右ハンドルで2025年に導入予定
筆者の取材によると、ボルボやロータスを傘下に収める中国の「ジーリー(吉利汽車)」が、プレミアム純電動ブランド「ジーカー」を日本へ投入することが明らかになった。
【画像】中国BEVブランド「ジーカー」のモデル「X」と「009」 試乗の様子を写真で 全20枚
日本で乗用BEVを販売する中国ブランドはBYDに続いて2番目となるが、まずはジーカーがどんなブランドなのか、そしてどういったクルマ作りをしているのかを紹介しよう。
ジーリーは中国・浙江省に本拠地を置く民間自動車メーカーで、現在もトップを務める李書福氏によって1996年に設立された。2010年にはボルボ、2017年にはロータスを買収、現在は中国メーカートップ3に数えられる一大グローバル自動車企業へと発展した。
ジーリーは買収した海外ブランド以外にも多くの独自ブランドを擁しており、その中にはボルボと共同設立した「リンク・アンド・コー(領克)」や、普及価格帯電動ブランド「ギャラクシー(銀河)」なども含まれる。
リンク・アンド・コーは、2018年にセダン「03」のワールドプレミアを富士スピードウェイで開催したことで日本でも話題を呼んだ。結局、今日までリンク・アンド・コーの海外展開は欧州や中東にとどまるが、この度、リンク・アンド・コーの姉妹ブランド「ジーカー(Zeekr)」が日本に上陸する運びとなった。
ジーカーは2021年に設立された純電動ブランドで、リンク・アンド・コーよりもプレミアムな位置づけだ。
初のモデルは当初リンク・アンド・コーのコンセプトモデルとしてお披露目された「001」で、その後、2023年には高級ミニバン「009」、コンパクトSUV「X」、そしてセダン「007」を立て続けに中国で発売した。
どのモデルも自社の「SEAプラットフォーム」を採用しており、また、009は「EM90」、Xは「EX30」といったボルボ車種とも大部分を共有する。2024年4月にはミドルサイズミニバン「MIX」を公開、そしてミドルサイズSUV「7X」の近日中の発売も予定している。
奇抜なデザインで目を引く。これも先進性のアピールか
ジーカーはこれまでのどの中国メーカーとも異なる存在だ。まず目を引くのがその奇抜なデザインで、デザインセンターはボルボの本拠地でもあるスウェーデンのヨーテボリに構えている。
特に007やMIXで採用されている左右一体のディスプレイ型ヘッドライトはまさに「近未来のクルマ」といった印象で、設計したのは日本の「市光工業」だ。
また、インテリアはボルボ譲りの北欧的エッセンスと、中国の消費者が好むような先進性を上手く融合させた空間となる。この「先進性」は非常に説明が難しく、ここ1~2年のトップランナー的中国車を実際に体験した人しかわからない概念かもしれない。
簡単に言えば、ダッシュボードから浮き出た大型のセンターディスプレイ、細い横長のディスプレイに集約されたインストゥルメントパネル、そしてフレグランス機能など、伝統的なクルマを知らない新世代の中国人にウケる要素満載といったところだろうか。
日本へはまず「009」と「X」を投入する計画だ。
「009」は全長×全幅×全高が5209×2024×1848mm、ホイールベース3205mmの大型純電動ミニバンとなる。中国では容量108kWh、116kWh、140kWhの3種類のバッテリーを用意し、航続距離は702~900kmを誇る。
ただ、この航続距離は中国独自のCLTC方式となるため、実質的な数値はこの7~7.5掛け程度だろう。駆動方式は前輪駆動と四輪駆動を用意し、前者は340ps/421ps、後者は543ps/611ps/788psと選択肢は豊富だ。
フロントはメッキパネルを全面に押し出し、逆U字型のヘッドライトと合わせて奇抜な仕上がりとなる。全体的なシルエットは大型ミニバンにしては低めで、スポーティな雰囲気が感じられる。また、ジーカー特有のガラス細工のような左右一体型テールライトも美しい。
0-100km/h加速4.5秒の爆速ミニバン
シートは3列6名および7名構成、2列目は左右独立型のキャプテンシートを採用する。
高級ミニバンでは必須装備となったマッサージ機能は黒クロームメッキ仕上げのボタンで操作するタイプとなっており、むやみにタッチパネル式にしていないところに好感を覚えた。テーブルは旅客機にあるようなアームレストから展開する方式で、立て付けもしっかりとしている。
ほかにも驚かされたのは、スライドドア内側に内蔵されている小型のタッチパネルだ。左右のウィンドウに加えてガラスルーフのシェードが操作可能で、そのすぐ隣には時計やエアコンを操作できる簡易的な円形ディスプレイも装備する。
これまでにさまざまな中国メーカーのミニバンを体験したが、これはジーカー「009」独自の装備だ。車内オーディオには20個のスピーカーで構成されたヤマハ製のサウンドシステムを搭載し、極上の音質体験を創りだす。
エアサスペンションを搭載しているものの、乗り味は意外と硬めで、ここでもスポーティさに振っていると感じた。0-100km/h加速を4.5秒でおこなう加速性能が、果たして本当にミニバンに必要かは疑問だが、ドライバーズカーとしてはとても楽しい運転体験となった。
もちろん、後席に座ってくつろぐのにも広々としている空間なので、試乗する機会があったらどちらのポジションも体験するべきだろう。
装備の割に価格は高め? ボルボEX30とプラットフォーム共有の「ジーカーX」
一方、ジーカーのコンパクトSUV「X」も試乗したが、簡単に申し上げると、装備の割に価格が高い。
エクステリアデザインはジーカー共通のデザインを採用しており、全長×全幅×全高が4450×1836×1572mm、ホイールベース2750 mmのボディは小さめなクーペ的とも言える。4人乗りと5人乗りが選択可能だが、大人5人が乗るには少々狭く、4人でちょうど良い空間設計である。
駆動方式は出力272ps/トルク343Nmの後輪駆動と、428ps/543Nmの四輪駆動の2種類のみと、「009」よりもシンプルだ。バッテリーも全グレード共通で容量66kWhとなる。
内外装の質感は上々なものの、一方でサスペンションのチューニングは「エントリーモデル」相応という印象を受けた。はっきり言ってしまうと、そこまで良くはない。
また、試乗したのは中国市場で販売されている左ハンドルモデルだったため、右ハンドルだと事情が異なるかもしれないが、左前輪のタイヤハウスが異様に内側に食い込んでおり、不自然な位置に左足を置くしかなかった。このため快適なドライビングポジションが決めづらく、終始不快だった。
これで価格が安いといったことならまだ競争力もあるのだが、実際はライバル車種のフォルクスワーゲンID.3の倍近い20万元(約408.4万円)からと、かなり強気のメーカー希望小売価格だ。
実際、中国ではこの高価格が影響して販売は不振、ここ最近は月間販売台数500台以下の月が連続していた。2024年7月は1231台を販売と久々の大台突破となったが、これでもジーカーのラインナップの中でもっとも売れていない車種には変わりなく、Xよりも2倍高い009(約896.5~1059.9万円)の方がまだ売れているのだ。
日本仕様の詳細はまだ一切明らかでないが、Xの場合は日本でのメーカー希望小売価格が高くとも500万円を切らないと勝負は難しい。同じ中国メーカーであるBYDの販売するコンパクトBEV「ドルフィン」は、日本でのメーカー希望小売価格が363万円からで、中国では同等モデルが約265万円となる。
ジーカー車種は人を選ぶデザインなのに加え、ほとんど知られていない中国ブランドであることを鑑みると、BYDほど順風満帆ではないだろう。
ジーカーにとってどれほど勝算があるかは不明だが、相手をしなければいけないのはBEVではなく、同クラスのガソリン車・ハイブリッド車も含まれる。
いくら同クラスBEVの選択肢が少ないと言えど、消費者にとっては安くてサポートがしっかりしていれば、パワートレインの種類など関係ないのだ。
それでも日本市場に挑戦しようとする姿勢は応援したいし、引き続き注目していきたい。ボルボを傘下に収めて以降、急速にクオリティを上げているジーリーだが、果たして日本でどう受け入れられるかが見ものだ。
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