軽快感の代わりに速さと扱いやすさを両立
日本において、マツダ・ロードスターのソフトトップ仕様のエンジン排気量といえば1.5リッターだ。しかし、海外に目を向けてみるとよりパワフルな2リッターエンジンを積んだモデルも存在する。今回、北米仕様となる2リッター版のロードスターを試乗する機会を得たので、ロードインプレッションをお届けしよう。
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ロードスターファンの間では、歴代モデルを型式で呼ぶことが多い。初代は「NA」、2代目が「NB」、そして「NC」は先代(3代目)。いわゆる通称名であり、現行ロードスターは「ND」と呼ばれる。
NDロードスターの良さは、徹底した軽さと軽快感。徹底的な軽量設計により、ベースグレードは1トンを切る車重を実現。装備がかさんで重量が増えつつある昨今のクルマとしては驚異的な軽さである。
そして、運転感覚はまるで木の葉が舞うかの如く「ひらりひらり」とした感覚が特徴的。スポーツカーだからと言って闇雲にコーナリング限界や旋回時の安定感を高めるのではなく、速度を上げずに何気なく曲がるような走りが楽しめるように味付けされている。
それは「NA」と呼ばれる初代ロードスターと同じ感覚。そんなフィーリングが多くのファンから支持されていることは好調な販売実績が物語っている。
日本仕様の1.5リッターエンジンというセレクトの狙いは、そんな軽快な走りを実現するためだ。最高出力は132psでその発生回転数は7000rpm。最大トルクは152Nmで発生回転数は4500rpm。最高出力を発生する回転域は、今どきのクルマとしてはかなり高いのだ。線の細いエンジンを高回転までまわして楽しむのが、日本のロードスターの嗜みということである。
いっぽうで北米仕様のロードスター(輸出名:MX-5ミアータ)搭載エンジンは、日本では「ロードスターRF」に搭載される2リッター仕様。2018年の改良ではエンジンがアップデートされ、最高出力は26ps増しの184ps(発生回転数は7000rpm)へ向上。トルクは205Nmを4000rpmで発生する。アップデートではエンジンの許容回転数がそれまでの6800rpmから7500rpmへと引き上げられたのも大きな進化。この改良はパワーアップよりむしろ回転数引き上げがポイントだ。
このように2リッターエンジンは日本の1.5リッター仕様よりトルクが53Nmも太い。それによってエンジン回転をあまり上げなくてもしっかりと加速する。しかも日本で同じ2リッターエンジンを積むロードスターRFよりも100キロほど軽いボディとの組み合わせなのだから、NDロードスターのラインアップの中では最も速い仕様といえるのだ。
アメリカの市場でも加速は力強く、特に中間加速などでトルクの太さを実感。試乗車はATだったが、峠道で軽快感と引き換えに扱いやすさと速さを手に入れていた。
そして、骨太な印象は動力性能だけにとどまらない。乗り味も、カッチリしていたのである。全体的に締め上げられた印象なのだ。
その理由のひとつが17インチタイヤ(日本仕様のソフトトップは最大16インチ)にあるのは間違いないが、「パワープラントフレーム」と呼ばれる駆動系の骨格もひときわ丈夫なものを組み合わせるなど、2リッターエンジンのパワー/トルクに合わせて車体剛性も強化されていたのである。
結果として、乗り味はヒラリとした感覚が控えめになって骨太感が増したという印象。「NCが正常進化したら、こんな仕上がりなのだろうな」と、峠道をドライブしていると、そんなふうに思えてきた。
1.5リッターエンジンを積む日本仕様も実に素晴らしい車。初代のあの軽快な走りを現代に蘇らせるという開発チームのアイディアは決して間違っていない。しかし、こうして2リッターエンジンを積んだ北米仕様に乗ってみると、これはこれで悪くない。というかむしろ、こちらを選びたいという人もいるだろう。「スポーツカーなのだから速いほうがいい」という人も、2リッターのほうが魅力的に違いない。
では、2リッターエンジン+ソフトトップのロードスターを日本で販売することに、なにか不都合はあるのだろうか。かつてロードスターのエンジニアに確認したところ「もちろん技術的な問題はない」という。
ではどこにハードルがあるのか。それは「NCロードスターには1.5Lエンジンがベスト」とした、開発チームの宣言である。もはや撤回しろとは言わないけれど、たとえば「本筋ではないんですけどね」と言いつつの限定車でもいいから日本でも2リッター仕様を1.5リッターとあわせて売ったらいいと思う。選択肢は多いほうがいいし、選ぶのはあくまで“買う人”なのだから。
そのためにボクらができること。それはきっと、「1.5リッターエンジンがベスト」というNDデビュー時の開発チームの宣言は聞かなかったことにしておくこと。みんなが忘れちゃえば、マツダも前言をうやむやにしてやりやすいに違いない。以前と違う意見を言っていることを突っ込まれたトランプ大統領のように、「俺は常に進化しているんだ」でもいいけど。
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