地球温暖化の抑制のため、現代のクルマには、エンジンのダウンサイジングやモーターとのハイブリッド化、アイドリング・ストップ機能などの「エコ技術」は必須だ。
エコ技術によってつくられた「エコカー」は、低燃費が期待できるので、「エコノミー(経済的)」でもあり、また、低燃費な運転操作を心がけることで、交通事故削減の期待もできる、といわれている。
コッチではOKなのにアッチではNG!? 車検場によって判断が異なる理由
しかし実は、「エコカーだからエコ」、「エコドライブすればエコ」と、言い切れないところがある。「実はエコじゃなかった」かも知れない事例をご紹介していく。
文:吉川賢一
アイキャッチ写真:Adobe Stock_tarou230
写真:TOYOTA、NISSAN、LEXUS、VW、Adobe Stock
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ハイブリッド車は、エコノミーではない
ハイブリッド車は、ガソリン車に比べ、燃費が良い傾向にあるのは間違いない。しかし、小型バッテリーや駆動用モーターなどのコストが加わるため、どうしても車両価格は高くなる(※同車種のガソリン車とハイブリッド車を比較した場合)。
ヤリスハイブリッドXは199.8万円、ヤリスガソリンXは159.8万円 価格差は約40万円もある
減税(場合によっては免税)や、政府や自治体からの補助金が出ることがあるとはいえ、その車両価格の差を燃料代の差額で埋めあわせようと考えると、(運転方法や走行距離などにより個人差はあるが)10年以上乗り続けなければならない計算となる場合もある。
つまり、ハイブリッド車は、給油の頻度はガソリン車よりも少なく、(製造工程はさておき)走行中のCO2排出量は少なくエコロジーではあるが、エコノミーとはいえないのだ。ハイブリッド車は、優れた低排出ガス車といったエコロジーな面で納得し、購入することをおススメする。
BEVは内燃機関車よりもCO2排出量が多くなることがある
ハイブリッド車やバッテリーEV(以下「BEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー動力のみで駆動するEV)」)に搭載されている、ニッケル水素バッテリーやリチウムイオンバッテリーは、製造の過程で多くのエネルギーを必要とする。なかでも、リチウムイオン電池に用いられるリチウムやニッケル、コバルトといった金属の抽出や精錬には、多くのエネルギーが必要だ。
フォルクスワーゲンは、「ディーゼル車とBEVを比較した場合、BEVの方が製造段階で約2倍のCO2を排出している」という情報を公開している。
ディーゼル車とEV車の、製造工程に発生するCO2を算出した資料が公開されている
そのデータによると、BEVの場合、走行に必要な電力を、風力発電などの自然エネルギーで賄うか、EU加盟国平均の発電方法(原子力発電を含む)でないと、CO2排出量はむしろ悪化してしまう。つまり、温暖化ガス抑制に対して、BEVは「絶対的な解」ではない、としているのだ。
本データは、VW社による1事例であり、全てのBEVメーカーに当てはまるとはいえない。だが、定量的に、WtT(油田から燃料タンクまで)、TtW(燃料タンクからホイールまで)のCO2排出量を比較したデータとしては、注目すべき内容として、現在さまざまなメディアで取り上げられている。
VWによると、ゴルフ7ディーゼルの車両製造段階のCO2排出相当量は29g/km(左端の赤)、対するeゴルフは57g/km(左端を除いた赤)と公表 エネルギー製造手段によっては、バッテリーEVの方がCO2排出量は多いというデータ(2020年5月頃にVWが公開した資料)
※補足:eゴルフとゴルフ7ディーゼルを20万km走らせたときのCO2排出計算値 ディーゼル車は11g/km、eゴルフは、風力発電だと2g/km、EU加盟国の発電方法平均だと62g/km、ドイツ国内の発電方法平均だと85g/km、中国の発電方法平均だと126g/kmとなる
アイドリング・ストップが、エコ運転の邪魔になることも
アイドリング・ストップ機能は、赤信号や渋滞時など、一時停車した際の燃料消費を止め、CO2排出を削減するメリットがある。JAFによると、10分間のアイドリング・ストップで、燃料は133g削減できるそうだ。しかし、停止と発進を頻繁に繰り返すような渋滞だと、不利になる場合もある。
一般的には5秒以上停車する場合だと、アイドリング・ストップした方が燃料消費は少ないが、それ以下の間隔では、かえって燃料を消費してしまう。
アイドリングストップはCO2削減に有効とされていたが、その弊害も起きている(PHOTO/Adobe Stock_taka)
また、交差点の右左折待ち、踏切の一時停止など、スムーズに発進したいときにアイドリングがストップしてしまうと、急いで再発進しようとするため、アクセルペダルを必要以上に踏み込んでしまい、余計に燃料消費する、ということにもなりかねない。
さらにはアイドリング・ストップ車用のバッテリーは、アイドリング・ストップ非装着車用のバッテリーよりも、1.5倍ほど高価であり、寿命も短い傾向がある(筆者の所有するアイドリング・ストップ付のクルマも、約1年半でバッテリー交換をすることになった)。
高性能バッテリーの消耗が早まることは、環境負荷にもなりかねない。つまり、アイドリング・ストップも「絶対的な正義」とは言い切れない。
「ふんわりアクセル」も場合によってはエコじゃない
また、環境に配慮したクルマの運転方法として、経済産業省などが推進している「エコドライブ」のひとつである「ふんわりアクセル」も、車列の中で行うと、逆効果となりうる。
スタート直後に20km/hまで5秒間かけてゆっくりと発進する「ふんわりアクセル」は、例えば、右折矢印の出る交差点でふんわりアクセルを実行すると、10台右折できるところが8台しか右折できない、ということも考えられる。
時と場合、周囲の状況に合わせて、ふんわりアクセルをするようにしたい(PHOTO/Adobe Stock_Imaging L)
自分自身はふんわりアクセルで燃費を稼ぐ一方、後続のクルマが信号で引っかかり、交通の流れを阻害する原因にもなる。交通の流れに合わせて、力強い加速をした方がエコな場合もあるのだ。
加減速の少ない滑らかな運転を心がければOK
「エコノミー」については、計算をすればわかることだが、「エコロジー」かどうかを判断するには、いろいろな要素を考える必要があり、なかなか難しい。
クルマの環境技術については、今後のさらなる進化を期待しつつ、運転操作に関しては、あまり難しく考えずに、加減速の少ない滑らかな運転を心がけつつ、必要に応じてアクセルを踏んで対応する、というのが最も賢いと筆者は考える。
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