その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第49回は「スバルインプレッサ」と「スバルクロストレック」の外観デザインを中心に取り上げます。SUBARU 商品企画本部 デザイン部 主査の井上 恭嗣(いのうえ・きょうじ)さんにお話を伺いました。
XVはSUVらしくない商品だった
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島崎:最近、自分の記憶力に自信がないものですから、お話をちゃんと残せるようにテーブルの上にソニーのICレコーダーICD-SX2000を置かせていただきます。
井上さん:あはは、構いません、当然です。あの、私はクロストレックとインプレッサを両方見ており、外観、内装、色のまとめ役をやっていますので、なん なりと。
島崎:あ、インタビューの導入までお気遣いいただき恐縮です。では早速、確認ですが、インプレッサとクロストレックのアウターパネル、ボディの部分は同じということですか?
井上さん:同じです。金属の部分とガラスの部分は共通です。逆にいうと、前後バンパーとグリルの部分で意匠的には差別化しています。
島崎:従来のXVとインプレッサと同じ手法ということですね。
井上さん:そうです。
島崎:これは持論なのですが(笑)、初代も先代もインプレッサに対してXVは妙にかっこよく見えた。それは車高の違いや、タイヤサイズの違いによるスタンス、バランスの差なのかなぁと考えていたのですが、そういうものなのでしょうか?
井上さん:うーん、基本的な自動車のデザインとして、タイヤは大きく、太いほうがかっこよく見えますよね。
島崎:いわゆるデザイナーの方がお描きになるスケッチのように。
井上さん:はい、タイヤを強調して。加えて伝統的なかっこよさでいえば、ボディは(天地に)薄いほうがかっこいいので、XVはそういう商品でした。ただ違う言い方をすると、SUVらしくない商品でもあった。
島崎:えっ、今までのXVはSUVらしくなかった、と?
今までのXVはSUVぽくなかったと井上さんは言う
井上さん:SUVというのは、背が高くて分厚くて四角いクルマが基本形にあります。それに対して今までのXVは厳密にいうと乗用車の嵩上げでした。
島崎:最初のアウディのオールロードクワトロとかボルボのXC70とか、いずれも4WDでしたがワゴンを嵩上げしてSUVと見做されていましたよね?
背が高くて分厚いクルマがSUV
井上さん:解釈、スタイリングは増えているので、車高が上がったクルマを総じてSUVと言ってますが、スバルの主戦場であるアメリカでいうと、スタイリング的には“背が高くて四角いクルマ”がSUVという認識にあるんですよね。
島崎:とすると従来のXVはどういうふうに見做されていたのですか?
井上さん:SUVとしてギリギリ認識されていた。四角くはなかったので。あくまで乗用車の形をしているけれど車高と最低地上高が高いので、ちょっと変わっているけれどSUVだよね、そんな認識のされかたでした。
島崎:そうでしたか。
井上さん:ただ今回のクロストレックでは、状況としてアメリカだけでなく日本もライバルが増えてきた。XVのかっこよさは支持されてきましたが、ライバルが増えてきて、今はもっと背が高くて分厚いクルマがSUVだと認識されていると判断しました。なのでクロストレックでは、従来のXVらしさだけではなく、基本的には乗用車派生のシェイプとしながら、もっと分厚くしようと……。
島崎:それは例えばどういう手法で、ですか?
井上さん:基本的なサイズは同じ中で物理的にはボンネットが高くなっています。さらに視覚的にはグリルを大きくし、フロントバンパー左右のクラッディングで“縦線”を入れて高さを感じるものを置いて厚さを出しています。
島崎:なるほど、縦に視線を誘導させているのですね。
井上さん:そうです。
流行りのSUVに乗りたいお客様を楽しませることができない
島崎:クロストレックはグリルもXVよりも相当大きくしたのですね。
井上さん:XVより幅も高さも大きくなっていますし、インプレッサとも差別化しています。
島崎:従来は?
井上さん:XVとインプレッサではほぼ同じサイズでした。今回は差をもっとつけている。そういうところで、そんなに背の高いクルマではないですが、もっとSUVに見られるようにしようとしました。従来のXVのままだと「これSUVじゃないじゃん」となり、流行りのSUVに乗りたいお客様を楽しませることができないので。
島崎:ほほう、そのお話は意外というか微妙というか……。
井上さん:そこは非常に議論があって、乗用車を上げたところがいいんだという意見ももちろんありました。でも私は最終的にもっとSUVに見えないと駄目と判断しました。
島崎:なるほど、最新のアウトバックも厚みを強調していて、そのお話に納得がいきますね。
井上さん:アウトバックもワゴンの嵩上げはなく、よりSUVに見られるデザインにしています。なのでクロストレックも開発当初は後ろがもっと低かったのですが修正したり、先ほどお話ししたフロントのクラッディングも、社内的に違和感を持つ人もいたのですが、これくらいの厚み、個性がないとSUVじゃないね、と。それと横から見たときに黒い部分が回り込んでいることで、全長が短く見えれば高くも見える。インプレッサは逆に全長を活かして伸びやかなデザインにしています。
ガチャガチャしたところ、少し線が多いところはワザとやっている
島崎:フェンダーアーチの部分の形は、どういう意図があるのですか?
井上さん:はい、機能的にはアーチに沿って一定幅でいいのですが、機能だけではなく、ちょっとかっこよくしたい。ホイールアーチの切り欠きではなくボディの形に合わせていたり、前後方向に引っ張ることでスピード感を出したり、さらに目を惹く部分が上にくることで高さを見せる効果も狙っています。野球のヘルメットも昔は真ん丸でしたが、今はちょっとかっこいいじゃないですか。そういう気持ちをかき立てるデザイン性があってもいいんじゃないかと。今の世の中の感覚的には、機能的なものでもちょっとデザインしてあったほうがいいよね……ですし。
島崎:僕はナイキやニューバランスでジョギングシューズを選ぶときに、なるべくシンプルなものを選んでしまうのですが、もはや時代から外れた感覚ということですかね。
井上さん:いや、それは私も理解しますし好きです。クチャクチャしたものがいいというつもりはありませんから。ただお客様を見ているとアウトドアにいろいろな道具を持っていく。その道具を見ているとだいたい複雑なデザインが多い。そういうテイストに合わせた形ということになります。
島崎:商品性ということですね。
井上さん:そうです、そうです。で、実はインプレッサのデザインも同じで、ちょっとガチャガチャしたところがあり、カッチリと少し線が多いところがある。そこはワザとやっています。
島崎:そうなんですね。
井上さん:調査したところ、インプレッサのお客様もアウトドアをやって遊んでいることがわかりました。なので、乗用車らしくはないといけないけれど、一般的なスポーツハッチとかエレガントなハッチバックではなく、アウトドアにも行けるシッカリした感じを出して、普段使いでもそういうテイストが楽しめるデザインの表現になっています。
島崎:スバルのクルマらしいお話ですね。
(写真:SUBARU、島崎七生人)
※記事の内容は2023年4月時点の情報で制作しています。
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