技術と事業の両面から整理して説明
「なるほど、確かにホンダにとって今、F1参戦の意義はあるのかもしれない」
【画像】2026年からF1ワークス復帰!2025 F1開幕前取材会の模様を中心に 全23枚
ホンダが東京・青山本社で報道陣向けに実施した『2025 F1開幕前取材会』に参加して、ホンダ関係者の声を直接聞いて、また疑問点についてはこちらから直接質問して、筆者の頭の中がスッキリした。
出席したのは、ホンダの二輪・四輪モータースポーツを統括する『HRC (ホンダ・レーシング社)』の渡辺康治社長、同F1パワーユニット開発責任者の角田哲史氏、そしてF1日本グランプリの開催地である三重県鈴鹿サーキットを運営するホンダモビリティランドの斎藤毅社長の3人だ。
質疑応答の中で、「ホンダは2040年にグローバルで新車100%をEV/FCEV(燃料電池車)と宣言している中、改めてホンダがF1に復帰する意義を教えてほしい」という主旨の質問が、記者席から複数あった。
これに対して、HRCの渡辺社長は「人材育成と技術の向上」という言葉を丁寧に繰り返した。今回は出席していないが、ホンダ本社の三部敏宏社長もこうした質問には、渡辺氏と同じような回答をしてきており、筆者を含めて報道関係者の間では、ホンダの真意が分かりにくいという印象があった。
なぜならば、F1で使用されるパワーユニットは現在、また今後しばらくの間も内燃機関とモーターが併存するハイブリッドが規定されるため、EVやFCEVの量産開発との整合性に対する疑問を持つ人が少なくないからだ。
それが今回の会見では、技術と事業の両面からホンダとF1との今後の関わり方をホンダ側が整理して説明したことで、筆者としては理解が深まったと言える。
ただし、そう思えるためには、布石がある。過去数ヵ月間で、筆者はホンダの量産開発を行う栃木県内の施設で実施された、EVの『ゼロシリーズ』に関する技術説明会、また『次世代e:HEV(ハイブリッド)』に対する事業・技術説明会や試乗会などで、ホンダの研究開発部門の幹部や各種領域のエンジニアとじっくり意見交換してきたことが大きく影響している。
辻褄が合わない?
では、順を追って話を進めよう。
話の出発点は、コロナ禍の2020年10月2日、八郷隆弘・ホンダ前社長によるオンライン会見だ。題目は『FIAフォーミュラ・ワン世界選手権への参戦終了について』。2021年をもって、2015年から続けてきたホンダでいうF1『第4期』を終了するとした。理由は、2050年カーボンニュートラルを目指して、F1専業の人材が資金を次世代量産開発にシフトする、というものだった。
時計の針を少し戻すと、ホンダではF1初参戦した1964年から1968年までが『第1期』、セナ、プロスト、ピケ、マンセル、そして中嶋(敬称略)がドライバーとなりマクラーレン、ウィリアムズ、ロータスなどレーシングコンストラクターとの連携によってホンダはF1黄金期を謳歌したのが『第2期』。
その後、2000年から2008年の『第3期』では、ホンダがシャシー開発も含めたオール・ホンダ体制を目指してチャレンジするも想定した成果が得られなかった。続く『第4期』では、現在のレッドブル・レーシングとのタッグによって、フェルスタッペンという絶対王者が誕生した。
ところが、それからたった3年弱で、三部敏宏社長が『F1復帰』を宣言したということになる。
三部社長は2021年4月の社長就任会見の中で、2040年にグローバルで新車EV/FCEVの達成を掲げている。そうなると、「F1復帰の意義はいったいどこになるのか?」という疑問が報道陣だけではなく、ユーザーからも出てくるのは当然だ。
また、話が分かりにくいのは、第4期は2021年で終了しているのだが、2022年から2025年までの3年間は、ホンダがレッドブル・レーシングの関連会社にパワーユニットの技術支援を行うことだ。一般的な見方では、ホンダとF1との関係はいまでも切れていないように思える。そうした中で、フェルスタッペンは昨シーズンまで4年連続ドライバーズチャンピオンに輝いた。
来年からは、アストン マーティンに対して、ホンダは新レギュレーションとなる新型エンジンをホンダ本社直轄のワークス活動としてパワーユニットを供給する。
第5期と言われないようにするために
ホンダによれば、2026年の新レギュレーションでは、パワーユニット全体出力700kWのうち、カーボンニュートラル燃料を使うエンジンとモーターそれぞれの出力はともに350kWとなる。これは、モーター出力が2009年時点での60kW、2014年からの120kW、そして2022年からのエタノール10%混合燃料E10によるエンジンとモーター120kWという規定に比べて、技術的に遥かにハードルが高い。
さらに、F1運営側からはパワーユニット開発コストや、パワーユニット単体での試験時間などが厳しく制限されている。
一方で、ホンダの量産化開発では、ゼロシリーズによる次世代EV開発を進めると同時に、小型(1.5L)と中型(2.0L)のe:HEVを各種モデルでの部品共通性を高めていくことが、当面の技術開発の流れとなる。つまり、ホンダにとってF1で必要とされる技術と、高い技術ハードルを乗り越えようとする技術者の育成という観点で、量産車開発との整合性はあると思う。
今後、F1というカテゴリーが存続する限り、パワーユニット規定はカーボンニュートラルとの整合性を念頭に置いて、自動車メーカーが参加する動機づけになる方向に向かうことだろう。むろん、社会情勢の変化、またはホンダを含めた自動車メーカー個社の経営戦略によってF1との距離を置くこともあるだろう。
その上で、筆者はホンダ・レーシングの渡辺社長に「第5期の達成目標は何か? 何をもっていつまでF1活動を続けるイメージなのか?」と聞いた。
これに対して渡辺社長は「続けられる体制を整え始めている。(親会社の)ホンダの業績が多少動いても、HRC(ホンダ・レーシング)として、F1のノウハウを蓄積する。(F1事業を続けるには)根性論ではなく、自分たちでレース資金を稼ぐマネタイズ(の体制)も進める」と独立したレース会社としての姿勢を示した。その上で「(世間から)第5期とは言われないようにしたい」と、事業の持続性を強調した。
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みんなのコメント
EVが中国以外の国で鈍化し、ハイブリッドが世界的標準となる可能が高くなったことと、F1がハイブリッドPUである親和性。
F1参戦の意義は重要。