2022年のF1シーズン、ドライバーズとコンストラクターズのチャンピオンは決まったが、ルクレールとペレスのランキング2位の争いは最終戦に至るまで気の抜けない展開になった。
文/津川哲夫
写真/Redbull,Mercedes,Ferrari,Alpine,Haas
F1最終戦、前戦で弱気だったルクレールが自力でペレスを下し、見事にランキング2位を獲得!!
ブラジルでは、P1の1時間で予選と決勝用のセッティングを決めなくてはならない
前回のブラジルでは初日から気候の変化に翻弄された。しかも、クオリファイ・スプリントなる予選レースが組まれていたので、シミュレーション通りの展開をきっちりトレースできたチームは皆無だった。2回目のプラクティスの時間枠でスプリント・レース用の予選が行われ、この予選後はパークフェルメ(車検車両保管)となるために、マシンをいじることができない。つまりP1の1時間だけで予選と決勝用のセッティングを決めなければならないのだ。
結果、スプリントの予選ではハースのマグヌッセンがPPを獲得した。そしてスプリントはコンディションに左右された波乱のレース展開で、ミディアムのマックスがメルセデスについていけなかった。本レースへのスターティンググリッドはメルセデスが一列目ロックアウト。それもPPはラッセル、二番目にハミルトン。そして2列目にフェルスタッペンとペレスのレッドブルが続いた。
チャンピオンシップのランキングは最終戦まで予断を許さない展開になった
最終戦でマックスはハードタイヤは攻めても問題ないとチームに連絡。ペレスはハードで最後のスティントは目一杯攻めることができた
レッドブルはペレスを何とかチャンピオンシップの2位にして完璧なワンツーで今シーズンを終わらせたいが、そのペレスに僅差で並んでいるのがフェラーリのルクレールだ。フェラーリは今シーズンコンストラクターランキングは余裕の2位のはずが、ここにきてメルセデスの追い上げが急で、フェラーリは焦り始めてきた。
さらにマクラーレンと熾烈なランキング争いのアルピーヌも、何とか4位を死守したい。アロンソとオコンのダブル入賞はマストなのだ。そう、レッドブルにはじまりフェラーリもメルセデスもそしてアルピーヌもそれぞれの目的を持っての最終2戦へ対峙してきたのだ。
結果、ブラジル戦では近年では珍しく、多くのチームオーダーが飛び交った。復活を匂わせるワンツーフィニッシュでレースを終えたメルセデスでは、中盤ラッセルがチームに無線で“俺はレースをして良いのか?”と尋ねている。もちろんハミルトンをリードしているのでこのまま優勝をして良いのかということへの質問なのだが、この裏にはチームに向けて“俺をこのまま優勝させろ!”という遠慮がちな要求をしたのと同じだった。
これに応えてチームは “お前はレースをしていいよ、ただしルイスが迫ってきたらリスペクト(尊重)したレースをしてね” と、やんわりと“勝つのはよいがハミルトンが迫ってきたらわかっているよね?” という言い回しをしていた。ラッセルはこれを理解したからこそハミルトンをDRSの効く1秒以内に入れようとはせず、最後までプッシュを続けたのだ。
そして、最終戦アブダビではペースの上がらないハミルトンの後ろに迫ったラッセルに対してチームは“自由にレースをしていいぞ!”、つまりハミルトンを遠慮せずに抜いて良いと言ったのだ。これは最終戦でラッセルはハミルトンと対等の立場を認めてもらったわけだ。
ブラジルではペレスにポジションを譲るチームオーダーを拒んだフェルスタッペン
フェルスタッペンはペレスとは差が大きく、かつ最終ラップでは簡単な入れ替えはできそうもなかったが、チームオーダーに反発した形になった。もちろんレース後に若干の議論はあったものの、アブダビ最終戦ではチームオーダーは出なかった。実際トップを走るフェルスタッペンとの差が大きくルクレールとの戦いは一対一の勝負であった。もちろんペレスもフェルスタッペンからの協力を期待していなかった。
2ストップを選んだペレス。最終的に1ストップのマックスが1位、ルクレールが2位となった
結果的にルクレールに追いつけず、ランキングは3位になってしまったが、終盤のペレスの凄まじい追い上げと必死に逃げ切ろうとするルクレールとの戦いは圧巻で、今シーズンの面白さを集約したようなレースであった。
いっぽうブラジル戦でのルクレールは、チームオーダーのリクエストをしたが “前を走るサインツとのポジションの入れ替え” は二人の間隔が開きすぎで “リスキーだからダメ” と却下されてしまった。そしてルクレールも最終戦アブダビではサインツの助けを借りることなく、自力でペレスを下し、見事にランキング2位をゲットしたのだ。
驚異的な走りで終盤も29秒台を連発したルクレール
またチームの必死さが伝わってきたのがアルピーヌ。ブラジルのスプリントではオコンとアロンソが接触、上位での2台フィニッシュが見込まれていたところで同士討ちを演じてしまった。本番のレースでもオコンとアロンソが接近戦になり、チームはオコンに“前を行くベッテルとのレースは思い切りやってもいいが、後ろから来るフェルナンドとは決してレースをするな!”と強い言葉で釘を刺していた。事実今シーズン、オコンがアロンソとレースをしてしまい、チームとして取れる多くのポイントを失っていたのだ。コンストラクター4位の座を手に入れるにはオコンとアロンソの戦いを阻止しなければならなかった。
ドライバーやチームのランキングも大切だが、できれば自由な戦いを見せてほしい
しかしいくつものチームオーダーが出されたにも関わらず、最終2戦は誰もそのチームオーダーに翻弄されず、独自の考えとレースを展開し2022年は凄まじい戦いで締めくくった。
チームオーダーの発出は致し方ないことは理解はできるが、その発出はくれぐれも最小限にし、自由な戦いを見せて欲しいものだ。
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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