昔はクルマは「魅力的」だった。日本のクルマは1960年代に入ったあたりから成長期に入りましたが、この時代はユーザーにとってクルマ自体も、またクルマのあるライフスタイルにも「新鮮で心躍る魅力」があり、誰もがクルマを欲しいと思ったものです。
しかし、それから数十年経った今、ユーザーにとってクルマは基本的に変わらず、またそのライフスタイルも一般化して鮮度は落ち、クルマのある生活は普通のこととなりました。さすがに「飽きた」とも言えるのではないでしょうか。
世の中は、どんどん変化して時代は流れています。(万物流転)それゆえに、とどまっているものに対して、人は飽きるのです。
■それでも、クルマは進化している
クルマはとどまっていたかというと、交通事故の増加や環境への悪影響など、クルマが増えることによるマイナス面を真摯に技術で解決しつつ、さらにクルマの快適性やナビなどの装備類も、全方位で技術進化を続けてきました。
しかし、それは国の成長期に感じたような、新鮮で心躍る魅力的なクルマへの進化でなく、より良くするという改善の方向だったと思うのです。
今ユーザー調査すると購入動機の上位にはだいたい「燃費」がきます。事実、販売店にきたユーザーは「今度は燃費の良いハイブリッド車にしたい」と言う人が多いらしく、ハイブリッド車はよく売れています。
しかし、ユーザーは本当に改善の範疇の「燃費」とその具現化技術の「ハイブリッド車」に新鮮で心躍る魅力的なものを感じているのでしょうか?
■ユーザーの購入動機は燃費?
ハイブリッド車が魅力的と言えないなら、なぜ売れるのでしょうか? またユーザーの購入動機の上位はなぜ「燃費」なのでしょうか? 私の「本質マーケティング」というコンサルタント業務の視点から説明します。
昔、ベンツを買った人に「何で買ったかんですか?」と聞くと、「安全だから」と返ってきました。では「クラウンがベンツより安全になったら買いますか?」と聞くと、「買わない」と・・・お客さんのホンネは「見栄のはれる車」だったのです。
今の時代はユーザーファーストの考え方でユーザー調査を大切にしますが、答えるユーザーの声はその本心ではない場合が多いのです。つまりユーザーの心の底まで探ると「燃費」は表面的なことで、本心は別のところにあるのです。
■HEVが売れる本質
言いたいことは、ハイブリッド車がよく売れるのは「燃費がいい」という表面的なことでなく、本質的にハイブリッド車にはユーザーにとって新鮮で心躍る何かがあるのではないかということです。もう少し詳しく言うと、クルマの成長期にはクルマとクルマのある生活に「新鮮で心躍る魅力」をユーザーが感じて購入し、マーケットは成長しました。
今の時代、確かにクルマは環境安全技術など優等生的に技術進化していますが、それだけではユーザーが「新鮮で心躍る」までいきません。そんな中、ハイブリッド車は燃費向上を目指して改善の範疇で造られました。
しかし、結果として、スタートスイッチを押してもエンジンはブルルンと言わず、そのまま「D」に入れアクセルを踏むと何の音もなく発進し、しかも力強い。エンジンは回っていないのに走るのです。
これは、ユーザーにとって「新しく、心躍る」ことで、さらにそこに未来のクルマを感じ「魅力的」にみえたのではないでしょうか。
■モーター走行は新鮮な魅力
このような観点でみると、最近発売されて大変販売台数をのばしている「ノート e-POWER」ですが、ほぼボディデザインは旧型のままなのでe-POWERそのもので、売れるべくして売れているということがわかると思います。一方EVは、何と言っても電欠の心配があり、モーター走行の魅力どころではありません。しかし、このe-POWERシステムだとエンジンで発電しながら走るので、全く電欠の心配はありません。
また、プラグインしないのでバッテリーは少なくてすみ、軽くてコストは安くなります。ただ、何事も表と裏、欠点もあります。高速走行では、エンジンをブン回して発電しなくてはならなくなり、効率が悪く燃費も悪くなります。
よって、高速走行も多いグローバルマーケットでは成り立ちませんが、日本の交通事情では低速走行が多いため、このシステムの良さが際立ちます。ここにフォーカスした日産自動車の商品企画は的を射ていたのです。
ただ、日産自動車はスモール領域にハイブリッドがなく、商売的な理由でe-POWERを投入したのかもしれませんが、結果として、日本のユーザーにとってこの技術は燃費がいいだけでなく、モーター走行による「新しく、心躍る」発見があり、とても「魅力的」となったと思うのです。
■今後のハイブリッド技術
e-Powerの高速燃費課題に対応できるのが、三菱自動車のアウトランダー方式です。これは、プラグインもできますが、エンジンで発電しバッテリーを介した走行もできます。なにより高速走行でも低負荷時にはエンジン直結で駆動します。つまり、高速燃費がいいのです。もちろん、その分の設計・製造コストはかかりますし、プラグインするとバッテリー容量もある程度必要になり、コストと重量的に難しくなります。よってアウトランダーのように大きな高級車が適します。
今後は、EV社会ができるまで、このようなハイブリッド技術が様々な形で進化していくと私は考えています。ただ、その時に造り手はひたすら改善の範疇の「燃費」をよくするだけでなく、ユーザーが「新鮮で心躍る商品」と感じる、つまり「魅力商品」をも目指さないと、ユーザーを飽きさせることになってしまいます。
まさに、ユーザーのために商品はあり、商品のために技術はあるのです。燃費を良くするという手段が目的になっては駄目です。とどまることを知らない「魅力商品」の創造こそが、自動車産業の持続的繁栄への道なのです。
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