愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第49回。前編は、俳優の草刈民代さんが、現在の愛車と華麗に登場!
50歳で免許を取得
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「私は50歳のときに運転免許を取ったんですが、それまでは、自分がクルマを運転できるとは思ってもいませんでした」
メルセデス・ベンツ「ML350 BLUETEC」から降り立った俳優の草刈民代さんは、そう言ってから愛車の白いボディをやさしい目で見つめた。その温かな眼差しからは、愛車への愛情と信頼が感じられる。
なぜ、運転ができないと思っていたのに免許を取得し、どのような経緯で現在の愛車に至ったのか……幼少期の思い出にさかのぼり、振り返った。
「父はクルマが好きで、よく父の運転で家族旅行に出かけました。父は40歳になった頃から輸入車に乗るようになって、数年ごとにクルマを替えていたと思います。初めの頃はジャガーに乗っていましたが、そのうちベンツに替わったり、60歳から数年はアストンマーティンに乗っていました。『アストンマーティンを運転するのは体力がいる』といって、数年で乗らなくなってしまいましたけれど。私は3人姉妹の長女で、2番目の妹は大学生のときに免許を取りました。妹が免許を取った次の日に父のジャガーを借りて、彼女の運転で新橋演舞場にスーパー歌舞伎の『ヤマトタケル』を観に行ったのですが、免許取り立てなのに、やけに運転が上手かった。私にはぜったい無理だと思ったことを覚えています」
草刈さんはその後、バレエダンサーとして海外でも活動するようになり、1996年には映画『Shall we ダンス?』にも出演。2009年にバレエを引退してからは本格的に女優として活動し始める。多忙のなか、なぜそれまで無理だと感じていた運転免許を取得しようと思ったのだろう?
「あるとき、スケジュールが1カ月ほどぽっかりと空いていることに気づいたんです。その間になにをしようか? と、考えたとき、突然『運転免許を取ろう!』と、閃いたんです。なぜか直感的に、今なら運転をしても大丈夫だと感じたんですよね。それで次の日、日の丸自動車(東京都目黒区)に行って、そこから3週間で取りました」
絶対に無理だと思っていた運転にチャレンジした感想は、どのようなものだったのか?
「良い教官との出会いがあったのだと思います。路上教習のときに、目の前ばかりを見ていたら、『もっと目線を上げると視界が広がって安全に運転できますよ』と言われて、パッと世界が変わりました。あのアドバイスで運転のコツをつかんだ気がします。元バレエダンサーですから、いまだに身体の動きについてのアドバイスには正確に反応します(笑)。あと、筆記試験は真剣に勉強しました。エスカレーター式の学校で幼稚園から高校まで進み、高校を中退してバレエダンサーになったので、試験なんて長いこと受けてなかったですし。筆記試験が通らなかったら一生免許は持てないと思って(笑)」
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「うちは両親と3姉妹の世帯が同じマンション内にあります。ある時、母がクルマを買い替える時、3番目の妹が『BMWのX1が格好いい』と勧めたので、母はそれに決めたのですが、実際に乗ってみるとハンドルが重くて、『私が乗るようなクルマじゃない』と、だんだん乗らなくなってしまって……それからしばらくして私が免許を取ったのですが、そのクルマを借りて毎日のように運転の練習させてもらいました。それで結局、そのクルマを譲ってもらうことにしたのです」
草刈さんが運転したBMW X1は、2009年に発表された第1世代。X1というネーミングからしてBMWの「1シリーズ」をベースにしたSUVかと思えば、さにあらず。初代X1は、E90と呼ばれた「3シリーズ」をベースにしていたのだ。2760mmというホイールベースは、E90型3シリーズのセダン/ツーリング(ステーションワゴン)と共通だった。3シリーズをベースにするだけに、BMWがxDriveと呼ぶ4駆モデルもラインナップしたけれど、ベースグレードの駆動方式はFR(後輪駆動)だった。デビュー当時の資料には、全高が1545mmに抑えられているので、一般的な立体駐車場の高さ制限1550mmをクリアするとある。
「なるべく早く運転に慣れたいと思いまして、1日2時間から3時間、初めの1ヶ月は毎日乗るようにしました。用もないのに横浜まで往復したり、数日後に行くことになっている遠くのロケ場所まで行ってみたり、晴海埠頭にも何度も行きました。そんなことをしていて、帰って来て駐車場にクルマを停めたら知らない間に眠っていた、なんてこともありました。やっぱり緊張していたんでしょうね。バレリーナ時代は『稽古が全て』という感じでしたので、何をやるにも練習練習。家族みんなに呆れられながら(笑)。でも、このビーエムはすごく気に入って、8年間乗りました。走行距離も、8万kmくらいまでいったはずです」
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「オイル漏れや部品の交換など、いろいろ直しながら乗っていたんですが、うちの夫(映画監督の周防正行さん)から『赤いビーエムはそろそろ寿命かもしれない……』と、言われて。主人もクルマが好きで、TVRというスポーツカーに乗っていたこともあります。私がクルマに乗るようになった時期と前後して、彼はベンツのMLに乗るようになっていました。しばらくの間、夫はベンツ、私はビーエムと1台ずつ所有していましたが、夫は普段車を使わないので、2台必要ないんじゃないかということになり、今はMLをふたりで兼用しています」
草刈さんが乗っているメルセデス・ベンツMクラスは、2011年から2015年まで生産された第3世代。日本におけるエンジンのラインナップは排気量3.0リッターのV型6気筒ブルーテックディーゼルと、排気量3.5リッターのV型6気筒直噴ガソリンの2本立てで、草刈さんの愛車は前者だ。ちなみに、AMG仕様のMLは排気量5.5リッターのV型8気筒ツインターボを搭載した。
2015年、Mクラスは大がかりなマイナーチェンジを受け、同時に車名もGLEに改められることになる。
ここで草刈さんが語った、BMWとメルセデス・ベンツの違いが、非常にわかりやすかった。
「ビーエムですごくよかったのは、ハンドルをどれくらい切るとどれくらいクルマが動くのかが、はっきりとわかる点でした。自分で操作しているという実感が、安心感につながっていましたね。ベンツのほうは、とにかく滑らかで、どっしりした安定感があります。運転に慣れていない頃は、目線が高いと怖いのかな? と、思っていましたが、いまは見晴らしがいいほうが安心できます。どっちが好きか? ということよりも、私は1台に長く乗って慣れて、安心したいと思いたいようなのです。慣れて居心地の良さを感じることが、信頼にもつながるようです。いまではベンツのMLが頼りになる存在です」
なるほど、愛車を見る草刈さんの眼差しが慈愛に満ちていた理由がわかったような気がする。
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草刈民代(くさかりたみよ)東京都出身。7歳でバレエを始め、1981年より牧阿佐美バレヱ団に参加。96年の映画『Shall we ダンス?』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、新人俳優賞を受賞。99年、ローラン・プティ氏の「若者と死」の死神役に抜擢される。2009年、プロデュース公演「エスプリ~ローラン・プティの世界」でバレエダンサーを引退。引退後は俳優として映画、ドラマなどで活躍。
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Vol36.溝端淳平さん 前編/後編
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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・齋藤美紀 スタイリング・宋明美 編集・稲垣邦康(GQ) 撮影協力・メルセデス ミー 東京(六本木)
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かえって型落ちのほうが映えるのではないかと思わせる品の良さ。