鉱山で使われる巨大タイヤも日本で性能試験がおこなわれている
軽自動車用ならおよそ55cm、乗用車用ならおよそ60cmから70cmというのが一般的なタイヤの大きさ(外径)なのですが、世界で活躍するクルマのなかには外径およそ4mという、人の身長の2倍以上ある超巨大タイヤを装着するものもあります。
【画像】タイヤはどうやって作られる? レアな製造過程を画像で見る(44枚)
取材先のブリヂストン防府工場で、まず最初に出迎えてくれたのが玄関先に展示してある「世界最大級のタイヤ」でした。
ブリヂストンは、高品質な「断トツ」商品を開発して販売するという、プレミアムタイヤ事業をコア事業としています。一般的によく目にするのは、愛車に装着する乗用車用タイヤや、路線バスなどに使われるトラック・バス用タイヤですが、鉱山などで使われる車両用のタイヤ、ORタイヤ(オフ・ザ・ロードタイヤ)も大きな柱のひとつとなっているそうです。
山口県防府市にあるブリヂストン防府工場は、乗用車用タイヤだけでなく、このORタイヤも生産するハイブリッド工場だそう。そして防府工場内には巨大なORタイヤの試験をおこなう「ORタイヤ試験センター」があり、今回その施設を見学しました。
鉱山の採掘方法には「露天掘り」と「地下鉱山」の2種類があり、露天掘りでは1回で運べる量を増やし、運ぶスピードを上げることが求めるため、ダンプトラックは大型化し、装着されるタイヤには高耐荷重性や高速耐久性、長寿命が求められます。
露天掘りの鉱山で使われる世界最大級のダンプ「コマツ930E」は全長15.6m×全幅9.6m×全高7.3mというサイズで、車体の重量は一般的なダンプの20台分の202トン、これに最大積載を合わせた総重量は625トンにもおよびます。
そんな巨体を支えるのがタイヤ。「59/80R63」というサイズの巨大なタイヤは外径4m、タイヤ1本でおよそ4トンから5トンほど。これを前輪2本、後輪にはダブルタイヤで4本装着、最高速度30km/hで鉱山のオフロードを走り抜けるそうです。
タイヤ1本あたりの最大負荷荷重は約115トン。これほどの巨大タイヤを製造できるメーカーは限られており、世界で数社だそうですが、そんな中でもブリヂストンの鉱山用タイヤ「MASTERCORE(マスターコア)」を使う会社は世界で約100鉱山と、2023年末と比較しておよそ10鉱山増えているといいます。
その理由として挙げられるのがタイヤ性能の向上です。タイヤの能力がアップすればそれだけ鉱山の生産性も向上します。ブリヂストンのマスターコアは、従来品タイヤに比べて他性能を犠牲にせずに、14%の耐久性向上/長寿命、または5%車両スピードのアップ、または12%のタイヤ許容荷重アップと、それぞれの鉱山ごとにタイヤ性能をカスタマイズすることが可能といいます。
荒れた路面で巨大なダンプを支えるORタイヤだからこそ、高い安全性や耐久性が求められます。そうしたORタイヤの試作タイヤの性能評価をおこなうのが、防府工場内にあるOR試験タイヤセンターになります。
巨大なタイヤの試験ということで、施設内にも巨大な設備が並びます。まず五右衛門風呂のような形のORタイヤ用リムにタイヤを組み込みます。フォークリフトでタイヤを持ち上げながら位置を調整し、リムの上にはめ、匠の技でリム組みを行います。
続いて静荷重試験。タイヤを立てた状態で荷重をかけ、タイヤの接地形状やサイドウォールにかかる力などを測定します。
そしてドラム試験。これまで見たことのない大きさのドラム試験機で、動的な試験がおこなわれます。
最後にカットサンプルの作成。試験に使われた試作タイヤは、切断して内部が見えるようにすることでメカニズムなどを調べあらゆるデータを収集、故障しない今後のORタイヤ開発に役立てるといいます。
このORタイヤ試験センターには30人以上のスタッフが勤務しており、24時間性能評価をおこなっているそうです。
ブリヂストンの商品設計基盤技術「エンライトン」ってなに?
続いて見学したのが、ブリヂストン防府工場でのPSRタイヤ(パッセンジャー用タイヤ)の製造工程です。
ブリヂストンは近年、「エンライトン(ENLITEN)」という商品設計基盤技術を打ち出しています。
エンライトンの考え方とはつまり、「薄く」「軽く」「円く」設計することで従来のタイヤ性能を向上させた上で、タイヤに求められる性能をユーザーごと、クルマごとにカスタマイズするというもの。これはORタイヤ「マスターコア」の、それぞれの鉱山ごとにタイヤ性能をカスタマイズすることとも似ています。
エンライトンは2020年にVW「ゴルフVIII」に新車装着された「トランザ・エコ(TURANZA ECO)」に採用されたのを皮切りに、これまでグローバルで約20商品に搭載されており、2024年2月に発売された「レグノGR-XIII」にも国内市販用乗用車向けタイヤとして初搭載されました。
エンライトン搭載商品は今後もグローバルで拡大していく計画で、2026年には約45商品でエンライトン搭載率65%、そして2030年には約100商品で搭載率100%を目指しています。
この商品設計基盤技術のエンライトンと融合させるモノづくり基盤技術が「BCMA(Bridgestone Commonality Modularity Architecture)」です。
これまでタイヤは商品それぞれで開発されてきましたが、BCMAの考え方はタイヤを「カーカス」「ベルト」「トレッド」の3つのモジュールで開発、さまざまな背反性能の両立をこのモジュールの組み合わせで実現することで、性能や環境、コスト、生産性を両立するといった考えになります。
具体的にいえば、「トレッド」というモジュールを載せ替えることで、レグノやポテンザなど新たなプレミアム商品を創造していくということになります。これまで各々で行われていたタイヤ開発の効率化を図ることで、スピーディな商品開発に結びつけるといいます。
※ ※ ※
エンライトンが搭載されたタイヤが、今後数多く作られることになる防府工場の生産ラインは、とてもクリーンで、人が少ないことに驚きました。
タイヤは「黒くて円いゴム」ですが、その中身はコードやスチールベルト、ビード、そしてゴムからなる複雑な商品だったりします。それを機械化の進んだ工場でそれぞれの部品が作られ、組み合わされ成型され、釜に入れ加硫され、最後タイヤとなって出てきたものを見たときには、感動すら覚えました。
また10年ほど前にタイヤ工場の見学をしたときに比べて、圧倒的にゴムの臭いが少なくなっていることにも驚きました。このあたりの対策も進んでいるということでした。
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