駆動方式の元祖であるFRとコストダウンも兼ねて誕生したFF
クルマの駆動方式にはいろいろな種類がある。大別するとフロントエンジン・前輪駆動の「FF」、フロントエンジン・後輪駆動の「FR」、ミッドシップエンジン・後輪駆動の「MR」、リヤエンジン・後輪駆動の「RR」と区分でき、加えて4輪駆動「4WD」も存在する。なぜこんなに何通りもの方式が必要なのか。その疑問に応えるために、まずはそれぞれのメリット、デメリットについて考えてみよう。
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1)FF
FFレイアウトは、今や多くのクルマが採用する駆動レイアウトになった。FFではエンジン/トランスミッションと駆動輪が、同じ車体前方に位置するので後輪へのプロペラシャフトやリヤデファレンシャルなどを装備する必要がなく、前輪部だけで駆動系が簡潔する。
そのため生産工数が削減でき、低コストで利益効率が高くできる。FFレイアウトを広く大衆車の採用したのはホンダ(N360や初代シビック)、スバル(FF1000)などで、トヨタや日産など大手が採用するのはトヨタが1978年のターセル/コルサ、日産は1970年のチェリーまで待たなければならなかった。
FFにすると駆動輪と操舵輪が同じ前2輪となり、前後輪のアンバランスが大きい。また駆動しながら転舵させるため、ホイールハブをユニバーサルジョイントでドライブシャフトに繋ぐのだが、そのジョイント部にシャフトブーツを装着し、潤滑剤で満たしながら摩耗と耐久性を確保しなければならない。その技術はなかなか難しく、大きな転舵角を与えられないなどデメリットもあった。
また多くのメーカーがスペース効率優先からホンダ式のエンジン横置きを選択したため、前輪左右の重量配分を適性化することが難しくなった。スバルは当初からエンジン縦置きを採用していたのでシンメトリカルな左右対象レイアウトが可能で、それをベースに現代においても進化を続けているわけだ。
トヨタはターセル/コルサで縦置きエンジン/トランスミッション方式を採用したが、デファレンシャルやトランスファーをエンジンの下に搭載しなければならず、重心が高くなってしまっていた。そうした試行錯誤を繰り返し、現代ではスバル以外のほぼすべてのメーカーがフロント横置きエンジンのFFレイアウトに落ち着いているのだ。
2)FR
ではFRレイアウトはどうだろう。トヨタが初めて生産したAA型セダン(1936年)はFRレイアウトから始まり、その流れで1980年代までFRレイアウトが主流となっていた。AA型がFRを採用していた理由は、ベースとなった技術が当時自動車産業の主流だったFRレイアウトのトラックだったこと、生産ラインをトラックと同様に立ち上げたことなどが上げられるだろう。トラックと生産ラインを共用化することでコストを抑えることができていたわけだ。FFを採用にするにあたっては専用の生産ラインを立ち上げなければならず莫大な設備投資を要する。それはFRが長く生き残る理由にもなっていたとも言える。
運動性能を追求したMRとFF同様にコスト抑制のため誕生したRR
3)MR
MRレイアウトはというと、これは自動車工学が発達し運動性能の追求から生み出されたレイアウトだということがわかる。最初にMRを採用したのは1934年にフェルディナンド・ポルシェ(のちのポルシェ創立者)が設計したアウトウニオンというレーシングカーだった。
FRが主流だったレース界にMRを登場させ、それまでのレースカーとは一線を画す斬新なフォルムで大きな注目を集めるとともに優秀な成績を収めて現代のレーシングカーでもMRが常識となっている。
MRの定義は前後輪のアクスル間にエンジンやトランスミッションなど駆動システムを搭載していることだが、横置きエンジンや縦置きエンジン、フロントミッドシップ(日産GT-RやAMG-GT)などさまざまな方式が生み出されている。MRでは車体中央部分を駆動システムが占有するため十分なキャビンが確保できず、ふたり乗りスポーツカー用レイアウトとしてしか生き残る術がない。(一部軽トラックなどフロア下にMRを採用する例もある)
4)RR
RRレイアウトは、後輪アクスルより後ろにエンジンやトランスミッションを搭載している方式だ。丁度FFの前後を逆転したようなカタチだ。RRを最初に採用したのは独のVWビートルと言われている。アドルフ・ヒトラーがドイツ国民にも安価に手に入れられる大衆車を作るという構想のもと、フェルディナンド・ポルシェに開発を依頼。当時主流だった後輪駆動の後輪にエンジンとトランスミッションを搭載してしまえば安価に生産できるという現代のFF車と相通じる発想で生み出された。
駆動輪の後輪の上に重いエンジン/トランスミッションを搭載するため、駆動力が活かされ雪道でも発進が容易な利点が重宝されたのだ。現代ではポルシェ911がスポーツカーとして唯一のRRを継承している。
このように、さまざまな駆動方式のどれかひとつに絞れれば自動車メーカーもコストダウンができ、生産効率も利益率もあがる。だが、こうしたメリットやデメリットを車種ごとに使い分けなければ、走行事情に適した商品構成ができない。エンジニアの理想を追求する姿勢が、企業利益より優先された証として駆動方式の分化が促進され、より魅力あるクルマ作りが可能となっているのだ。
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