TVCMやチラシで高らかに宣言される「特別仕様車」。車種によっては数年間ずっと設定され続けることも珍しくなく、しかも「販売台数のほとんどがこの特別仕様車」なんてこともあるくらい。
この「特別仕様車」、よく目にするけど、いったいなにが「特別」なんでしょうか。ユーザーのため? メーカーのため? 販売店の都合?? 販売や流通に詳しい渡辺陽一郎氏が解説してくれました。
今回は新車が売れてない!? 今や決算セールは買い時ではなくなったのか?
文/渡辺陽一郎 写真/トヨタ
【画像ギャラリー】1年中売り続けてる! どこが特別!? 販売の中心になっている特別仕様車たち
■特別な仕様というよりも上級装備を標準装着した買い得車
大半の乗用車には、複数のバリエーションが用意される。最も分かりやすいのは、エンジンや装備の区部に応じた「グレード」だ。
例えばシエンタであれば、エンジンはノーマルタイプとハイブリッド、駆動方式は前輪駆動の2WDと4WD(ノーマルエンジンのみ)を選択できる。車内のレイアウトには、2列シートのファンベースと3列シートの標準仕様があり、それぞれにベーシックなX、中級のG、上級のGクエロという3グレードを設定した。
さらにLEDランプパッケージ、スマートエントリーパッケージなどのセットオプション、アルミホイールなどの単独オプションがあり、幅広いニーズに対応している。
その一方で車種によっては「特別仕様車」も設定される。「特別」という言葉からは、高性能なエンジンを搭載したり、豪華な本革シートを備える文字通り特別な仕様を連想するが、実際は違うことが多い。
既存のベーシック、あるいは中級グレードを使って、上級グレードやメーカーオプションの装備を加えたタイプになる。
シエンタの特別仕様車「FUNBASE G“Safety Edition”」。現在、販売の多くがこの仕様だそう
前述のシエンタには、Gセーフティエディションが用意される。2列シートのファンベースを含めて、Gをベースに人気の高い安全装備などを追加した。
ノーマルエンジンを搭載する3列シートのGセーフティエディションでは、Gにオプション設定されるスーパーUVカット&シートヒーターパッケージ(4万2900円)、インテリジェントクリアランスソナー(2万8600円)、パノラミックビュー対応ナビレディパッケージ(5万8300円)を加えている。
これらのオプション価格を合計すると12万9800円だ。一方、Gセーフティエディションの価格は219万6000円、Gの価格は209万8000円だから、価格の上乗せは9万8000円になる。12万9800円の装備を9万8000円で得られるため、Gセーフティエディションは3万1800円割安だ。
このようにGセーフティエディションは、特別な仕様というより、上級装備を割安に標準装着した買い得車になる。特別仕様車には、買い得感を強めたタイプが圧倒的に多い。
■決算期には販売車の大半が特別仕様車になることも
そして決算期などクルマが大量に売れる時は、特別仕様車を集中的に扱う。トヨタの販売店では次のように述べた。
「決算期にはシエンタならセーフティエディション、ヴォクシーならZS煌IIIという具合に、買い得な特別仕様車を中心に売る。大量に販売できる時期だから、在庫車を持つ場合もある。そして在庫車は、3月末までに登録して弊社の決算に反映させることが前提なので、割安な特別仕様車からさらに値引きも行う」。
このように特別仕様車は、価格を割安に抑え、なおかつ値引きや各種のサービスも相応に行って競争力を高めた。そこを生かして一気に売り込む戦略だ。
そして特別仕様車は、メーカーや販売店にとって、既存のグレードよりも効率の優れたクルマに仕上げられている。
ヴォクシーZS煌IIIの場合、メーカーオプションの選択肢は、普通のグレードに比べて圧倒的に少ない。ボディカラーも4色のみで、実質的にブラックかホワイトの二者択一だ。
ヴォクシーの特別仕様車「ZS“煌(きらめき)III”」
ヴォクシー「 ZS“煌III”」インパネ
特別仕様車は売れ筋タイプに絞り、量産効果も高めることで、割安な価格を実現して売れ行きを伸ばす。そして特別仕様車は人気の仕様のみだから、好調に売れて、なおかつ中古車として流通させる時も有利だ。
メーカーや販売店にとってメリットの多い仕様だから、価格も割安に抑えた。その結果、決算期などは、販売されるクルマの大半が特別仕様車になる車種もある。
また特別仕様車でありながら、長期間にわたって売られるタイプもある。シエンタGセーフティエディションは、2020年1月に設定されたので、すでに1年以上にわたり販売を続けている。ヴォクシーZS煌も定番の特別仕様車で、常に販売している印象を受ける。
それならグレードに変更する方法もあるだろう。
例えばセレナの売れ筋グレードとされるXVとハイウェイスターVは、もともとX・VセレクションとハイウェイスターVセレクションという特別仕様車で、これをグレードに変更したものだ。
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■特別仕様車が「グレード」にならない3つの理由
その一方で、シエンタGセーフティエディションやヴォクシーZS煌は、いつまでも特別仕様車とされてグレードにならない。
その理由は3つある。
まず特別仕様車なら、設定と廃止(あるいは中断)を自由に行えることだ。ヴォクシーZS煌も、現在販売されているのはIIIになる。
販売促進に力を入れたい時期に設定しながら、バージョンアップを重ねてきた。出したり引っ込めたり、必要に応じて変更を加えるなど、都合を優先できるのは特別仕様車のメリットだ。
2つ目の理由は「特別仕様車」という言葉を使うためだ。シエンタGセーフティエディションであれば「安全性と快適性がさらに充実した特別仕様車が登場」とアピールされ、注目度を高める効果も大きい。
トヨタシエンタの公式サイトはトップ画像が特別仕様車
3つ目の理由には、既存のグレードに比べて価格が割安なことが挙げられる。商品企画担当者に尋ねると以下のように述べた。
「買い得な特別仕様車をグレードに変更すると、お客様からは、値下げを行ったと受け取られる場合がある。既に購入されたお客様に対しては失礼だ。そこを不定期に設定される特別仕様車とすれば、グレードではないから、この問題を避けられる」。
以上のように特別仕様車は、メーカーや販売会社の都合に基づき、人気の装備を割安に装着して設定される。買い得だから売れ行きも伸びるが、喜べることばかりではない。人気の高い新型車に、特別仕様車は設定されないからだ。
シエンタは発売から5年、ヴォクシーは7年を経過して、以前に比べると売れ行きも下がったから特別仕様車を用意した。
■特別仕様車=人気のバロメーター
タントは2019年7月に現行型へフルモデルチェンジされたが、発売直後から売れ行きが伸び悩んだ。2013年に発売された先代タントは、好調に売れてN-BOXの届け出台数を上まわったが、現行型は追い抜けず販売順位もN-BOXより下がる。
そこで発売から5か月を経過した2019年12月には、早々に特別仕様車のセレクションシリーズを設定した。4万円相当のセットオプションを加えて価格を同額に据え置くなど、モデル末期に設定するような格安な特別仕様車だ。2020年6月には、Xから装備を取り去って値下げを行ったXスペシャルまで投入している。
タントカスタムRS スタイルセレクション
タントカスタムRS スタイルセレクション インパネ
タントの特別仕様車は極端なケースだが、それでも順調に売られる車種に特別仕様車は設定されない。ジムニーは発売から2年間を経過しながら、今でも納期が約1年とされる人気車だから、販売しているのも既存のグレードのみだ。
つまり特別仕様車は、人気のバロメーターといえるだろう。設定された時には、売れ行きが下がったとか、近々強力なライバル車が登場するなど、販売面で何らかの不安を抱えている。そこを認識された上で、特別仕様車を選んで頂きたい。
買い得に追加装着された装備を精査することも大切だ。皆さんにとって不要な装備が加わっていたら、いくら価格の上乗せを抑えても意味はない。宣伝に流されず、特別仕様車の価値を冷静に見極めることも大切だ。
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特に最終モデルの特別仕様は、熟成されたベース車に売れ筋の装備がついていることが多く、お買い得感がある。