NSXが2022年いっぱいで生産を終了するというショッキングなニュースとともに、最終モデルとしてタイプSが発売されることが明らかになった。
現行NSXの最終標準モデルはすでに購入できなくなっているが、ミドシップに搭載したモーター一体型3.5リッターのV6ツインターボエンジンでリアを駆動し、フロントを独立した2つのモーターで駆動するという凝った仕組みを採用して、価格は2420万円であった。
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エンジンは専用設計、アルミ素材を多用した専用シャシーなど豪華装備満載のスーパースポーツにつけられたこの価格は、果たして高いのか? 安いのか?
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、BMW、Honda、Mercedes-Benz、Nissan、Porsche
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■NSXは高いのか?? ライバル車たちと比較する
生産終了が発表されたNSXの最終モデルとなるタイプS(北米仕様)
NSXが2022年12月に生産を終える。先ごろ初公開されたタイプSが実質的な最終モデルだ。
そこで改めてNSXについて考えたい。既に販売を終えた標準タイプの価格は2420万円であった。この価格は果たして高いのか、それとも安いのか。
同じ価格帯に属する高性能スポーツカーを挙げて考えてみたい。
まずはポルシェ911ターボで、価格は2500万円だ。エンジンは水平対向6気筒3Lツインターボで、最高出力は580馬力(6500回転)、最大トルクは76.5kg-m(2250~4500回転)を発揮する。駆動方式は4WDだ。
0-100km/h加速タイムは2.8秒(スポーツクロノパッケージ装着車)で、最高速度は320km/hと公表されている。
メルセデスベンツAMGクーペGTRの価格は2453万円。エンジンはV型8気筒4Lツインターボで、最高出力は585馬力(6250回転)、最大トルクは71.4kg-m(2100~5500回転)になる。
動力性能はポルシェ911ターボと同程度だが、AMGクーペGTRの駆動方式は後輪駆動の2WDだ。0-100km/h加速タイムは3.6秒だから、4WDのポルシェと単純に比べれば若干遅い。
BMW M8クーペコンペティションは、価格が2474万円だ。エンジンはV型8気筒4.4Lツインターボで、最高出力は625馬力(6000回転)、最大トルクは76.5kg-m(1800~5860回転)になる。駆動方式は4WDだ。これも前述の2車種と同じような性能になる。
■NSXがライバル車に比べて特に優れているポイントとは
日産 GT-R NISMOはNSXと似た価格帯ではあるが、他のグレードと比較すると突出して価格が高い
以上のように価格がNSXと同等となる2400~2500万円の高性能スポーツカーは、最高出力が600馬力前後で、最大トルクも70kg-m台に集中する。そしてこの価格帯の日本で購入可能な高性能スポーツカーは、前述の車種にほぼ絞られる。
GT-R・NISMOは2000万円を超えてNSXに近いが、ほかのグレードとの価格差が突出して大きい。フェラーリやランボルギーニは価格がさらに高い。
NSXの価格は、前述の2420万円で、エンジンはV型6気筒ツインターボだ。このパワーユニットは後輪を駆動するが、前後輪のモーターとリチウムイオン電池も組み合わせて、ハイブリッドの4WDを成立させた。
後部のモーターは1個でエンジンと併せて後輪を駆動するが、前輪には2個のモーターを装着する。前輪左右の駆動力は、走行状態に応じて自動的に調節されるため、車両を操舵角に応じて正確かつ積極的に回り込ませる。操舵感覚にもダイレクト感が伴う。
NSXのエンジンとモーターの動力性能を合計したシステム最高出力は581馬力、システム最大トルクは65.9kg-mだ。0-100km/h加速は約3秒だから、ポルシェ911ターボの2.8秒に迫る数値になる。つまりNSXの動力性能も、価格と同様、先に挙げた輸入ライバル車と同じ範囲に入る。
高性能スポーツカーは運転感覚が大切だから、動力性能のデータや価格だけでは一概に比べられないが、そこを突き詰めると個性が際立って横並びの比較も困難になってしまう。
それぞれの車種が独自の個性や魅力を備えていることを前提にすれば、2400~2500万円の高性能スポーツカーは、同程度の性能を備えて同じ価格帯に含まれる。
その上でNSXの価値を判断すると、本格的なハイブリッドシステムを備えることが、ほかのライバル車との大きな違いだ。WLTCモード燃費は10.6km/Lだから、高性能スポーツカーでは優れた部類に入る。
■高い性能と価格のバランスを考えるとホンダの大盤振る舞い!?
ハイブリッドとはいえモーターの使い方が特殊なNSXは特筆するほどの低燃費ではない。しかし動力性能を考えると燃料消費量は低い
先に挙げたライバル車は、WLTCモード燃費をホームページなどに記載していない。それでもGT-Rは、以前はWLTCモード燃費が7.8km/Lだった。NSXはハイブリッドといっても抜群の低燃費ではないが、動力性能を考えると燃料の消費量は少ない。
そしてNSXはモーター駆動を併用するから、アクセル操作に対する反応の仕方が機敏だ。エンジンは回転の上昇に応じて動力性能を高めるが、モーターは瞬時に高い出力を発揮できる。この運転感覚は、ほかの3車種とは異なる持ち味で、スポーツカーとしての魅力も高めている。
NSXはハイブリッドの特徴を生かして、走行性能を高めるスポーツプラスモードやトラックモードのほかに、クワイエットモードも設定した。
リチウムイオン電池が充電されている時は、モーターのみの駆動により、エンジンを停止させて文字通り静かに走行できる。こういったハイブリッドシステムの効用をどのように考えるかによっても、NSXの価値は変わってくる。
ライバル車の運転感覚を見ると、BMW M8クーペコンペティションは、4WDを採用して走行安定性を高めながら、アクセル操作によって車両の進行方向を積極的に内側へ向ける走りも行える。
ポルシェ911ターボやメルセデスベンツAMGクーペGTRも、各ブランドが進化と深化を重ねてきた伝統的な、あるいは良い意味で情緒的なスポーツカーの運転感覚を重視している。
その点でハイブリッドのNSXは、合理的に走行性能を高めた印象だ。エンジン回転が登り詰めていくような官能性は弱いが、走り、曲がり、止まるクルマとしての基本機能はきわめて高い。燃費性能もそこに含まれる。ドライバーの情緒よりも、実際の走行性能を重視する高性能スポーツカーだ。
高性能スポーツカーは好みで選ぶクルマだから、比べて購入するユーザーは少ないと思うが、NSXは機能を考えると、同価格帯のライバル車に比べて割安と受け取られる。
そしてNSXは、生産台数も判断基準に含めると、さらに買い得と受け取られる。現行NSXの発売は2016年だから、2022年まで生産を続けても生産期間は6年だ。生産規模の小さな国産スポーツカーとしては短い。GT-Rは2007年から改良を重ねながら生産されている。
日本仕様の販売実績はわずか464台で、世界生産台数でも2558台に限られる。大雑把に2420万円×2558台で計算すると、現行NSXの売り上げ総額は619億円だ。
車両の開発費用の計算はさまざまだが、NSXはエンジンやプラットフォームを含めてすべてを新開発しているため、開発費用だけで619億円に達する可能性も高い。そうなると車両の製造費用はメーカーの負担、表現を変えれば赤字になる。
前述の通りNSXは高コストなメカニズムを採用しているので、製造に要する費用も1台当たり1000万円には達するのではないか。そうなると1000万円×2558台の256億円は、ホンダからユーザーへのプレゼントという計算も成り立つ。
つまりNSXは、機能と価格のバランスで見ても同価格帯のライバル車に比べて割安で、生産台数まで含めると超絶的な買い得車になるのだ。
■NSXの生産終了はホンダ迷走の象徴か
あまり考えたくはないが、今回のNSXの生産終了は最近のホンダに見られる場当たり的な対応のひとつに見えなくもない
逆にホンダの立場でいえば、負担の大きな商品だ。2016年の発売当初、「NSXは北米のオハイオ工場で造られ、1年間の生産台数は1500台になる。この内の100台を日本国内で販売する」とされていた。
1年間の生産台数が1500台なら、5年を経た今では7500台を製造しているはずだが、実際は前述の2558台だ。売れ行きが鈍く、しかも短期間で製造を終えるから、先に述べたように利益を出しにくいクルマになった。
ちなみに最近のホンダは、狭山工場の閉鎖に伴ってオデッセイやレジェンドの生産終了を発表したり、シビックやCR-Vの国内販売を一度を終えた後で復活させるなど、場当たり的な対応が目立つ。
NSXの終了も、根底では繋がっているように思える。ホンダでは優れた商品なのに好調に売れないパターンが多く、NSXは良くも悪くも、ホンダを代表するフラッグシップスポーツになっている。
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