世界的なモーターショーになった北京・上海・広州では見かけない
北京や上海、そして広州モーターショーなどは、東京モーターショーをはるかに凌ぐ会場規模と出展メーカー数の多さを誇り、とくに交互に隔年開催される北京と上海モーターショーは、最近では欧米、日本、韓国など世界の主要メーカーがワールドプレミアモデルを多数用意するなど、事実上アジア最大規模のメジャーオートショーとなっている。
しかし、いまから10年ほど前は先進国メーカー、とくに日系メーカーのなかでもトヨタ車のコピーモデルが会場のそこかしこに展示してあり、その様子を面白おかしく日本のメディアが報じていた。しかし、最近は筆者が実際訪れている北京や上海、広州の各モーターショーではほとんどコピー車を見かけなくなった。
ここ数年でのコピー車のトピックといえば、2014年にジャガー&ランドローバーが中国民族系メーカーである奇瑞(チェリー)汽車と中国で合弁会社“チェリー ジャガー ランドローバー オートモーティブ”を設立し、中国での一部モデルの現地生産を開始した。レンジローバー・イヴォークが中国で生産開始をしたころと時を同じくして、中国メーカーの “陸風(ランドウインド)汽車”が“X7”というフルコピー車を発表した。筆者は広州モーターショーの会場でこのX7を初めて見たのだが、冗談抜きでイヴォークと間違えているひとを見かけた。
X7はエクステリアやインテリアはほぼ完ぺきにイヴォークをコピーしており、搭載エンジンは三菱製4G63型2L直4ターボエンジンが搭載され8速ATが組み合わされていた。最新のランドウインドのウエブサイトを見ると、X7はいまもラインナップされており、搭載エンジンがフォードと合弁会社を設立したり、SUVや商用車などをメインにラインアップする江鈴汽車との技術提携で開発したとする1.5Lターボへダウンサイズされ、見た目もイヴォークがベースなのだが、本家とは一線を画し、独自に改良が進んでいる。
このようにコピー車が出現するひとつのパターンとして、現地生産を開始するととたんに、CADデータなどが外部流出し、それを購入した中国メーカーが続々とコピー車をラインアップしてしまうのである。
クルマとは話は異なるが、iPhoneのコピーモデルといわれるものを見たことがある。話の真偽は不明だが、これは製品を入れる箱や、本体の外側の生産を依頼されたメーカーが、アップル社へ納入する数以上に生産して横流しているとの話であった。ただ電源を入れるとアンドロイドが起動したので、肝心の心臓部となる部分までは外部流出はしていないようなのである。そのため扱う業者も“偽物だけど本物”みたいな微妙な言い方をしていた。
話をクルマに戻すと、X7のようにたまにコピー車を見かける程度になったのは沿岸部で開催されるような規模の大きなオートショーだけともされている。中国国内でも経済成長著しい沿岸部の大都市では、外国人の目に触れる機会も多いので、主催者(つまり政府)がコピー車をメインにラインアップするメーカーの沿岸部のオートショーへの出展を規制してきていたとの話も聞くので、沿岸部で見かけなくなっただけで内陸地域ではまだ無数のコピーメーカーがあるともされている。
メーカー首脳陣のグローバル意識と庶民の経済力が上がった
それではなぜ中国でコピー車が目立っていたかというと、かつて10年ほど前ぐらいまでは、中国系メーカーのトップは改革開放経済前のバリバリの共産主義時代に教育を受けた世代ばかりであった。そのため海外渡航経験がないひとも多く、英語など外国語を話せるひともほとんどいなかった。もともと一般人民が自動車を所有するというシチュエーション下で育ってきたわけでもない。
そのような世代に現場の開発者が世界のトレンドを採り入れた、独自の新型車を開発したとしても、なかなか理解が得られず、たとえば「BMWそっくりのクルマをつくれ」などと指示を受けていたというのである。最終的に量産を承認するトップ層と同じく、当時(10年ほど前)新車を購入できる層は限られた富裕層であった。
富裕層は中国メーカー車など完全に“アウト・オブ眼中”で、こぞって欧米車や日本車を購入していた。しかも、性能などメーカーの設計思想など、クルマ本来の魅力というよりは、“先進国でよく売れているクルマ”というような、ブランドありきで所有している傾向が強く、“偽物のブランドバッグ”が出回るように、コピー車が溢れていたのである。もちろんコピーすれば、開発費は安く抑えることもできたということもあっただろう。
いまやEVを豊富にラインナップするなど、世界的にも有名となったBYD汽車もかつては、カローラのコピー車をラインアップしていた。カローラならば“トヨタエンブレム”のついている場所にBYDマークがついているのだが、そのスペースはトヨタエンブレムとまったく同じで、BYDのコピー車を買った後にトヨタエンブレムに付け替えるユーザーも多かったそうだ。
時は変わり、中国メーカーのトップにも、改革開放経済下で教育を受け、アメリカでMBAを取得し、英語など外国語にも堪能な若手世代が目立つようになった。それと同時に中国の自動車市場もだいぶ庶民レベルまでが新車を購入できるようになり、市場の成長とともに消費者の自動車に対する興味も多様化し、オリジナルモデルの開発及びラインアップが急速に進んできたのである。
同時に欧米完成車メーカーやサプライヤー、デザイン事務所、エンジニアリング会社に一定期間勤務した若い世代の中国人が中国にもどり、中国メーカーで腕を振るうことも多くなった。欧米メーカーの第一線で活躍したデザイナーやエンジニアを積極的にヘッドハンティングもしている。
筆者が中国に出かけはじめたころには、沿岸部の大都市では中国メーカー車などはほとんど見かけなかった。品質への不信のほか、“中国車に乗るのは恥”といった空気も流れていた。欧米車や日本車にそっくりなコピー車をラインアップしなければなかなか売れないという切実な問題もあったはずだ。
しかしいまの中国主要メーカーは、見た目品質や最新トレンドを採り入れるスピードの速さなどは日系メーカーをすでに超えているようにも見える。つまり一部の零細な中国メーカーを除けば、“コピー車は不要”という状況になってきているともいえる(それでもパラパラ出てくることはあるが……)。むしろ、日系メーカーが“パクる”というのではないが、中国メーカーの動きのなかから学ぶべき点も出てきているように感じている。上から目線で中国車を語る時代はすでに過ぎ去ろうとしている。
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