かねてからレクサスGSが生産中止になるという噂が出ていたが、レクサスは2020年4月23日にGSの生産を8月で終了することを正式に発表。
レクサスGSはレクサスが日本での販売を開始した時に、IS、SCとともにスタートラインナップに加えられていた重要車種だ。加えてGSは日本でも絶大な人気を誇ったアリストの系譜にある名門セダンでもある。
クルマの評価は高く、モデルバリエーションも豊富にラインナップしていたが、『笛吹けど踊らず』、日本での販売は低空飛行が続いた。
なぜレクサスGSが日本市場で苦戦したのかを渡辺陽一郎氏が考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:LEXUS、TOYOTA、MERCEDES-BENZ
【画像ギャラリー】2020年8月で生産中止となるレクサスGSのファイナルモデル『Eternal Touring』は超絶シブい!!
レクサスが8月にGSを生産中止することを正式発表
GSが2020年8月に生産中止となることと同時にファイナルモデルとなる特別仕様車のEternal Touringが正式発表された。発売は6月1日からとなる
レクサスがGSの生産を8月で終了することを正式にアナウンス。
それに向けてGSがどうなるのか不透明なため、販社に取材してみると、GSとスポーツモデルのGS Fは、2020年6月20日頃に受注を締め切り、8月に生産を終え、その後にフルモデルチェンジを行うなど、継続や復活の予定はないという。
特筆ポイントとしては、4月23日に特別仕様車の『Eternal Touring』を発表(発売は6月1日から)。マークXのようにファイナルとは名乗っていないが、これが最後のGSになる(画像ギャラリー参照)。
Eternal Touringは450h、350、300h、300のすべてに設定される。随所に赤をあしらったインテリアがスポーティ
なぜGSを終了するのかも販社に尋ねた。
「最近はGSの売れ行きが下がり、需要はレクサスESに移っている。2020年の9月から10月になると、ISが規模の大きなマイナーチェンジを実施して、ボディを少し拡大する」
と、答えてくれた。
「ESの投入やISの拡大で、GSのポジションをカバーすることが可能になる。またトヨタブランドのクラウンも、現行型になってボディを拡大し、スポーティ感覚も強めた。これらの事情が重なり、GSを終了することになった」と続ける。
2017年にレクサスのFFセダンのESを日本で販売開始。質感の高い内外装に加え、FRのGSよりも室内が広く快適なことから一躍人気となった
GSの販売台数はESの10分の1以下
GSはマイチェンによりフロントマスクが大きく変更されてイメージチェンジを図るも、2012年デビューという設計の古さはユーザーへの訴求力が弱かった
レクサスGSの2019年における登録台数は、スポーツモデルのGS Fを含めて、1カ月平均が83台であった。
ESは2018年の登場だから設計が比較的新しく、2019年に1カ月平均で928台を登録している。GSの売れ行きはESの9%だ。
2020年に大幅マイナーチェンジを受けるISは、2019年に1カ月平均で171台を登録した。ESの18%だが、GSに比べると約2倍だ。
このようにGSは、LSとISの中間に位置する車種だが、今では同サイズのESも用意されて売れ行きが下がった。そのために廃止される。
GSの下のポジションに位置するISは現行モデルで販売を大きく落とした。ISはビッグマイチェンを受け現行モデルを継続販売するが再生できるか
GSは後輪駆動、ESは前輪駆動だから運転感覚の違いはあるが、高級感を重視するユーザーには、ESの広くてリラックスできる車内も魅力的だ。
スポーツ派には、ISやミドルサイズクーペのRC&RC Fが設定されるため、GSはGS Fを含めて廃止されることになった。
プレミアムブランドの中間モデルの悲哀
GSの足跡を振り返ると、日本でレクサスが開業する前は、海外版レクサスGSを日本ではトヨタブランドのアリストとして販売していた。初代モデルを1991年、2代目は1997年に発売している。
この後、GSが3代目に刷新される2005年に、日本国内でもレクサスが開業して新型GSの取り扱いを開始した。この時にアリストは廃止されている。つまりGSは、国内開業時から用意されるレクサスブランドの代表車種だ。
ただしGSの売れ行きは、この時代から伸び悩んだ。発売直後の2006年でも、1カ月の登録台数は800台前後だ。GSの直後に発売されたIS(2005年以前はアルテッツァ)のほうが好調に売れた。
2005年のレクサス日本販売開始のスタートラインナップに顔を揃えていたGSは、ドイツ御三家のユーザー獲得の期待がかかったが販売は芳しくなかった
これはプレミアムブランドに多く見られる特徴だ。メルセデスベンツではEクラスよりもCクラス、BMWは5シリーズよりも3シリーズ、アウディならA6よりもA4が好調に売れる。
プレミアムブランドは、ブランドごとにデザイン表現を統一させるため、サイズが違っても内外装の見栄えに大差は生じない。走行性能や乗り心地はサイズに応じて異なるが、コンパクトであれば価格が安くて運転しやすい。
そのためにEクラスや5シリーズよりも、Cクラスや3シリーズが買い得と受け取られ、売れ行きも伸びる。レクサスも同様で、GSよりもISの販売が上回った。
SUVにシフトしセダン離れが進行
現行のデビュー時のフロントマスク。スピンドルグリルも控えめで第1世代デザインの古さを感じさせる
GSは2012年に2代目へフルモデルチェンジしたが、この売れ行きも低調だ。発売直後の2013年でも、登録台数は1カ月平均で400~600台。依然としてISを下回った。
また2009年からは、SUVのレクサスRXも投入されている。この時点では従来型RXの国内版だったトヨタハリアーも継続して売られ、いわば新旧併売とした。
RXの売れ行きは2010年に1カ月あたり600台前後だから、好調ではないが、レクサスでもセダン離れが始まった。2014年には、RXよりもコンパクトなSUVのレクサスNXが登場する。2015年にはSUVの高人気に乗り、NXは1カ月に2000台前後を登録した。
レクサスの屋台骨を支えるSUVでもNXの登場は大きな転機となった。レクサス車が欲しいユーザーはセダンではなくNXをはじめとするSUVに流れた
以上のように、もともとGSの位置付けはLSとISに挟まれて辛い面があったが、レクサスがSUVを充実させたことで、セダン全体の人気も下がってきた。そこにESも加わった結果、GSはますます苦境に立たされた。
ちなみにレクサスが2005年に国内開業した時、開発者は、「国内版レクサスの販売車種は、海外と違ってセダンとクーペに絞る。駆動方式も運転感覚が上質な後輪駆動にこだわる」と述べていた。
この方針が次第に変わって売れ筋車種も前輪駆動のSUVに移っていくが、今でも後輪駆動セダンのGSは、上質かつスポーティなクルマ造りを目指すレクサスのコンセプトと相性がいい。
LS苦戦もGSにユーザーは流れていない
レクサスのフラッグシップであるLSの現行モデルは2017年にデビュー。大型化されたボディは不評で、旧型からの買い替えも思うように進まず苦戦
2017年に登場した現行LSは、ボディを過剰に拡大させた。全長は5235mm、全幅は1900mmだから、メルセデスベンツSクラスの標準ボディよりも大きくロングに匹敵する。最小回転半径は2WDが5.6m、4WDは6mと大回りだ。
その結果、販売店からは、「新型LSでは車庫に入らず、先代LSから乗り替えられないお客様も多い」という声が聞かれる。
その後顧客はどうするのか尋ねると「ほぼ同じ室内空間で、ボディがひとまわり小さなESに乗り替えるお客様もいる。しかしメルセデスベンツEクラスに移ってしまうこともある」と返答された。
ESはセダンとしては人気があるが、LSオーナーを満足させる存在ではない。GSがその受け皿に慣れなかったのがレクサスとしては痛いところ
ESは前輪駆動セダンだから空間効率が優れ、ボディサイズはGSと同等に収まり、車内はLSと同等かそれ以上に広い。そこで乗り替えるユーザーもいるが、プレミアム感覚を重視すると、LSからESに乗り替えるのは物足りない。
そこでメルセデスベンツEクラスを選ぶ。今でもメルセデスベンツのブランド力はレクサスを上回るから、LSからESでは物足りなくても、Eクラスならどうにか満足できるわけだ。
このような状況だから、LSの売れ行きは低迷している。2019年における1カ月平均の登録台数は262台であった。GSの83台、ISの171台よりは多いが、低調なことに変わりはない。
メルセデスの2019年の累計販売台数はレクサスよりも多い。Eクラス、Cクラスが堅調に売れているのが大きい。レクサスからもユーザーが流れている
LSの肥大化を考えると、GSに磨きを掛ける方法もあるだろう。今のLSは、将来の燃費規制などで不利なV型8気筒エンジンを採用していないが、GS Fは今も搭載している。
V8エンジンを積んだGSの豪華仕様があれば、LSとは異なるダイナミックな高級感を訴求できたようにも思える。
特別なモデルとしてスポーツに特化したGS Fをラインナップしているが、旧型GSにあった460のように高級志向のV8搭載モデルがあってもよかった
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販売店が、GS買ってた層にESはウケると思ってるのが不思議。