プレミア価格がつくのはもう少し先か……?
2023年11月25日、RMサザビーズがドイツ・ミュンヘンで開催したオークションにおいてメルセデス・ベンツ「SLRマクラーレン」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
マクラーレンとメルセデスのダブルネームの「SLR」なら8000万円オーバーの価値は十分にあり! 150台限定の「722エディション」なら安すぎる!?
F1マシンのノーズコーンをモチーフとしたフロントノーズ
1999年のデトロイト・ショーで、後に「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」としてデビューすることになるスーパースポーツのコンセプトカー、メルセデス・ベンツ・ヴィジョンSLR」の姿を初めて見た時の感動は、今でも忘れることができない。
SLRというネーミングには、メルセデス・ベンツのファンであれば誰もが特別な感情を抱くはずだ。それは1950年代中盤に誕生した、W196をベースとする2シーターのレーシングスポーツに掲げられた称号。パワーユニットに3Lの直列6気筒エンジンを搭載したことから、300SLRと呼ばれたそれは合計で10台が製作され、当時のレース・シーンで大活躍を見せたのだ。
かねてからメルセデス・ベンツは、「将来、生産化の可能性がないコンセプトカーを製作することはない」と公言していたことから、ビジョンSLRを見た者の多くは、将来それがメルセデス・ベンツの最上級に位置するスーパースポーツとして再デビューを飾ることを確信していた。しかしそこに至るまでの時間は想像していた以上に長く、正式に生産型のメルセデス・ベンツSLRマクラーレンが発表されたのは2003年のフランクフルトショーでのことになる。
メルセデスAMGとマクラーレンを加えたパートナーシップによって完成されたSLRマクラーレンは、その詳細を知れば知るほどに、その先進性と価値を認めざるを得ないスーパースポーツだった。F1マシンのノーズコーンをモチーフとしたフロントノーズに連続するボンネットの下には、5.4LのV型8気筒+スーパーチャージャー・エンジンが搭載され、626psの最高出力と780Nmの最大トルクを発揮。
注目すべきはこのエンジンの搭載位置で、その重心は2700mmのホイールベース内に収まっている。すなわちフロントミッドシップの手法により、前後重量配分も49:51と理想的な比率を実現していたのだ。
トランスミッションはAMGスピードシフト機構を備えた5速AT。マニュアルモードを選択すれば、パドルによるクイックなシフトも可能になり、あえてトランスミッションの多段化の必要性を当時の開発チームは考える必要がなかったともいえる。
バイワイヤーブレーキのSBCは、カーボンにセラミックを溶射したカーボンコンポジットブレーキシステムを核としたもの。リアスポイラーは高速域からのブレーキング時にはエアブレーキとしての機能も果たし、これは現在もマクラーレンが750Sなどに継承する技術である。
イングランドのウォーキングにあるマクラーレンの生産工場で、驚異的な水準で設計、製造されたSLRマクラーレンは、まさにスーパーカーとグランドツアラーをミックスした究極のモデルといえる。ユニークなシザーズドアが、駐車中にもそのスペクタクルを持続することで、見る者の視線を釘付けにすることは、デビューから20年を経た現在でも一切変わることはない。
継続的に大規模なメンテナンスを受けている
RMサザビーズのミュンヘン・オークションに出品されたメルセデス・ベンツSLRマクラーレンは、2005年式の最も標準的なスペックを持つものだ。「シルバーアロー300SLレッド」の内装に、「クリスタル・ローリット・シルバー・メタリック」のボディカラー。
運転席はミディアムサイズ、助手席はラージサイズでオーダーされているのも大きな特徴といえる。最初のオーナーはデンマークに在住する人物で、2005年1月にこのモデルを入手。その後2016年には現在のオーナーの手にわたり、その後継続的に大規模なメンテナンスを受けている記録が残る。
たとえば2020年1月には左右両方の燃料タンクの交換を含む一連の作業が、また同年4月にはすべてのベルトやオイル、フィルターの交換、さらにはパワーステアリングポンプ、イグニッションコイル、エアコンシステムのオーバーホールも行われている。
参考までにオークション出品時の走行距離は2万7028km。RMサザビーズのエスティメートは25万~30万ユーロ(邦貨換算約4075万~4890万円)というものだったが、最終的な落札価格は24万6875ユーロ(同4020万円)というものだった。
ちなみに2003年当時の日本での新車価格は5775万円。メルセデス・ベンツSLRマクラーレンにプレミアムがつくまでには、まだしばらくの時間が必要ということなのだろうか。
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