海外製ミニバンの選択肢が増えた今、ユーザーにとって最適なモデルとはいかに? 今尾直樹が考えた! まずは日本に上陸したばかりのフィアット「ドブロ」だ。
イタリア的実用主義
さる5月11日、ステランティスがシトロエン「ベルランゴ」、プジョー「リフター」に次ぐ、第3のミニバン、フィアット「ドブロ」の国内導入を発表した。う~む。じつに興味深い。基本的には同じものを、どう差別化するのか? シトロエンとプジョーとフィアット、いったいどこがどう違うのか? 若干の私的考察を試みたい。
とりわけ、ここで取り上げたいのは、遅れてきたミニバン、フィアット・ドブロである。ご存じのように、この3兄弟、フロントはそれぞれ独自の顔が与えられているものの、後ろのドアがスライド式の5ドア・ボディとは、1.5リッターのディーゼルエンジンに8ATを組み合わせた前輪駆動のパワートレイン、つまり、中身は同じである。その同じクルマを、フロントマスクを含めた内外装のデザインとサスペンションのチューニングによって、それぞれのブランドの伝統に即して仕立て直しているのだ。
価格はドブロがいちばんお求めやすい399万円からで、シトロエン・ベルランゴは422万7000円から、クロスオーバー仕立てのプジョー・リフターは少々お高い436万8000円から、である。ドブロの魅力のひとつが400万円を切る価格にあることは疑いない。
そもそもドブロ、イタリア本国では乗用車仕様は存在しない。正確には存在するけれど、E-ドブロなるBEV(バッテリー式電気自動車)のみで、内燃機関のドブロは商用車のみとなっている。日本市場向けに、わざわざ1.5リッターのディーゼルターボの商用車の乗用車仕様をつくっているのだ。
それというのも、フィアットの売れる新型車がご無沙汰だからである。昨年のフィアットの新車販売台数はJAIA(日本自動車輸入組合)の統計で5768台。この数字はコロナもあったとはいえ、前年比82.5%。今年1月から4月までだと1414台で、前年同期比64%にまで落ちている。ドブロは日本のフィアットにとって、救世主になることを期待されている。
そのニッポン向けドブロには、ほかの兄弟同様、ロング・ホイールベース(LWB)の3列シート・7人乗りもある。これは「ドブロ・マキシ」と名付けられており、単にドブロといえば5人乗りを指す。ドブロもドブロ・マキシもモノグレードで、松竹梅のランクがない。ボディ色もジェラート ホワイト、マエストロ グレー、メディラネオ ブルーの3種類で、シート表皮はどの色にも合うブラックのファブリックのみ。シンプルな商品構成にすることで無駄なコストをカットしている。イタリア的実用主義を徹底しているのである。
ルノー・カングーの成功ドブロ・マキシがあることで、ステランティスも“ミニバン”と呼んでいるわけだけれど、クルマとしてはMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)と呼ぶべきキャラクターである。そもそもヨーロッパの小型MPV人気に火をつけたのは、かの地でも、ここ極東でもルノー「カングー」なのだから。
ルノー「4」を祖とするカングーは1997年に登場した商用車と乗用車仕様、両方がある小型MPVで、郵便屋さんとか電気屋さん、酒屋さん、水道屋さん、八百屋さん、農家にレストラン、町工場、工芸家、陶芸家、芸術家……と、キリがありませんが、ともかく大手から個人まで、商用車はお仕事用として、乗用車は主にファミリー用としてつくられていて、どっちを選ぶかはお好み次第。という万能小型車である。
たとえば、あなたがパリで骨董屋を営む個人店主で、週末は家族旅行を兼ねて近郊に仕入れに行ったりするとして、荷室の広さ、積載量よりもひとの居住空間を重視するとなると、ちゃんとしたシートを備えた乗用車仕様を選ぶわけである。だけど、フランス人は合理的だそうで、そういうひとはあまり多くはいない。なので、カングーといえば、コマーシャルヴィークル。というのがあちらでの受け取り方で、カングー ジャンボリーなんてイベントがニッポンで開かれていることにはフランス人もビックリ! なんだそうである。
そのカングーの対抗馬として1996年に登場したのがシトロエン・ベルランゴとプジョー「パートナー」で、フィアット・ドブロはもともとフィアット独自の小型MPVとして2000年にデビューしているけれど、2018年に第3世代に生まれ変わったベルランゴとプジョー・リフターの兄弟に2022年にくわわっている。その背景には、PSAとフィアットが合併してステランティスが誕生したことがある。
で、ルノー・カングーがおしゃれなフランスの実用車としてニッポンで人気を博しているのは、つまるところ、初代カングーからして、フランス車らしい、人間尊重というべき資質を備えていたからだ。
荷物をいっぱい積めるだけでなく、大人4人が乗れる居住空間があって、日本製のバンには望めない、別次元ともいうべき、楽しいハンドリングと快適な乗り心地を備え、それらをかわいらしいデザインで包んだ、手頃な価格の、ピープル・ムーバー(ミニバン)というよりはマルチ・パーパス・ヴィークル(MPV)で、それとなにより、フランスという国ならではの、バカンスと芸術の国、自由・平等・博愛というよきイメージが重なっている。幻想も大いにあるにせよ、フランス的ライフスタイルを象徴する、ニッポンの外からやってきたクルマとして、私たちをかくもひきつけ続けている。
イタ~リアなミニバンさてでは、フィアット・ドブロはどんなイメージを持っていて、ニッポンではどんなひとたちに愛されることになるのか?
中身がシトロエン、プジョーと同じだったとしても、それはもう、イタ~リア、フィアット、トリノ、ミラノ、といったようなイメージであり、アモーレとマンジャーレとカンターレの国、イタ~リア好きから愛されることになるにちがいない。
フィアットを買いたいひとは、ニッポンにはたくさんいらっしゃる。たとえば、現行フィアット500に乗っていて、もうちょっと大きいフィアットが欲しいひと。あるいは、フランスではなくて、イタリアのワインが好きなひと。ワインに限らない。ファッションのブランドでもアートでも食材でも、あるいはレストランでもブティックでも、イタリアのものが好きなひとは、できればイタリアのクルマに乗りたいのである。そのほうが楽しい気分で過ごせるからだ。
イタリアという沼にどっぷりハマりたいひとは、いますぐドブロに乗りなさい。というススメ方は極端に過ぎるにしても、ドブロは1990年代の「ムルティプラ」以来のフィアットのMPVということになる。
仕事にも趣味にも使えるマルチ・パーパス・ヴィークルが、あなたのイタリアンなライフスタイルをきっと充実させてくれる。それはもしかしてイメージだけの話、かもしれない。だけど、イメージのある世界のほうがイメージのない世界よりもはるかにファンタスティックでナイスだ、と筆者は思う。
文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)
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