愛車を収めるだけでなく、遊び場としても活躍する場所
ガレージ、リビング、ダイニング、キッチン……それぞれの用途に沿った、様々なカタチをもつ空間=キューブ(立方体)の集合体。それが建築家の筒井紀博さんが描いた伊勢崎の家だ。
前面の道路からは、ガレージと玄関しか見えないため、一見しただけでは敷地が500平方メートル(約151坪)もあるとはわからない。しかし、実はいくつものキューブが奥へ50mほど連なっている。
キューブとキューブの境目の所々に配されているのは中庭だ。これを筒井さんは「余白」と呼ぶ。
「なくても不便はありませんが、例えばリビングの隣に中庭があることで、夜、リビングでテレビを見ているときに、ふと中庭の方を見上げたら、まん丸い月が浮かんでいることに気づく。そんなちょっとした感動を与えてくれます」と筒井さん。
そんな余白が、生活の質を高くするのだという。
キューブと中庭の配置にも筒井さんはこだわった。これだけ奥に長い敷地だと、長い廊下を取ってしまいがちだが「単に廊下を進むのって退屈だと思うんです」
そこでキューブと中庭の配置の工夫で、廊下は最小限に。玄関とリビングを結ぶ間にはわずかに廊下があるが、そこには中庭があり、「中庭の紅葉が色づき始めたことに気づくとか、木陰が床に揺れる影をつくるとか、いろいろな発見があると思います」
“ガレージ”というキューブは家の正面に置かれた。しかし“家の顔”としての役割は、さらに手前に配されたグレーと白のフレームが担う。
外部と内部を混在させる、そんな役割だという。実際、施主はガレージのオーバースライダーを上げ、ガレージ内側とフレームより手前を広く使って、近くに住む親戚たちとよくバーベキューを楽しむそう。家の外と内が混在することで、楽しみを生むのだ。
一方で内に閉じたときのガレージは、目を離すことができない子供たちの、雨の日の格好の遊び場になり、夏はプールを置いて水遊び場にもなる。
ガレージは、車を止めるだけではなく、そうした用途もカタチにしたキューブなのだ。
個性ある空間が立体的に、機能的に積み重なる
外と内との混在は家の中にも。
「カーテンのいらない暮らし」と語る筒井さんの言葉には、「カーテンを閉めなくても、外からのぞかれる心配はない」ことと、「カーテンを開けなくても、外の自然を感じられる」という両方の意味がある。
それを可能にしているのが、中庭と各キューブの絶妙な配置だ。
家の外に向かって窓を設けなくても、それぞれの中庭から日が差し込み、空が見え、時間や季節の移り変わりがわかる。
外を拒絶するでもなく、内を開け放つでもなく、約50mにわたり絶妙に混在。伊勢崎のキューブの集合体には、そんな外と内を上手く取り入れる仕掛けが満載されている。 ■所在地:群馬県伊勢崎市■主要用途:専用住宅■構造:木造■敷地面積:500.00 平方メートル■建築面積:177.62 平方メートル■延床面積:214.88 平方メートル■施工:竹並建設■設計・監理:筒井紀博(筒井紀博空間工房)■TEL:03-3247-8922
※カーセンサーEDGE 2020年10月号(2020年8月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています 文/籠島康弘、写真/尾形和美
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