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スポーツカーの本質を正しく体現するアルピーヌ「A110」「A110S」試乗インプレッション

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スポーツカーの本質を正しく体現するアルピーヌ「A110」「A110S」試乗インプレッション

 アルピーヌ「A110」は単に姿形を現代流に蘇らせただけでなく、走りの部分でもアルピーヌというスポーツカーは“こうあるべき”的な資質にまでこだわり、現代のテクノロジーとともに復活と遂げたことは前編で紹介した。「A110」らしいエモーションの豊かさは他ブランドのソレとも異なる個性も感じられる。

 一方で、新型がかつてのモデルと異なるのは、毎日、質実ともに快適に、またドライバーを選ばないモデルとして生まれている点だ。今回は「A110リネージュ」と「A110S」の2台を試乗した。「110S」のほうがストイックさは増すけれど、マニアックさはどちらにも存在する。

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フランスの粋とスポーツを着こなすならぬ、走りこなす

 まずは、アルピーヌのシートからの眺めから紹介したい。バケットタイプのシートに体をフィットさせ、ルーフ(天井)が頭上先まで伸びて、上下方向の視界がやや狭められた独特の視界の中に抜ける道路や景色には、独特の世界観が見い出せる。ロードクリアランスが低いスポーツカーということもあって、街中ではいつもよりビルが高い。



 また郊外のワインディング路では目の前の路面のアンジュレーションでさえ、ウインドウが切り取るワンシーンを今いる室内空間の設えとともに味わいつくすことも可能だ。この体験はスピードやコーナリングテクニックにこだわらなくても楽しめるだろう。



ルノー「メガーヌRS」と同じエンジン

「A110」(ピュアとリネージュ)と「A110S」に搭載されるエンジンが1.8L直4ターボであるのは同じだが、「A110」の最高出力(パワー)が252ps/6000rpmとトルクの320Nmが2000-5000rpmあたりまでで発生するのに対し、「A110S」の最高出力は292ps/6420rpm、最大トルクの320Nmは2000-6420rpmで発生する。「110S」のほうが40馬力ほどハイパワー化されており、トルクバンドも広く、ターボのブースト圧も0.4バール増加している。

 それらとともにブレーキのキャリパー/ディスクの性能アップ、シャシーも専用チューニングされ、アルピーヌ用に専用開発されたミシュランタイヤのサイズもフロント215mm、リア245mmとなり、グリップ力がアップしている。トランスミッションの7速DCT(ダブルクラッチトランスミッション)は共通だ。



 参考までに、このエンジンは、ルノー「メガーヌRS」に搭載されているものと同じものを縦置きから横置きに換えて、アルピーヌに搭載されている。ルノーの「RS」とはルノーのモータースポーツ部門ルノー・スポール=RSを意味し、市販車にも技術がフィードバックされているのだ。

 アルピーヌ「A110」は軽量さと一体感によって、あらゆる動作中に明確な軽量感がうかがえる。子犬が私の握るリードを引っ張るような軽さとトルクとで先に進もうとするし、曲がろうともする感覚が心地いい。いうまでもないが、コントロール性は子犬より数百倍良い。

 ボディーの重さ(軽さ)と剛性、サスペンションセッティング、タイヤの剛性感やグリップ性能、そしてエンジン性能のバランスが上手く図られているからこそ、この軽量スポーツカーの軽さや1.8Lターボエンジンの性能に素直に一喜一憂できるのだ。さらにアルピーヌ「A110」には絶妙なしなやかさを伴うサスペンションの固さが最大の調味料、スパイスともいえる。



「A110」と「A110S」の違い

 ひとたび、アクセルを踏み込めば、力強さと加速感は十分。大排気量の大トルク型の場合、どちらかと言えばエンジンがドライバーの存在よりも大きい、もしくは強い。エンジンが走りの原動力であるのは間違いないけれど、アルピーヌ「A110」の場合はボディーが軽い分、エンジンのほどよいリードや時にサポートによって、供に走らせる感覚が絶妙だ。ターボエンジンとはいえ加速はごく自然。高速の再加速の頼もしさ、登坂ワインディングでのコーナー出口での再加速のトルクの追従性も申し分ない。

 この印象を「A110リネージ」(スタンダード)とすると、「A110S」はさらにエンジンのピックアップの良さと加速力(強さ)と加速過程の盛り上がりがやはりいい。これだけでクルマの動きのメリハリ感が違う。が、ベースとなる「A110リネージ」では物足りないというワケではない。「S」のほうがよりスポーツ走行やスポーティなドライブに向いてチューニングされているのは当然だ。

 リネージでも「S」でもパドルシフトを使った現代流マニュアルドライブはどちらのモデルでも十分な性能の与えられたエンジンをより効率よく意のままに操ることができる。走行モードはノーマル/スポーツ/トラック。モード変更をするとスロットルレスポンス、ステアリングアシスト、ギアシフトスピード、ESCの設定が変わるとともに、液晶メーターのグラフィックも表示スタイルも切り替わる。

 例えば、一般道でスポーツモードを選ぶと、低速ギヤ=低回転を割と継続的に使うようなシーンでは、エンジン音の変化もエモーショナルな走りに一役買い、素敵なBGMにもなる。シフトダウン時にはブリッピング音「ヴォン!」と吠える。すると、シフト(実際のギヤ)はダウン、ドライバーのスポーツドライビング気分はアップ!?となる。

良いスポーツカーのお手本のようなクルマ

 そして、ハンドリングがやはりアルピーヌ「A110」の本質が際立っていた。アルピーヌらしさの追求は良いスポーツカーのお手本と言っても過言ではない。ステアリング操作時の重さはどちらも決して重くはなく街中ではやや軽めに、コーナリングや高速走行ではやや重めで扱いやすい。

 注目したのは、四輪の接地感だ。一般的に左コーナーを曲がろうとすると外側の右後タイヤに過重がかかる。ともすれば前タイヤ一輪に集中してしまうクルマもある。ところがアルピーヌは内側の前後タイヤにもきちんと過重がかかり、四輪を使ってコーナーリングするのだ。ポイントは内側のタイヤをいかに活かせるかというところなのだ。

 さらにMRであるアルピーヌ「A110」はコーナーを旋回中により重心も低くそれがお尻の後ろくらいで感じられる。FRは背中の後ろくらい。コーナーを抜けて再加速をする際にも重心低くお尻の後ろあたりから押し出されるトルク感と四輪を活かすシャシー造りが、ドライバーのより近い位置で行われることで、アルピーヌ「A110」との一体感がより増すのがわかり、ニンマリしてしまった。これは速度にかかわらず、このモデルの特性として感じ、楽しめるのが素晴らしい。これに専用開発のミシュランタイヤの貢献ぶりも加えておきたい。

 その上で「リネージ」は「S」と比べれば足腰はやや柔らかく、その分、ロールも「S」に比べて大きめだ。「A110リネージ」は「S」に対してコーナーでハンドルを切り、コーナリング姿勢に入るまで(整う)までの時間が「S」よりも少しかかる。つまり「S」よりもしなやか=ロールも若干だが大きめとなるが、あくまでスポーツカーの次元である。お世辞ではなく「リネージ」は多少のロールやしなやかさと向き合いながらドライビングするのがこれはこれで楽しい。なかなか他車では味わえないアルピーヌらしいハンドリング性能であることを強調しておきたい。



スポーツカーの本質を正しく体現

 一方、「A110S」はただ高速道路を直進するだけでも足下の引き締まった、カッチリとした印象があり、フラットライド感も一体感も「S」のほうが勝る。一方で乗り心地は少々硬くなるが、世の中のガチなスポーツカーからすればおそらく同乗者にクレームを入れられるほど酷いものではない。「それなのにこんな風に走れるんだ!」とアルピーヌの車両開発に感服してしまった。いくつか続くコーナーではやはり「S」のほうがより動きはシャープ。足元が引き締められ余分な動きが一層減った「S」は、ハンドルを切ってからコーナーの出口でアクセルを踏み込むまでの一連の動作にリニアさも一層増す。

 ちなみに「A110」はブレーキ制御式のトルクベクタリング(e-LSD)を採用している。するとコーナリング中では外側のタイヤに理想的なトルクとトラクションが得られるように制御が入ることもあるのだが、今回のコーナリングのスムーズかつ俊敏な動きにこの制御がかかわっていたのかどうかはわからない。入るレベルにはなかったと想像する。サーキットのような場所でよりハイスピードコーナリングをするような際に介入するのだろうか。もし今回どこかで介入していたとするなら、それくらい自然な制御が行なわれるとも言える。

 アルピーヌが登場して予約注文を開始したころ(「110S」は存在していなかった)、私の周囲の購入希望者たちが「ピュア」と「リネージ」のどちらを選ぶか、右ハンドルか左ハンドルかで悩んでいたことを思い出す。値段はボディカラーによって異なるが、「ピュア」は790万円~、「リネージ」は829万円~。そして新たに追加投入された「A110S」は899万円(税込み)。

 改めて「A110S」とスタンダートな性能を持つ「リネージ」を乗って、日常から遠出までこれ1台で過ごすなら私は「リネージ」を選ぶのではないかと思う。もし2台のうちの1台にスポーツカーである「A110」を所有できるなら、スポーツカー濃度もより濃い「A110S」が面白い。

「ピュア」はその名のとおり、必要最低限の装備ながら、ドライバーとのコミュニケーションもより密(挙動は「A110S」より大きめだが、低い次元でも操る感覚がより楽しめる)かつ乗り心地含め快適さもプラスされたモデルだ。私がもう少し身長があって純粋にアルピーヌのスポーツ性を求めるなら「ピュア」でもいいと思う。しかし162cmの私の場合、シートの高さ調整は必要だった。さらに「リネージ」には冬のドライブがより快適になるシートヒーターも付く。

 世の中に様々なスポーツカーがある中で、アルピーヌ「A110」は尖がり過ぎず、しかしスポーツカーの本質を正しく体現しているモデルだ。ドライビングに向き合うのでも、スタイリッシュで個性的、さらに居心地の良いスポーツカーとして選ぶのでもブレない運動性能=本質が在る限り、ドライバーを裏切ることはないモデルと言えるだろう。

■関連情報
https://www.alpinecars.jp/model/a110/

文/飯田裕子(モータージャーナリスト)撮影/雪岡直樹

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みんなのコメント

1件
  • アルピーヌは昔から、リアエンジンの挙動を制御することに長けているね。

    リアエンジンでキチンと挙動を制御出来ているのは、911とアルピーヌだけなんて言われていた。

    おカネが有ったら110S、買いたいなぁ。


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