軽自動車の人気が止まらない。2019年4月4日に2018年度の新車販売台数が発表。2年連続で日本一に輝いたのは、軽自動車のホンダ N-BOXだった。
しかも、売れているのはN-BOXだけではない。登録車も含む総合販売台数ランキングを見ると、1位のN-BOXから5位のダイハツ ムーヴまでベスト5を軽自動車が独占! その勢いは留まるところを知らない。
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そもそも2015、2016年度にはトヨタのアクアが販売総合1位に輝くなど、過去を振り返れば軽自動車ばかりが上位を独占しているわけではなかった。
なぜ、いま軽自動車がこれほどまでに売れているのか。背景には、軽自動車の驚くべき“進化”や日本車の“変化”が大きく影響している。
文:渡辺陽一郎/写真:編集部、SUZUKI
販売上位10車中7車が軽自動車!
2018年度の車種別販売台数トップ10。地色が付いている車種は軽自動車。赤字は月販平均台数1万台超。(データ出典:日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会)
2018年度の販売台数を見ると、軽自動車が上位を独占している。1位はホンダ N-BOX、2位はスズキ スペーシア、3位はダイハツ タント、4位は日産 デイズ、5位はダイハツ ムーヴとなる。
登録車1位の日産ノートは、軽自動車を含めると総合6位であった。
デイズはルークス、ムーヴはキャンバスを含むから除くとしても、1~3位は正味の台数で軽自動車が独占した。
しかも上位3車は、すべて全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた車種だ。今はこの「スーパーハイトワゴン」タイプが、新車販売される軽乗用車の約40%を占める。
そして、スズキ ワゴンR、ダイハツ ムーヴ、ホンダ N-WGNのような全高が1600~1700mmの軽乗用車が35%前後になる。
つまり、軽乗用車全体の約75%は、全高を1600mm以上に設定した背の高い車種だ。言い換えれば今の軽自動車人気は、背の高い車種で成り立っている。
人気集まる背が高い軽自動車の魅力
1993年に発売された初代ワゴンRはハイトワゴンのはしり。1680mmの全高で優れたパッケージングを実現した
背の高い軽乗用車の起源は、1990年発売の初代ミニカトッポであった。全高は1700mm前後に達した。
ただし、ミニカトッポは、シートの着座位置がハッチバックボディのミニカとほぼ同じで、頭上にタップリした空間が空いていた。
着座位置を高めて床と座面の間隔を広げ、足を手前に引き寄せて足元空間を広く確保するミニバン的な手法は採用されていない。外観はユニークだが、今日のN-BOXやタントに繋がる優れた空間効率は備えていなかった。
その意味で直接のルーツは、1993年発売の初代ワゴンRだ。全高1680mmのボディは、シートやサイドウインドウの位置も、アルトなどのハッチバックに比べて高く設定されていた。
当時の軽自動車は今に比べると全長で100mm、全幅は80mm狭かったが、初代ワゴンRは後席の足元にも充分な空間が備わる。基本的な空間設計は、今のワゴンRやN-BOXに近く、大人4名が快適に乗車できた。
初代ワゴンRはシートアレンジも充実しており、後席の背もたれを前方に倒すと、座面も連動して下がり床が平らな広い荷室に変更できた。しかも左右独立式だから、3名で乗車して、荷物を積む時にも対応しやすい。
収納設備も豊富で、助手席の座面を持ち上げると、その下側に大容量のボックスが装着されていた。これらの機能は、すべて現行ワゴンRにも採用され、大切な魅力になっている。
新車販売は「減少」でも軽自動車は「増加」
1998年発売の5代目スズキ アルト。同年にはワゴンRやミラ、ムーヴなど様々な軽自動車の新型が一斉に登場。販売の中心もアルトからワゴンR、そしてスペーシアと背の高い車種に徐々にシフト
そこで軽自動車の変遷と、販売台数の推移を振り返ってみたい。
1980年の軽自動車の新車販売台数は101万3340台で、新車販売総数(小型/普通車+軽自動車)に占める割合は20%であった。
それが1990年に軽自動車の規格変更が行われて全長が3300mm、エンジン排気量が660ccまでに拡大されると、販売台数は180万2576台に増加。全体に占める割合も23%に拡大している。
そして1990年には、国内の新車販売総数が最高潮の778万台に達して、翌年からは減少に転じた。
1998年には軽自動車の規格が改めて刷新され、今と同じく全長が3400mm、全幅は1480mmの規格枠が成立した。
この時にはメーカーも新規格対応の準備を周到に進めて、1998年10~11月には、各メーカーから16車種の新型軽自動車がほぼ同時に発売。2000年には軽自動車の新車販売台数は187万4915台になり、新車販売総数に占める割合も31%に達した。
その後も軽自動車の売れ行きは少し増加して、2018年は192万4124台であった。1990年の180万2576台に比べると107%になる。
一方、軽自動車を除いた小型/普通車は、1990年が約597万台で2018年は335万台まで減った。2018年の販売台数は、1990年の56%にとどまっている。
軽自動車はバブル経済が崩壊した後も増え続け、小型/普通車は急落したから、2018年は新車販売総数の36%を軽自動車が占めた。2019年に入ると37~39%で推移している。1980年は20%だったから、軽自動車を取り巻く市場環境は激変した。
なぜ軽自動車激増? 3つの理由と長足の進歩
2年連続で“日本一売れている車”に輝いたN-BOX。全高1790mmのスーパーハイトワゴンで、室内空間も広いほか、基本性能も高い
ここまで軽自動車が増えた背景には複数の理由が考えられるが、最も大きく影響したのは、背の高い車種を中心に軽自動車の商品力が著しく向上したことだ。
販売1位のN-BOXを見れば分かるように、外観デザインは視覚的なバランスが良く、内装は上質で、大人4名が快適に乗車できる。後席を畳めば自転車を積める広い荷室になり、収納設備も豊富だ。乗り心地は快適で、走行性能にも不満はない。
歩行者を検知できる緊急自動ブレーキは今や常識になり、N-BOXやデイズは車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなども備える。機能は1.2~1.5Lエンジンを搭載する小型車と同等か、それ以上に充実した。
しかも、軽自動車だから昔と同じく小回り性能が優れ、運転がしやすく税金も安い。車を日常生活のツールとして使うユーザーなら、「これで充分」と感じる。
2つ目の理由は車の価格が全般的に上昇したことだ。安全装備や環境性能が充実したこともあり、車の価格はこの10年ほどの間に大雑把に見て15~20%高まった。以前は200万円で買えた車種が今では230~240万円に達する。
その一方で平均給与は、1990年代中盤から後半をピークに下がっており、直近で少し持ち直したが20年前の水準には戻っていない。車が値上げされて給与が下がれば、購入する車種のサイズを小さくするしかないだろう。
3つ目の理由は小型/普通車の商品力が下がり、なおかつ新型車の国内投入も減ったことだ。2008年後半に発生したリーマンショック以降、各メーカーともに国内で販売される車両の開発を大幅にリストラした。
軽が売れる理由と日本車の“変化”
この影響で2010年以降は、国内で発売される小型車の質感(主に内装の作りとノイズや振動)が下がり、車種数も減っている。今の日本車メーカーの多くは、世界生産台数の80%以上を海外で売るから、20%以下の国内市場は見捨てられた形だ。
こういった状況のなかで、軽自動車だけは、常に日本のユーザーに寄り添い続ける。日本における車の使い方を見据えて開発され、なおかつ軽自動車はライバル同士の競争も激しいから、商品力の向上も著しい。
日本のユーザーに対する思いやりとか、心意気も魅力だ。N-BOXが好調に売れているが、すべてのユーザーが、あの広い居住空間や荷室を使いこなすわけではないだろう。豊富な収納設備も同様だ。価格は150~180万円だから、従来の軽自動車に比べれば大幅に高い。
それでも好調に売れるのは、我々のために作られた車が放つオーラというか、実用性を超えた強い説得力だと思う。
軽自動車には、日本の小型/普通車が失った日本車の魂が宿っている。だから好調に売れるのだ。
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