伝説の名を復活させたフラッグシップ
最高出力835ps/最大トルク1000Nmを発揮するV12エンジンを搭載した、アストンマーティンの新たなフラッグシップモデル「ヴァンキッシュ」にイタリアで試乗。従来のアストンマーティンFRモデルになかったほどの驚きの一体感を体感してきました。
「ゴールドフィンガー」を名乗れるのはアストンだけ! 60台限定の「DB12」は18金メッキや金糸を用いてゴージャスな金ピカ仕立て…ハート8の意味するものは?
3度ヴァンキッシュを名乗って登場
思い返せばモダンアストンの成功物語は2000年代初頭に登場した「V12ヴァンキッシュ」が第1章であった。序章は1999年、V12エンジンを積んだ「DB7 ヴァンテージ」だろうか。いずれにしてもその後、アストンマーティンは完全復活を果たし、フラッグシップモデルも「ヴァンテージ」と「DBS」というふたつ名を使い分けながら現在へと至っている。
先代に当たるDBS(初期には「DBS スーパーレッジェーラ」とも名乗った)で12気筒は終わるかと思われたが、後継モデルにも新開発のV12エンジンを積むとなって、俄然、マニアは色めき立った。
はたして新型フラッグシップモデルは3度ヴァンキッシュを名乗って登場した。最高出力835ps、最大トルク1000Nmは25年前のほぼ倍のハイスペックである。
最も注目すべきポイントはエクステリアデザインだ。「ヴァラー」由来のダックテールもさることながら、ホイールベースが延ばされた。真横から眺めてみれば、前輪とドアとの間が以前より伸びているのが分かる。ちょうどそこにおむすび形状のデザインエレメントが入り、V12と赤く記されたバッジがつく。つまり、ここにエンジンが“きっちり”収まっているのだぞ、という静かなるアピールだ。新型ではV12をほぼフロントミッドに収めているのだった(もちろんミッションは後方、トランスアクスル式だ)。
乗り込んでみれば、デザイン的には「DB12」からの流れを汲んでいて、相変わらずゴージャスな見栄えと質感に感心する。物理スイッチがほどよく残されていることも嬉しい。
ヴァンテージに負けぬハンドリングファン
荒れぎみの舗装路を走り出し、ものの5分も経たないうちに、今までのアストンFRモデルにはなかったクルマとの一体感を覚えた。NVH性能もはっきり向上している。乗り心地が良いのだ。DBSや以前のヴァンキッシュでは、骨格の強さこそ感じるけれど、筋肉がついてこない印象があったものだが、新型は違う。車体の塊感や密度は増し、さらに大きくなったクーペを駆っているとは思えないほど。そんな一体感の恩恵だろう、広がったという車幅もプレッシャーとはならなかったし、長いノーズもまるで気にならない。狭いカントリーロードや忙しいワインディングも躊躇なく進んでいけた。
ハンドリングファンという点で歴代アストン製V12 FRモデルの中では抜きん出ている。最新のヴァンテージとも良い勝負。否、トルクのあるぶん、さらに楽しいかもしれない。加減速を含め、ヴァンテージのように走ることも開発目標のひとつであった。
ハンドリングが正確だと思えたのは、やはりフロントアクスルの動きが良いからだろう。踏ん張り感が素晴らしい。要するにフロントミッドシップの恩恵というわけだが、理想的な前後の重量配分に加えて、新たなダンパーシステムの動きや、強化されたシャシーとブレーキなどを統合的に制御するシステムの優秀さも寄与していると言っていい。
中間加速も味わってほしいポイントだ。前を走るバンを直線路で追い越そうと徐々に加速しつつ対向車線に出た。そこから思い切り右足を踏み込むと、まるで前もって知っていたかのように(じつはそうであることを後から知ったのだが……)強烈な加速をみせたのだ。
速度計を見れば、あっと驚く数字で、車線に戻り慌てて速度を落とす。にもかかわらず速度感覚はそこまで高くはなく、車体の姿勢は極めて安定していた。これが1000Nmの実力というものだが、後から知った機能というのが“ブースト・リザーブ”という加速準備機能であった。
エグゾーストサウンドも最新モデルにしては相当に勇ましい。マラネッロのV12最新モデルを音量と迫力では上回っていた。もとよりアストンマーティンのエグゾーストサウンド作りは初代V12ヴァンキッシュの頃より巧妙で、クルマ好きを虜にしてやまないもの。新型ヴァンキッシュもまた、その伝統を見事に引き継いでいた。
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