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世界最大の自動車メーカーを背負う仕事 トヨタ新社長「チャレンジは楽しい」 会長との関係は

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世界最大の自動車メーカーを背負う仕事 トヨタ新社長「チャレンジは楽しい」 会長との関係は

「トヨタ社長」のプレッシャー

佐藤恒治氏は、トヨタ自動車株式会社の役員であり、会社員であり、エンジニアであり、モータースポーツ部門のガズーレーシングや高級車部門レクサスの責任者であり、鼻血が出そうになるほど多くの肩書きを持っている。

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そんな彼が、タイのサーキットで車両テストを行いながら豊田章男前社長と談笑しているときに、世界最大の自動車メーカーであるトヨタを、歴史的に重要なこの時期に経営しないかと聞かれた。それまで順調にキャリアを積んできたとはいえ、まったくもって衝撃的な話だったという。

トヨタの従業員数は37万2817人、年間販売台数は1050万台(3年連続で世界最大の自動車・商用車メーカー)、年間営業利益は100億ポンドを優に超える。

しかし、前社長の言葉を借りれば、自分で解決するには年齢的に無理がある課題も山積していた。ゼロ・エミッションへの挑戦、ソフトウェアや技術の進化、自動運転など激動の時代において、トヨタは自動車メーカーからモビリティ企業へと変貌する必要性に迫られているのだ。

66歳の豊田氏に対し、53歳で就任した佐藤氏は、大きなプレッシャーを感じていたことを認めてはばからない。

「大きな責任を感じていました」と彼は言う。

「わたし一人で成功を繰り返せるかどうか心配でした。ところが、章男さんが『そういう気持ちより、チームのキャプテンとしての自覚を持ちなさい』と言ってくれた。その瞬間から、『できる』と思えるようになったのです。わたしはリーダーですが、互いにサポートし合って目標を達成することができる。わたしは一人ではなく、周りにはチームがいて、彼らが成功できるようにしなければなりません」

豊田氏が始めたシフトを、佐藤氏が加速させていく。トップダウンで命令を下していく時代は、トヨタでは終わった。解決すべき課題も、その解決策も多すぎるため、1つの見解で済ますことはできない。

インタビューを始めてから数分も経たないうちに、佐藤氏が自動車会社の社長として好感を持たれやすい人物であることが明らかになった。大きな笑顔、温かい握手、何でも喜んで答えてくれるし、質問の事前審査もない。ある時、記者は彼に「あなたはクルマ好きですか」と尋ねた。通訳が話す間、彼は目を輝かせながら記者を見つめ、両手の親指を立てて微笑む。言葉はいらない。あの野獣のように美しく輝かしい、V8スポーツカーのレクサスLCの生みの親である彼は、まさに「カーガイ」なのだ。

親しみやすく頼れるリーダー

インタビューを始めたのは、スパ・フランコルシャンのパドックにある淡白なボックスルームで、トヨタチームが6時間の世界耐久選手権レースでワンツーフィニッシュを達成した数時間後のこと。

当初、佐藤氏はずっとパドックにいる予定であったが、「トラブルシューティング」を行う必要があり急遽離れることになった。後に、これはダイハツの衝突試験の不正に関するものだったことがわかる。

そのため、佐藤氏はレース終了の数分前にパドックに到着したが、レース自体は最高の結果とともに幕を閉じた。この後、彼はモーターホームでチームに挨拶する際、「From what I saw, it was easy, right?(僕が見た感じでは、簡単そうでしたね)」と、柔らかい物腰で流暢に英語を話していた。豊田氏と同じように機転が利き、親しみやすい人柄でありながら、その裏側には毅然とした姿勢と筋がある。リーダーとして、佐藤氏は期待に応えてくれると、彼に近い人々は言う。

その確かな信頼の一部は、「人」ではなく「仕事」によってもたらされたものである。佐藤氏が初めて姿を現したとき、その場にいた上級幹部からは尊敬の念がにじみ出ていた。彼に道をあけるように人垣が分かれ、その背後には屈強なボディガードが控えている。一瞬、場の空気が凍りついた。

そして、佐藤氏が一歩前に出て、その人垣に加わった。これを合図に、祝福に沸くドライバーやチームメンバーたちが舞台の中央に立ち、ヒエラルキーを越えていく。アドレナリンが出ているのだろう。

佐藤氏はオーバーオールを着たままジュピラービール(度数5.2%)を飲み、この幸福感に包まれた中で笑顔を見せている。軽く冗談を飛ばしながら、待ちわびた人々に声をかけていく。

祝賀会が盛り上がったところで、そろそろ外に出て話をしようということになった。彼は就任後初めて欧州でインタビューに応じることになるが、満面の笑みを浮かべながらも、前途多難な様子がうかがえる。

課題山積み 章男会長との関係は

業界レベルの課題としては、CO2排出量削減に向けたテクノロジー・ニュートラルなアプローチ(水素なども含む)を維持しながら、電動化(トヨタは昨年2万6000台のBEVを販売、テスラは120万台)にどう取り組むか、など。

さまざまなパワートレインを幅広く展開するというアプローチは、ハイブリッド車のリーダーであるトヨタならではのものだが、BEVに注力する同業他社とは相反するものであり、遅れをとって取り返しがつかない状況に陥るリスクがある。

また、個別の課題としては、意図しない加速の疑惑、地震、財務上の損失、さらに世界的なパンデミック(コロナ禍)など……。そして彼自身の言葉を借りれば、「危機に次ぐ危機」から会社を導いてきた豊田氏の後継者という、個人的な問題もある。

この点について佐藤氏は、豊田氏が会長という役割を担っていることはプラスに働いていると明言する。

「ご存じのように、わたしはエンジニアです。長年、クルマ作りに専念してきましたし、今後も社長として専念していきます。章男さんの楽しみはクルマを走らせることで、わたしの楽しみはクルマのエンジニアリング。それは、いいパートナーシップになるはずです。わたしは料理を作るシェフで、章男さんはそれを食べるのが好きなお客さんのようなものです」

なんともチャーミングな答えだが、難しい話題に移ると、佐藤氏の言葉に熱気が帯びてくる。トヨタが歩むべき道筋を語る彼の言葉には説得力があり、同社の足跡を考えても、他の業界リーダーから聞くよりもグローバルでニュアンスに富んでいる。

ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、BEV(2026年までに10車種、2030年までに年間350万台を販売する目標)、そして水素燃料電池に水素エンジンなど、あらゆる手段でCO2を削減することが目標であると彼は言う。

社会の変化にどう対応していくか

佐藤氏は、気候変動対策の中核となる目標に効果的なものであれば、どんなものでも構わないはずだと述べ、クリーンモビリティが社会のあらゆる人々の手の届くところにあることを立法者が保証することによってのみ実現できるのだと主張する。

「地域によって施策が異なる可能性があります。わたし達は、世界で誰一人として置き去りにしたくありません。答えは1つではなく、たくさんあるのです」

ということは、BEVへの移行が早い国、例えばノルウェーやオランダ、英国、ドイツなどに対し、これまでトヨタやレクサスのサービスは不十分だったと感じているのか、と尋ねてみた。「そうかもしれませんね」と、彼は認めた。前任者への敬意と会社への忠誠心、そして2000年から2019年の間にハイブリッド・システムの開発によってCO2排出量を30%削減したという事実を念頭に置くと、彼の答えはおそらく誤りを暗黙のうちに認めているに等しいだろう。

「確かに、他社に比べれば商品のバリエーションは少ないかもしれませんし、そのことに対して批判があるのもわかります。しかし、もし批判があるのなら、どんなBEVでも発売するわけではないことを強調したい。トヨタは付加価値のあるクルマをつくらなければなりません。何車種を発売するかという数字だけでなく、お客様にとっても、環境にとっても、どれだけ良いものであるかが重要なのです」

トヨタは、限られた地球資源を一部のBEVだけに使うのではなく、できるだけ多くの車両をハイブリッド化することで短期的に排出量を減らすという、(目立たないが)常識的なスタンスを貫いてきたが、佐藤氏の時代になってもその姿勢は変わらないだろう。

「水素には未来がある」という考えも変わらないが、少なくとも自動車では燃料電池から水素燃焼エンジンにシフトしているように感じられる。

「欧州や中国には水素があります。エネルギー安全保障の観点からも、水素をいかに効率的に使うかが重要だと思います。トヨタとしては、その開発にも力を入れていきたい。章男さんは、水素(燃焼)ラリーカー(昨年ラリーで活躍したGRヤリス)のデモ走行を行っています。会社のトップがこのような未来の技術開発を積極的に示し、また技術的な課題に対する解決策を模索していることを示すことで、わたし達の熱意を感じていただけると思います」

不可能を可能に 失敗は恥ではない

他の技術についても、佐藤氏は熱意を示しつつも慎重に言葉を選んだ。固体電池技術については、「耐久性にはまだ大きな課題が残っていますが、ここを乗り越えれば、エネルギー効率は本当に素晴らしいものになるでしょう。わたし達も取り組んでいるところですが、まだ時間が必要です」と言う。

同様に、エンジン車用の合成燃料(eフューエル)についても、「合成燃料を作るのに必要なエネルギーは、今のところ十分な効率とは言えません。さらなる技術開発が必要です。それが実現できて初めて、現実的な選択肢になるのです」とした。

しかし、マイクロモビリティの話になると、佐藤氏は目を輝かせる。「モビリティを社会の中心に据え続けるためには、もっと多様なソリューションを提供する必要があると思います」と述べているが、これはおそらく電動スクーターやドローンなど、まだ実現されていない多くのイノベーションに言及しているのだろう。

「クルマという1つのモビリティにフォーカスするのではなく、社会が何を必要としているのか、社会の中でモビリティがどのような役割を担っているのかを考える必要があるのです。トヨタがウーブン・シティ(静岡県に建設中の実証都市)を作っているのも、そのためです。詳細は今手元にありませんが、モビリティにはいろいろな形があるのです」

ベルギーの夜が更け、翌週には欧州事業の全面的な見直しも控えていることから、佐藤氏の側近たちはインタビューを切り上げようと動き出した。愚問かもしれないが、これだけ多くの問題を抱え、しかもトップに就任して間もない今、佐藤氏は失敗を恐れることはないのだろうか。自動車会社は単にクルマを多く売って利益を上げることよりも、はるかに複雑で難しい側面を持つ。

記者が尋ねると、彼は少し考えてから、こう答えた。「失敗というのは、チャレンジしたときに起こるものです。たとえそれが失敗に終わったとしても、常識を破ることは恥ずかしいことではないはずです」

「エンジニアとして、常に問題に取り組み、不可能を可能にしようとしています。チャレンジすることは楽しいし、失敗も道のりの一部です。失敗は間違った選択肢を排除するものですから、それ自体が答えになります。世界は日々変化しています。一番重要なのは、挑戦することで変化に対応し続けることです」

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みんなのコメント

12件
  • 不正のトヨタ。大きくなりすぎたね。
  • チャレンジ?
    トヨタってゴリゴリの昭和企業、チャレンジしないから失敗も少ないのは世間の常識。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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