2021年7月19日に発売されたアクアは、国産乗用車で最高の燃費数値を達成すると思われた。ところがアクアの各グレードのWLTCモード燃費は、ZとGが33.6km/L、Xは34.6km/L、Bは35.8km/Lだ。
一方、ヤリスハイブリッドは、Zが35.4km/L、Gは35.8km/L、Xは36.0km/Lに達するから、アクアの最高燃費はヤリスハイブリッドに劣る。
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アクアは、ヤリスよりも新しいハイブリッド車なのに、なぜヤリスHVの36.0km/Lを超えなかったのか。フィットe:HEV(ハイブリッド)も燃費を追わず、29.4km/Lにとどまった。
もう燃費競争は終わったのだろうか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/トヨタ、ホンダ、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】新型アクアは惜しくも1位ならず! 2021年WLTCモード燃費ランキングBEST10
■熾烈な燃費競争を繰り広げてきたがもう終わり?
2021年7月19日に発売された新型アクア。ホイールベースを先代より50mm延長し、後席空間の余裕を確保する。アクセルペダル1つで加減速を可能にする「快感ペダル」をトヨタ車初採用
燃費スペシャルの新型アクアB。WLTCモード燃費は35.8km/Lと、ヤリスHVの最高燃費36.0km/Lにわずか0.2km/L届かず
新型アクアのWLTCモード燃費はヤリスHVの36.0km/Lを0.2km/L足りない35.8km/Lにとどまった。この背景には複数の理由がある。
まずアクアのZ/G/Xは、駆動用電池にリチウムイオンではなくバイポーラ型ニッケル水素を使うことだ。アクアもBグレードだけはヤリスと同じリチウムイオン電池を使い、WLTCモード燃費は35.8km/Lと突出して優れている。
燃費を追求するなら、ほかのグレードもリチウムイオンにしただろう。なぜあえてバイポーラ型ニッケル水素を新開発して、B以外のグレードに搭載したのか。背景には広い意味のコスト低減がある。
新型アクアに初採用されたバイポーラ型ニッケル水素電池。サイズの小型化により従来型ニッケル水素電池の約1.4倍に相当する電池セルを収容、バッテリー出力は旧型の約2倍向上
バイポーラ型ニッケル水素電池のコストは、現状ではリチウムイオン電池よりも高いとされるが、アクアは大量の販売台数を狙っている。月販目標台数は、ハイブリッド専用車なのに9800台と多い。
純ガソリンエンジンも用意するヤリスの7800台を上まわる。アクアが大量に売られると、バイポーラ型ニッケル水素電池のコストも次第に下がってくる。
これを裏付けるのがアクアの価格だ。アクアZはヤリスハイブリッドZに比べて7万6000円高いが、その内容は価格差以上に充実する。
装備については、アクアZは、ヤリスZがオプション設定している100V・1500Wの電源コンセント&非常時給電システム、アルミホイール、LEDフォグランプを標準装着した。
さらにヤリスハイブリッドZのディスプレイオーディオは8インチだが、アクアZは10.5インチだ。スピーカーの数がヤリスハイブリッドZは6個、アクアZは4個に減るといった違いもあるが、装備は全般的にアクアが充実する。
機能にも差があり、アクアはヤリスに比べてホイールベース(前輪と後輪の間隔)が50mm長く、後席の足元空間を広げた。身長170cmの大人4名が乗車した時、ヤリスの後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々と狭いが、アクアは2つ弱を確保する。
こういった違いを踏まえると、アクアZはヤリスハイブリッドZよりも明らかに買い得で、売れ行きも伸びる。そのための手段のひとつが、バイポーラ型ニッケル水素電池だ。
つまりアクアの開発では、WLTCモード燃費が一定の水準に達していれば、その数値をさらに追求するより、居住性を向上させたり、価格を割安にするほうが販売促進に貢献すると判断した。
この開発姿勢は、今のメーカーの燃費数値に対するとらえ方も象徴している。以前に比べて細かな燃費数値に固執する傾向が薄れた。特にハイブリッドの場合、環境性能割や自動車重量税が非課税になれば十分と考えられている。
■なぜ燃費競争をしなくなったのか?
燃費を稼ぐために燃料タンクの容量を減らす事例もある。マツダ2は大半のグレードが44Lだが、クリーンディーゼルの6速MT仕様は35Lに削って車重を1080kgに抑えている
細かな燃費数値に対するこだわりが薄れた背景には、複数の理由がある。まずはエコカー減税がクルマ選びの指標となったから時から時間が経過して、ユーザーの関心も薄れてきたことだ。
過去を振り返ると、2010~2015年頃は、燃費競争が激しかった。エコカー減税が減税率を高めたことで、購入時に納める税額が大幅に安くなって注目されたからだ。
燃費の優れた車種を選ぶと、購入時の税額が下がり、買った後の燃料代も節約できる。そこで軽自動車の中には、1年間に2回も改良を行い、JC08モード燃費を段階的に改善する車種もあった。
この時代には、わずか0.2km/Lでも、燃費数値を更新した。誤差の範囲で実用燃費にはほとんど影響ないが、この差で減税率が変わると、購入時に納める税額も安くなるからだ。
燃費数値とエコカー減税に対する関心の高かった当時は、商品力の大切な要素で、ライバル車との販売競争にも影響を与えた。
したがって、各メーカーとも燃費数値にこだわった。販売店からは「JC08モード燃費がライバル車と比べて0.5km/L劣ると、エコカー減税率が下がることもあって売れ行きに差が生じる」という意見が聞かれた。
ヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッドの実燃費を計測した(2020年実施)
ヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッドの実走行燃費テスト結果(2020年実施)
エコカー減税に該当することがクルマ選びの絶対条件になり、減税対象に入らない車種は、購入の候補にも入れてもらえない。特にエンジン排気量の割に車両重量の軽いセダンは、燃費数値自体は悪くなくても、減税対応では不利になりやすい。下降を開始した売れ行きをさらに下げて、今のセダンの車種削減に繋がる切っ掛けを作ってしまった。
以上のようにエコカー減税の影響もあり、2010~2015年頃は、ユーザーの燃費性能に対する関心がきわめて高かった。
しかし少し時間が経過すると、ユーザーが燃費数値と実用燃費の隔たりを指摘するようになった。当時のエンジンはJC08モード計測を重視してセッティングされ、計測時の運転は抜群の運転技量を誇るメーカーの担当者が行う、いわば特定のドライバーと特定の運転条件が重なった時だけ達成できる燃費数値だから、実用燃費との間に格差が生じるのも当然だった。SNSなどを介して、メーカーのウェブサイトに記載される燃費データを疑問視する意見が急速に拡散された。
同時にエコカー減税に向けた関心も薄れてきた。「減税率にこだわって2万円を節約するより、好きな車種を選ぶ買い方がイイ」といった考え方が広まり始めた。
その一方で2013年頃から、衝突被害軽減ブレーキが普及を開始した。クルマ選びの基準も、燃費性能とエコカー減税から、安全装備へ移り始めた。
■JC08モード燃費と実燃費に大きな乖離があった
JC08モードとWLTCモードの試験方法は大きく異なる。最高速度はWLTCモードが97.4km/h、JC08モードが81.6km/h(出典:国土交通省)
このような事情もあり、2016年以降は、フルモデルチェンジを行ってJC08モード燃費を悪化させる車種が登場している。
例えば2017年に発売されたCX-5の2.5Lガソリンエンジン搭載車は、JC08モード燃費を従来型の15.2km/Lから14.8km/Lに下げた。同じ2017年に発売されたミライースも、売れ筋グレードのJC08モード燃費は、従来の35.2km/Lから34.2km/Lに変更されている。
各メーカーの開発者に燃費数値が悪化した理由を尋ねると、「モード燃費を追求しても、お客様の利益にならない。商品やメーカーに対する不信感も招く。そこに気付いたので、モード燃費への対応を抑えるようになった」と説明された。
2017年からは、新しい燃費計測方法として、今日使われるWLTCモード燃費も導入されている。この数値は従来のJC08モード燃費に比べて実際の燃費数値に近く、ユーザーがクルマを選ぶ時の参考にも適する。燃費競争の過熱状態が冷めると同時に、燃費の計測方法も改善されてきた。
以上のように燃費数値に対するとらえ方は変化したが、関心が完全に薄れたわけではない。2010~2015年のような過剰な注目度が収まっただけで、今でもクルマ選びの大切な要素であり続ける。
■時代は「燃費競争」から「燃費協調」へ
現在のWLTCモード燃費1位はヤリスハイブリッドXで36.0km/L。ハイブリッドGは35.8km/L、ハイブリッドZは35.4km/L
フィットe:HEVベーシック(ハイブリッド)のWLTCモード燃費は29.4km/L。市街地モードは30.2km/L、郊外モードは32.4km/L、高速モードは27.4km/L
現在のコンパクトハイブリッドのWLTCモード燃費(2WD)は、ノートX:28.4km/L、フィットe:HEVホーム:28.6km/L、アクアハイブリッドZ:33.6km/L、ヤリスハイブリッドZ:35.4km/Lという具合だ。
上記ではノートとフィットは30km/L以下、トヨタのアクアとヤリスはそれ以上という差があり、ヤリスハイブリッドを試乗すると燃費の良さに驚く。ヤリスハイブリッドZの燃費数値は、ノートXに比べて25%優れ、数値上は燃料代を20%削減できる。
仮に1年間に1万kmを走る場合、WLTCモード燃費が実用燃費と考えれば、レギュラーガソリン価格が145円/Lとして、1年間の燃料代はノートXが5万1000円、ヤリスハイブリッドZは4万1000円だ。今は1年間に1万円を節約できる価値が、冷静に捉えられ、燃費数値へのこだわり方も適正になったといえるだろう。
それでもフィットのe:HEVホームと、1.3Lガソリンエンジンを搭載するホームでは、燃費の違いは当然に拡大する。1年間に1万kmを走る場合、e:HEVは5万円、ガソリンエンジンは7万2000円だ。2万2000円の差額で、この比率は環境性能とも合致する。
ノートXのWLTCモード燃費は28.4km/L、ノートFは29.5km/L
燃費を向上させる価値には、ユーザーの出費抑制と、環境性能の向上がある。今までは出費を抑える意識が優先されていたが、今後は環境性能が従来にも増して大切になる。「環境性能が向上すると燃料代と税金も安くなる」という状況から「環境性能の向上のために出費が増える」時代に変わる。
今はこの過渡期で、第1段階となる「燃費競争」が終了した。今後はいよいよ電動化の時代に入る。軽自動車では複数のメーカーが共通のハイブリッドシステムを低価格で装着するなど「燃費協調」の側面も見えてくる。
驚くような燃費数値は飛び出さないが、全般的に底上げが図られ、偏りなく優れた環境性能を達成できる時代に向かうだろう。
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みんなのコメント
数㌔変るんだからこの差はあって無いような物。
此からは燃費から電費に変るんだろうし。
これらは燃費重視の車なのが理解できてない。
運転が楽しい車はいくらでもある。