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センチュリーに乗る、センチュリーを語る──大谷達也編

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センチュリーに乗る、センチュリーを語る──大谷達也編

私にトヨタ センチュリーについて語る資格なんてない。

1960万円の価格ではとうてい手が出ないことも理由のひとつだけれど、それ以上に、私とは遠くかけ離れた存在であることが大きい。こんなことを言ったら僭越だが、値段が倍以上もするロールズ・ロイス ファントムのほうがセンチュリーよりずっと身近な存在と思えるくらいだ。

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なにしろ、ファントムは国際的な商品として世界中で販売されるリムジン。したがって、価格はどんなに高くても1台の自動車として公平に評価することができる。いっぽうのセンチュリーは日本専売モデルで輸出はされない。しかも月販目標台数は50台とごくわずか。つまりセンチュリーは、日本在住で日本製リムジンを必要とする一部の顧客に向けて作られた製品なのである。

しかし、私の知人にそのような人はいないし、もし所有する人がいても、それがどんな人でどんな暮らしをしてどんな嗜好を持つ人なのかは想像もつかない。きっと由緒ある日本の企業家や、公的に高い地位にある人なのだろうが、想像が及ぶ範囲はその程度。私にセンチュリーを語る資格がないと思うのは、このためだ。

それでも、一介の自動車ライターがセンチュリーに乗ってどう思ったのかを知りたい読者もいるのだろう(そう、いまこの記事を読んでいるアナタこそ、その読者である)。そこで、ごく当たり前の自動車ライターが普段と変わらない基準でセンチュリーを評価したらどんなふうに映るのかという視点で、この記事をしたためることにしたい。

まず、誰もが気になるはずの後席を確認した。

全長が5335mm、ホイールベースが3mを越えるセンチュリーの後席が狭いはずがない。身長172cmの私が“だらっ”と腰掛けても、私の膝と前席の背もたれの間には50cmではきかないほどのスペースが残っていた。また、パーティションと呼ばれる間仕切りこそないものの、後席から見ると2脚の前席とその間に置かれた大型ディスプレイによって視界はぴったりと埋め尽くされており、同じキャビンのなかにあっても前後別々の独立した空間であることを強く意識させられる。

そしてもちろん乗り心地は優れているし、静粛性も高い。同行したスタッフからは、「思ったほど静かじゃない……」なんて声も聞かれたが、大型セダンの標準と比べても私は十分に静かだと思うし、路面からの無粋なショックも巧みに遮断してくれる。おまけに、昔のアメ車みたいにフワフワとピッチングが続くこともなく、ボディーが大きく浮き上がるようなうねりに遭遇しても上下動はすーーっと収まる。この辺は、なかなか優れた設定だ。

センチュリーの本来のお客さまは後席に座るはずだが、運転してみるとどんな印象を抱くのか、試しに運転してみた。

決して悪くない、と思った。ワインディングロードを攻めればアンダーステアも強まるけれど、その変化の仕方が自然で予想がつきやすいし、危険とも思えない。排気量5.0リッターのV8エンジンにハイブリッド・システムを組み合わせたパワートレーンは、トヨタのハイブリッド特有の“ブワワン”とした加速感ではなく、もっと節度ある手応えを示してくれて好ましい。ブレーキペダルの感触もよく、停止寸前に特別なテクニックを使わなくともすっと停まって揺り返しを起こさないから、後席に腰掛けるお客さまに不快な思いをさせなくて済むだろう。

エクステリアデザインはサイドから見たときのプロポーションがいい。ボンネット、キャビン、トランクルームの配分が見事でセダンとしての落ち着きを感じさせる。全高に対するタイヤのサイズも適切で、貧弱な印象を与えない。後ろにいくに連れて微妙にキャラクターラインが下がっていくのは大型サルーンの定石ともいうべきもので、エレガントで品がいい。“神威”の愛称を持つエターナルブラックと呼ばれるボディカラーは、手間ひま掛けて仕上げられることが誰にでもひと目でわかるツヤと深みを備えていて、手で触るのがためらわれるほど。このクオリティは、どんな高級車メーカーでも再現が難しいトヨタの独壇場というべきものだ。

手の込んだ細工はボディー内外のいたるところに施されている。鳳凰を象ったフロントグリル内のエンブレムは、職人が1カ月半かけて作り上げた金型から製作されるとか、フロントグリルは縦格子の奥に日本伝統の七宝模様を重ねた二重構造になっているなど、そういった例は枚挙に暇がない。それはインテリアも同様で、天井には紗綾形崩し柄の織物が、本杢パネルには柾目材が用いられているそうだ。

でも、私の目には手が込んでいることはわかっても、残念ながら魅力的には映らなかった。それは私がそれぞれの模様に込められた意味(卍を組み合わせた紗綾形崩しには“不断長久”の意味があり、家の反映や超順を願う文様とされているそうだ)を理解していなかったことや、単純に個人的な趣味嗜好との違いというのも関係しているのだろうが、それ以外にもうひとつ理由がある。

たとえひとつひとつがどんなに立派なものでも、全体で表現しようとする統一感や世界観が私には見えてこないのだ。

たとえば、自宅のリビングルームを思い起こして欲しい。そこにどんな高級な調度品をたくさん並べても、趣味や時代性がバラバラだったら統一感や世界観は生まれない。むしろ雑然としていて趣味が悪いと思われるだけだろう。

もしもひとつの部屋としてまとまりを出すのなら、高級品をいたずらに並べるだけでなく、場所によって緩急をつけるべきだ。そうやって、見せるところと見せたくないところを明確に分けたほうが意図は明確になるし、センスがいいようにも思えるのではないか。

いやいや、やめておこう。私は由緒ある家柄の方がどんな部屋で暮らしていて、どのような調度品に触れながら毎日過ごしているのかを知らない。それを知らない人間がセンチュリーのインテリアをあれこれ批評するのはお門違いだ。たわごとはこのくらいにしておこう。

それでも、妙にぎらついたところがなく、どこか控えめに思わせる点にセンチュリーの奥ゆかしさを見たような気がした。これこそ、古くから私たちに息づく日本人の心というものなのだろう(か)。

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