲いたのでしょうか。
新型RAV4が登場した後の2019年4月から9月までの国内販売台数は3万9299台という好調ぶりを見せています。トヨタは同年11月7日に発表した中間決算で、過去最高の売上高と純利益を上げたと発表しましたが、RAV4がこれに貢献していることは間違いなさそうです。
RAV4のヒットの要因には、コンセプトの方向転換があるのではないでしょうか。RAV4は1994年に「ライトクロカン」というジャンルで生まれ、それまでのヘビーデューティなオフロード4WDに対して、安価でオンロードでも快適に乗れるということを謳っていました。
当時生まれたばかりのSUVは、基本的にはラダーフレーム車をベースにしたため、オフロード4WDとの線引きがあいまいで、スタイル以外は同類と見なされていました。しかし、RAV4はそれとは明らかに違うモノコックボディ、そして四輪独立懸架式サスペンションという、セダンやクーペなどと同じ構造で市場に殴り込んできたのです。
これが、「スタイルだけ四駆で日常は快適に乗りたい」というライトユーザーにウケて大ヒット。このコンセプトは上位モデルの「ハリアー」でさらに深化し、ともに現在のSUV市場を築いてきたという経緯があります。以来RAV4は、歴代モデルで「ハード」を「ソフト」に変換するという作業を時代に合わせておこなってきたのです。
しかし、5代目となる現行モデルは「違っていた」と、RAV4の開発者のひとりは次のように話します。
「RAV4はこれまで、5ナンバーサイズから3ナンバーサイズに拡大するという変革はありましたが、初代から一環して都市に融合するSUVを目指してきました。
しかし、20年以上も同じ路線できたため、5代目もそれでいいのかという議論なったのです。RAV4は北米やロシア、中国という大きなマーケットも相手しているので、開発だけでなく営業からも賛否両論が出ました。
しかし、佐伯禎一チーフエンジニアから『原点回帰してみようじゃないか』という意見が出てから、ヘビーデューティな雰囲気をまとったRAV4の模索が始まったのです」
※ ※ ※
しかしそれは、従来のRAV4とは真逆の方向転換。最初はどんなクルマを造ったらいいのか見えなかったといい、前出の開発者は次のように話しています。
「初期の段階では丸みを帯びて都市に融合するような、従来的なデザインコンセプトもありました。ですが、八角形を立体的に組み合わせるという『クロス・オクタゴン』というコンセプトが出たことで、デザインもメカニズムも一気に方向性が見えてきました。
RAV4には、ダイナミックトルクベクタリングAWDやダイナミックトルクコントロール4WDといった機能が付加されています。こうしたメカニズムの採用も、クロス・オクタゴンというコンセプトが決まったら、必然的に決まっていったのです」
■今後もSUV人気はまだまだ続く?
オクタゴン(八角形)を基調としたデザインは、北米ではお馴染みのものです。トヨタが北米市場で展開しているピックアップトラックの「タコマ」や「タンドラ」、フルサイズSUVの「セコイア」などが八角形グリルを採用しています。
しかし、RAV4はさらにそれを深化させた形状で、勝負をかけてきました。前後横、さらには上から見ても八角形のボディデザインは、北米ユーザーだけでなく、世界のSUVファンの心を捉えることに成功しました。
世界中にファンが多い「ランドクルーザー」に悪路走破性で肉薄した点も、ヒットの要因のひとつといえます。激しいモーグル地形や泥濘地、岩を走行するのには限界がありますが、ダートや雪道などでは負けていません。
しかも電子デバイスがイージードライブを実現しているので、ドライバーのテクニックに関わらず、楽しく操ることが可能です。
とくに、ボディデザインもラギッドに振った「アドベンチャー」グレードは、高次元の悪路走破性を持ち合わせています。そしてそれもまた、既存のSUVに飽き始めていたユーザーを魅了しました。
「新型RAV4に採用した4WDシステムを活かすような悪路走破性を日常生活で使うことはありませんが、性能として持っていることは、このRAV4では大切でした。性能に裏打ちされた雰囲気というのか。アウトドア用ウォッチなどと一緒です。
北米、ロシア、中国、そして日本のどの市場においても、アドベンチャーは全体の10%以上の割合となっています。これは、コンセプトが受け入れられている証なのではないでしょうか」と、前出の開発スタッフは語ります。
RAV4はよく、C-HRのシェアを奪ったといわれますが、実際は違うようです。都会にフィットし、高いオンロード性能を持ったC-HRに、RAV4ユーザーはそもそも興味を示していないというのです。
「販売の現場でよく聞くのは、RAV4を買いに来られたお客さまは、C-HRの前を素通りするということです。もちろんサイズも違うのですが、それ以前に雰囲気が真逆なのです。RAV4を求めるお客さまは、このオフロードの雰囲気に惹かれて購入を決める人が多いのだと思います」(前出の開発者)
北米でRAV4が先行デビューして以降、少なくとも日本のSUV市場では「オフロードルック」というのがトレンドになっています。かつては、いかにオンロードを快適に走るかというのがSUVの命題でしたが、もはやそこは通過して、もう一度原点回帰しよう、という源流が確かに存在しています。
今後もこのような流れがSUV全体に波及するかについて、前出の開発者は次のように話します。
「SUVは下火になりつつあるといわれますが、弊社の中期的な見通しでは、まだまだ成長市場であると考えます。そんななで、これまでに以上に悪路で本格的な性能を発揮するということが、ユーザーにとって大切な判断基準になっていると思います。
日本でもそうですが、昨今の気候変動によって大雨や大雪といったシーンが頻繁となり、それに対応できる性能、そしてそれを顕すデザインに期待して購入される人も増えているのではないでしょうか。
もちろんトヨタにはいろいろなSUVモデルがラインナップとしてあるので、すべてとはいいませんが、ヘビーデューティな道具のような雰囲気が他モデルにも広がっていく可能性はあると思います」
※ ※ ※
かつてライトクロカンというコンセプトで都市型SUVのカタチを提案したRAV4は、いまマルチパーパスというカタチを昇華させました。追従するライバル車たちが、この方向性をどう吸収して新しいカタチを提案してくるのか。ますますSUVの世界が楽しみです。
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