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もう「BEV開発が遅れている」とは言えなくなった… 決意と覚悟を全面に トヨタ先進技術説明会に見た恐るべき「チップ全置き」戦略

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もう「BEV開発が遅れている」とは言えなくなった… 決意と覚悟を全面に トヨタ先進技術説明会に見た恐るべき「チップ全置き」戦略

 2023年7月、トヨタは「BEVの競争力」と題したメディア向けの説明会を実施しました。これまで多くのメディアから「トヨタはBEVで(テスラやBYDに対して)遅れている」という指摘を受けていましたが(市販技術はともかく先行開発技術や戦略において実際に遅れていたかどうかはおいておいて)、その評判を覆すべく、現時点での開発スケジュールや研究内容、進捗を明らかにして、今後の商品開発や経営戦略として充分ライバルと競争できることを示したかたちとなりました。平たくいうと、「あんまり遅れてる遅れてる言われて腹が立ったので全部見せたるわ作戦をとることにしました」ということのようです。

文/ベストカーWEB編集部、写真/TOYOTA、AdobeStock

もう「BEV開発が遅れている」とは言えなくなった… 決意と覚悟を全面に トヨタ先進技術説明会に見た恐るべき「チップ全置き」戦略

■「置ける場所にすべてチップを置く」戦術

 トヨタ自動車は、2026年から順次発売してゆく予定のBEVに搭載する新型バッテリーとして、4種類(!)開発していることを明らかにした。

 いきなり4種類も…と、頭がパンクしそうになるが、それぞれに特徴と可能性があり、「次世代モビリティの電池」としてどれが一番普及可能性が高いか、また、2-3年後の主流と5年後の主流と10年後の主流の見通しがすべて違う分岐する未来予想図において、どれが最適解か、サイズや用途によって違うのか(だとしたらどれにどれが合うのか)…という大変難しい「賭け」に、いわば「チップを置ける場所には全部置く」という、(HVで稼いだ利益を研究開発費にごっそりつぎ込み続けられる)トヨタにしか出来ない荒業だと理解していただきたい。

2026-2027年をメドに、まずは3種類の新型電池を開発中。これに「全固体電池」を加えて、計4種類の電池を開発中とのこと。すさまじい全方位戦略としか言いようがない…

 それぞれの電池の特徴は以下のとおり。

(1)次世代電池(パフォーマンス版)
 2026年に導入予定の次世代BEVでは、航続距離1,000kmを実現。その車両への搭載を目指し、性能にこだわった角形電池を開発中。電池のエネルギー密度を高めながら、空力や軽量化などの車両効率向上により航続距離を伸ばし、同時に、コストは現行bZ4X比で20%減、急速充電20分以下(State Of Charge(以下、SOC=充電率)=10~80%、つまり20分で80%まで充電可能)を目指す。

(2)次世代電池(普及版)
 トヨタは、電池においても多様な選択肢を提供できるよう、BEVの普及拡大に貢献する「良品廉価な電池」も開発中。これまでハイブリッド車のアクアやクラウンに搭載してきたバイポーラ構造の電池を、BEVに適用したのがこの企画。材料には安価なリン酸鉄リチウム(LFP)を採用し、2026-2027年の実用化にチャレンジする。現行bZ4X比で航続距離は20%向上、コスト40%減、急速充電30分以下(SOC=10~80%)を目指し、普及価格帯のBEVへの搭載を検討中。

(3)バイポーラ型リチウムイオン電池(ハイパフォーマンス版)
 (2)の普及版電池の開発と並行して、バイポーラ構造にハイニッケル正極を組み合わせ、さらなる進化を実現するハイパフォーマンスの電池も、2027-2028年の実用化にチャレンジする。(1)のパフォーマンス版角形電池と比べても航続距離10%向上、コスト10%減、急速充電20分以下(SOC=10~80%)を達成する圧倒的性能を実現する予定。

従来のBEV用電池(bZ4X搭載の電池)と、開発中の新型電池の比較表。しつこいが、これに加えてもう1種類、「全固体電池」を開発している。これらの技術はすべて「どれかが成功したらどれかが無駄になる」というわけではない

(4)全固体電池
 課題であった電池の耐久性を克服する技術的(素材面での)ブレイクスルーを発見したため、従来のHEVへの導入を見直し、期待の高まるBEV用電池として開発を加速。現在量産に向けた工法を開発中で、2027-2028年の実用化にチャレンジする。(1)のパフォーマンス版角形電池と比べても航続距離20%向上、コストは精査中であるが、急速充電は10分以下(SOC=10~80%)を目指す。また、将来を見据えもう一段レベルアップした仕様も同時に研究開発中。こちらは(1)と比べて航続距離50%向上を目指す。

 説明を聞いた本記事担当編集者としては、「台数」のインパクトが大きく、日本の一般的なユーザーにとって本命となる電池は「(2)次世代電池(普及版)」で、おそらく衝撃的な価格で登場してくるだろうと予想している(おそらく補助金なしで330万円前後/そうでないとテスラやBYDと勝負できないし、2026年の時点でトヨタが掲げる年間BEV販売台数150万台は到達できない)。

説明資料に掲示された「全固体電池」。電解質を個体にすることで(製造技術難度は高いが)高出力、長寿命、小型化を実現できる夢のような技術

「2026-2027年にチャレンジ」と発表されたが、実現されればここ日本市場でもBEVをめぐる認識や景色が一気に変わるだろう。

 また、(4)全固体電池も含めて、「認識や景色が変わる」がゆえに、さまざまな要件、論点がある。いずれ順次取材してゆくとして、最も気になるところについて、取材でえたトヨタの考えについて紹介しておきたい。

■「多様性」を守るところがトヨタ流

〇それぞれの電池を搭載したBEVのラインアップはどうなるのか?

 トヨタ社内に設立されたワンチームの独立組織「BEVファクトリー」が、2026年から新型車を順次発表し、4年後の2030年までに5車種、合計170万台のBEVを販売する…という計画を明らかにした。またトヨタ全体では2030年の時点で年間BEV販売台数350万台を計画しており、(BEVファクトリー製ではない)180万台のBEVは、既存のモデルをBEV化するなどしてラインアップを拡充してゆく予定。

トヨタとBEVファクトリーが、2023年から2030年までに発売するBEVの規模感とスケジュール。MPV(ミニバン)もラインアップされており、12万台を売る予定とのこと。ラージSUVは月販5万台ペースで売る予定。北米狙いでしょうが、すごい計画ですね…

 この多様で豊富なラインアップのなかで、それぞれのモデルの特性に合った電池を搭載してゆくことになる。なお、この「多様性を守ろうとする姿勢」こそが、スマホとクルマの違いであり、テスラやBYDとトヨタの「会社として目指すモビリティの違い」の最大のポイントだと見受けられる。だからこそトヨタは「チップ全置き戦略」(≒マルチパスウェイ)をとることになったわけだし、そもそもの話として、クルマは生活や地域や年代の違いに合わせてたくさん選べたほうがいいですよね。

(なお本企画担当編集者は「いきなりこんなにたくさん作れるんですか」とBEVファクトリーの加藤武郎代表に聞いたところ、「できる見通しは立てましたし、やらないと追いつけませんし、やるしかないです」と仰ってました。が…がんばってください!!)

〇いきなりBEVを大量に作れたとしても充電インフラが足りなくなる、または従来の急速充電器が性能的に追いつかなくなる可能性があるのではないか?

 この懸念についてはトヨタも認識しており、上述した開発中の次世代電池でいうと(1)次世代電池(パフォーマンス版)くらいまでは従来の350kW級急速充電器で対応できるものの、それ以降はなかなか難しくなっており、現在各充電器メーカーとともに500kW級、600kW級の急速充電器を開発中とのこと。これはもちろん性能面もさることながら、価格面でも(安価でないとどのみち普及しない)共同で検討を重ねているそう。

〇内燃機関車からBEVにシフトしていくと、たとえば工場ラインなどで人員が「あまる」のではないか?(雇用が減少するのでは?)

 今回の先行技術説明会の最重要点のひとつが、新しい思想により構築された(「BEVを作る」という前提で組み立てられた)工場ラインの確立であり、この工場は製造工程が1/2になる見込みだという。当然そこにあてられる人員も半分になる計算で、この点に関して参加した記者からも質問が飛んだが、トヨタとしては「現時点での作業が楽になる、スムーズになる、という点を大事にしたいのと、ここで人員が余った場合は、より価値の高い作業、人間でしかできない領域の仕事で活躍していただく」との回答があった。

(写真はイメージ)今回トヨタが公開した新技術には「生産技術」も含まれており、「組み立て中の車両が自走で工場を移動する」という仕組みも発表された。

 人員が余るというよりも、別の作業へ従事すること、「クルマ」から「モビリティ」へ転換してゆくなかで、製作に携わる人の作業内容や配置が大きく変化することになるが、それは「人員削減」「雇用減少」という話にはならない、と理解した。

 ここまで一気に紹介したトヨタの新技術説明会。実はこれだけでなく「ギガキャスト構造」、「空力」、「水素」、「代替燃料」、「知能化技術」なども合わせて説明があったのだが、一気に紹介するのはとても無理なので、順次お知らせします。

 今回のトヨタの先行技術説明会は、おそらく2023年3月2日に開催された「Tesla's 2023 Investor Day」(投資家向けのテスラの説明会イベント、イーロン・マスクCEOが筆頭に立って約4時間にわたって開催された)に刺激を受けたものだろう。それを考慮しても、技術説明や情報開示、開発中の技術内容に関して「攻め」の姿勢を見せたことを高く評価したい。すくなくとも各種メディアは、最低限この技術をすべて学んだ上でないと、もう「(業界標準に比べて)遅れている」だとか「説明不足」とは言えなくなりました。はい。

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みんなのコメント

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  • トヨタの役員 技術屋でテスラを乗り回した人が何人居るんだろうか
    テストコースでbZ4Xに乗って  これは凄い・・・前社長 豊田章夫  こんな動画をメディアに出す
    この時点で二流以下であることを 自画自賛している事に他ならない
  • テスラは自動車業界で「勝つ気も負ける気もない」ですからね。目指しているのは電気エネルギーへの移行ですし。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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