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どこまでできる? やってはいけないクルマのセルフメンテナンス!

掲載 更新 11
どこまでできる? やってはいけないクルマのセルフメンテナンス!

 前回、本webサイトでクルマを長生きさせたい! 達人が教える「自分でできるメンテナンス術」というテーマで、「常に愛車のコンディションを知ろう」「愛車専用のメンテナンスノートを作って定期的に点検、整備しよう」、「労わって愛車を運転しよう」とお伝えしました。

 こうした日々の積み重ねで愛車の機械的、金銭的な負担を減らすことができれば、いざという時に大掛かりな整備もできるし、ドレスアップやチューニングにもお金を回せます。

最悪エンジンが壊れる場合も!? 超重要部品「タイミングベルト」 本当の寿命と復活の訳

 しかしながら誰でも「そうはいっても、どこまで自分でメンテナンスしていいの?」と疑問に思うはず。

 そこで今回のテーマ、「やってはいけないクルマのセルフメンテナンス!」ということで、「ココはプロにお願いしよう」という判断基準や、自分でやるにしても「落とし穴に気を付けろ」という点について、いまではとても貴重な存在といえる現役ベテランメカニックに、プロのノウハウを聞いてきました。

 ちなみに池畑氏の簡単なプロフィールですが、約30年にわたりVWに勤務し、現在は自動車事故調査資格のボッシュCDRアナリストになられています。

クルマを長生きさせたい! 達人が教える「自分でできるメンテナンス術」


文/池畑浩
写真/池畑浩 ベストカーweb Adobe Stock

【画像ギャラリー】東京・東久留米にガレージを構える整備工場「オートクリニック」さんの秘蔵写真!!

プロとアマチュアの線引きは?

筆者とオートクリニックの小嶋英俊社長

 「自分でクルマいじりする時、これはやっちゃダメっていうのはありますか?」とストレートに尋ねると、開口一番、「当たり前のことだけどさ、クルマのことは良く分からない、ちゃんと整備したいという人は、オレたちプロに任せてよ」と自信たっぷりに胸を張るのは、西東京は東久留米市にある自動車認証工場「オートクリニック」の小嶋英俊社長だ。

 人は外見で判断するなと言う格言の通り、小嶋社長率いるオートクリニックは外観こそ古びた街の整備工場だが、その内情はとんでもないクルマ工房。そこはまさしく長年に亘って積み重ねてきた豊富な自動車整備の経験と知識、磨き上げてきた高い技術力が自慢の整備工場だ。

専用工具やテスター、調整などが必要な箇所はプロに任せよう

オートクリニックさんの工場内

 クルマのメンテナンスに関する基本的な考え方を整理しておくと、いうまでもなく専用工具やテスターが必要だったり、調整が必要な修理、点検については、これはもうプロにお任せしたほうがより安心、安全だ。

 小嶋社長は「ブレーキホースもそうだけどさ、ゴム系部品の交換時期とか目視で判断できないでしょ」と、いきなりハードルが高い。

 たしかにゴム系部品に限らず、部品の寿命を目視や触診で判断するのは整備経験の少ない素人には無理だ。そこで気を取り直して、自分でできるいくつかのメンテナンスを例に挙げて注意点を聞いてみた。

■ブレーキ関連

池畑氏所有のビートルのブレーキシューを自らが整備した時のもの

 「ブレーキは重要保安部品だからプロに任せてほしいな」。「そういやこの前、自宅の前でブレーキ交換してたじゃん。なんだ自分でできるんだって思ったよ、ハッハッハ」と小嶋社長。

 すかさず「素人整備なんで、たまに右後ろのシューを引きずるんですよ」と返すと、「ブレーキシリンダーのピストンがサビて戻りが悪いんだな。カップ外さなくていいからグリス差しときなよ」と有難いアドバイス。

 「グリスもブレーキに使っちゃダメな種類があるからね」と見せてくれたのはシリコン系のスプレーグリスだった。

 ちなみに国内大手自動車用ブレーキメーカーによれば、ブレーキパッドとローターの交換時期は走行距離や使用状況によって異なるが、パッドは新品の半分(5mm)以下、ローターはパッドとの接触面がレコード盤のようになっていたり、深く削れている場合には交換を推奨している。

 ディスクローターやドラムの溝は研磨して再使用できるが、正しくはローターやドラムの使用限界値(メーカー、仕様によって異なる)の範囲内か否かを実測して判断しなければならない。

 こうした見極めは経験が無いと難しい。ディスクブレーキのように比較的簡単に交換できても、ドラムブレーキの場合は構造が複雑なうえ、シューの面取りやドラムとの擦り合わせやアジャスターによる調整が必要になる。なるほど小嶋社長の言う通り、ここは迷わずプロにお任せしたほうが安全だ。

■ブレーキフルード

ブレーキフルードのチェックは、ブレーキリザーバータンク内の液量が規定の範囲(MAXとMINの間)にあるかを点検。 ブレーキ液の減りが著しい時は、ブレーキ系統からの液漏れやブレーキパッドなどの摩耗が考えられるので整備工場へ依頼して原因を突き止めよう

 一般的なクルマにはグルコール系のブレーキフルードが使われているが、この取り扱いには注意が必要だ。万が一、ボディなどの塗装面にブレーキフルードを垂らしてしまったら、すぐに大量の水でよく洗い流そう。そのまま放っておくと、ブレーキフルードが塗装の中に浸透し、塗装を膨らませてしまう。

 またブレーキフルードの交換作業も専用ツールが無い場合、最低2人必要なので、自分で交換する場合は専用工具を用意するか、プロのアドバイスを受けられる環境で行うほうが確実だ。

■ATフルード

 ATフルードもエンジンオイル同様、その交換時期の判断は素人には難しい。敬愛するベテランメカニックの師匠によると「2.5万kmごとにフィルターと一緒に交換して、バルブボディなども清掃したほうが良いね」と教えてくれた。

 また「走行距離に関係なく、変速ショックが大きくなったり、違和感を感じたら、すぐその症状をプロに伝えて対処してもらうのがベストだよ」とも言っていた。

 クルマに心得がある人でもATフルードやフィルターを交換する際は、ゴミや埃の侵入に気をつけるべきだが、繊細な制御系部品なので、ここは素直にプロにお任せした方が間違いない。

サスペンション関係

サスペンションの交換はプロに任せよう(Adobe Stock@sarawutnirothon)

 一般的なクルマの関節部分にはゴムブッシュが多用されているが、これも経年劣化によってステアリングにガタや異音が生じたり、タイヤの編摩耗などを引き起こしたりするのできちんと交換、整備しておきたい。

 ブッシュの交換には圧入機が必要だったり、アームやロッドを交換した場合にはトーやキャンバーなどアライメントの調整が必要になるので、ここも素直にプロにお任せしたほうが間違いない。

 ショック交換くらい自分でできるだろうと思っていても、とくに最近のクルマではお勧めしない。その理由は、近年、標準装備化が進むADAS(Advanced Driver-Assistance System=先進運転支援システム)にある。仮に自分の愛車にこれら先進装備がついていたら、むやみに車高を下げてはいけない。

 車両の先端にあるレーダーやセンサーの初期値(新車時のゼロ設定値)に誤差が生じ、いざと言う時、ADASが正しく作動しない、あるいは警告灯が点灯する恐れがあるからだ。

自分でできるところに落とし穴あり!

バッテリー上がりも頻繁に起きるので日頃から自分でチェックしておきたい

日常点検と整備については法令(道路運送車両法:第47条の2)でユーザーの義務であると規定されている。具体的にどこをどのように点検するのかについては国土交通省のホームページを参照。点検箇所は15項目あり誰もができるもの

自動車の点検整備ついて詳細に解説している国土交通省のホームページ

 セルフメンテナンス15項目のなかでも気をつけるに越したことのないポイントはたくさんある。そのいくつかを具体的に見ていこう。

■タイヤ関連

ホイールの受け部、テーパー型のボルトホール

 季節ごとのタイヤ交換で慣れている人でも正しくローテーションしないとその効果を発揮できない。FFと4WDではローテーションの順序が異なる。

 高性能タイヤなら回転方向にも要注意だ。そして意外な盲点がボルトの締付け。小嶋社長は「正しいボルトを使うこと」だと指摘する。ボルトの受け部にはテーパー型やラウンド型など数種類ある。ネジのピッチが合って締まるから大丈夫ではない。

 2つ目は「適正な取付手順」だという。「まず対角線の2本を手できちんと締め込んだ後、トルクレンチで締めるよ」ということだ。

 そして最後が「正しい締付トルク(レンチの使い方)」だと言う。たまにトルクレンチを勢いよく「カチカチ」何回も鳴らす人を見かけるが、基本的にこれはNG。1回「カチッ」と鳴ったトコが設定トルクなので、その後何回も「カチカチ」鳴らして締めてはいけない。

 小嶋社長も「オレ達プロは1回締め込んだ後、確認という意味でもう1回締めることがあるけど、力加減が重要なんだよね」と、再びハードルが高いプロの技がさく裂。この3つが疎かだとホイールにガタが生じるだけでなく、最悪の場合はホイールが外れることもあるというので要注意だ。

ホイールのボルトの締め付け方にもプロの技がある

タイヤの位置交換(ローテーション)とアライメント、タイヤの点検・整備(出典:ブリヂストン)


■冷却液

 熱変化が激しい冷却液も立派な消耗品だ。国内の大手自動車メーカーによれば、新車なら16万kmまたは7年、2回目以降は8万kmまたは4年(距離と年数のいずれか早い方)での交換を推奨している。

 一方、ラジエターキャップも「消耗部品」であることはあまり認識されていない。加圧弁と負圧弁で構成されるキャップは、冷却水の漏れを防ぐだけでなく、加圧することで沸騰温度を上げ、冷却空気との温度差を保つことでラジエターの放熱効果を高めている。

 最近ではリザーバータンク付きの車両が主流になり、キャップを外す機会は少なくなったが、1000円程度の部品なので長年放置することなく、車検毎に交換すれば、冷却水トラブルを未然に防げるので実践したい。

■バルブ交換

ポルシェの4灯式LEDヘッドランプ

 少ない消費電力で高輝度なLEDバルブは、夜間の視認性が良くなるだけでなく、オルタネーターやバッテリーへの負担も軽減できるメリットがある。

 しかしながら、間違った取付方法や粗悪製品の場合、正しい光軸から外れて対向車にギラギラと目つぶしのような光を放ち、迷惑どころかとても危険な状態になってしまう。

自分でLEDバルブに交換した時は、夜間、壁にヘッドライトを照射して、キチンと配光パターンが出ているか確認する、あるいは車検場の近くにあるテスター屋さんで確認してもらうなど配慮したい。

 またLEDへの交換で生じる電圧降下によって点滅が早まるハイフラッシャー現象やバルブ切れと誤認して警告灯が点灯するなど思わぬ現象を引き起こす恐れがある。

 その場合の対処法は、LED化に対応したリレーに交換するかバルブの手前の配線に抵抗を入れるかのいずれかになる。ただし、電気配線の加工は、その後の車両火災などの原因にもなりかねないので推奨しない。

■電気配線   

 いまでは自分でいじることも少なくなった電気配線。「―」マイナスアースも重要だが、常時電源やイグニッション・オン電源から取る「+」プラス配線の分岐方法は要注意だ。

 多くは作業性や利便性を優先してエレクトロタップ(分岐コネクター)が重宝されているが、小嶋社長とベテラン工場長は口を揃えて「電気配線ははんだ付けが一番だな」と言い切る。

 「カシメもいい加減だと抜けるでしょ」、「ヘッドランプとか大きな電気が流れる所はいい加減に付けると熱を持って危ないんだよ」、「よくコネクターが赤茶色になってるの見たことあるでしょ、あれは危ないね」と目に見えない電気の怖さを話してくれた。

 実際、令和元年中の車両火災は3358件で、配線関係による出火は2番目に多い(99.2%:令和2年の消防白書より)のだ。それだけリスクを伴う電気配線だから、作業する場合は、適正な配線(容量)と端子による確実な結線、適切な配線の配置と固定を心がけたい。

カメムシ(エレクトロタップ)

ギボシ端子(ダブル)

Y型接続端子

 最後にこんなことも教えてくれた。「ネジを緩めたり、締めたりするのも気をつけてるよ」、「手に伝わってくる感覚で固いなと思ったら無理せず油を差して(浸透するまで)放っておく」、「締める時も手の感覚を頼りに慎重に締めないとね」と、これぞプロの領域の話だ。

 自分も昔、固いネジをポロリとねじ切って青くなったクチ。百戦錬磨のベテランから出た思わぬアドバイスにスイッチが入り、もっと教えてください!とお願いすると、「オイルのドレンパッキンあるでしょ。アレが張り付いてたらキレイに外して、取り付ける時はボルトにパッキンを通さないで、オイルパン側にパッキンを当てといてからボルトを締めるんだよ」。

 おぉ~、さらに興味本位で「ヒューズも年に1回、車検で交換と聞きましたが、ほんとですか?」と尋ねると、「理想的だね。電気が流れるところはすぐに電食が始まるからクリーニングするのはいいね」。「でもやりすぎるとガタが出て不具合の原因になるから気をつけてね」と教えてくれた。

 今回お世話になったオートクリニックは、新小金井街道と所沢街道が交わる交差点の近くにひっそりと佇む。その工場は外観からは計り知れない百戦錬磨の技術と深い経験を持ったベテランメカニックが腕を振るう街の自動車工場、いや、秘密基地だ。

 社長の小嶋さんはじめメカ長の手にかかれば、長年の経験と技術でものの見事に治してしまう。それもクルマ好きには堪らない職人気質の仕事だから、見ているだけでとても心地よく、静かに回るエンジン音を聴いていると「信頼」と「安心」が見えてくる。

工場内にはポルシェ911や1920~30年代(?)の英国車の姿も

いすゞベレットのキャブ調整をしていた

 工場のなかには見たこともない往年の英国車や憧れのポルシェ911があったり、国内外の旧車から現代のクルマまで整備なら何でもこい!と言うのだから頼もしい。

 取材当日、幸いにも往年の名車「いすゞベレット」のエンジン調整をする場面に出くわした。もちろん始動はセル一発! しかも冷間始動なのにタペット音さえなく粛々と回っている。

 スローでこれだけ滑らかにエンジンが回るのは、工場長によるSUツインキャブのセッティングがドンピシャで決まっているからだ。油で汚れた年季ある手でスロットルを開けると、エンジンが嬉しそうに「ブォン」と返事して跳ね上がる。こんな光景を見たら旧車や愛車のメンテナンスに困っている人は感動するに違いない。

 クルマ整備のプロ、それもプロ中のプロの仕事は本当に神々しい。そんな小嶋社長は最後に「自分でクルマをいじる人はほんとに良く勉強してますよ。でも無理しちゃいけない」。

 「それと一番良いのは近所に良い整備工場を見つけて仲良くなることだよ」。確かに今や修理といえば診断機をかけて部品をポン付けして終わりの時代。

 「信頼できる整備工場で勉強させてもらって、お金が貯まったら恩返しでその工場でしっかり治してもらう。これが一番ですね」と言うと、社長は「上手いこと言うね」と笑顔で返してくれた。

 ぜひみなさんも、地元の「街の秘密基地」を探してみてはいかがでしょう。

取材協力/オートクリニック
所在地:東京都東久留米市下里1-10-6 問い合わせ先:042-475-3880

【画像ギャラリー】東京・東久留米にガレージを構える整備工場「オートクリニック」さんの秘蔵写真!!

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みんなのコメント

11件
  • どうでもいいけど、写真みたいに道路で作業されてる方、たまにいらっしゃるけど、、危ないし、公道だし、よくないんではないかなぁと思ってしまう…。
  • ???「DIYでオイル交換したらドレンナメて締まらなくなりました。助けて下さい」
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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