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米製4.0L直8エンジンに英製ボディ レイルトン・ロードスター 息子が好んだブルー 後編

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米製4.0L直8エンジンに英製ボディ レイルトン・ロードスター 息子が好んだブルー 後編

亡き息子の指示通り完成した2シーター

1938年9月、第二次大戦に向けて欧州の雲行きが怪しくなるなか、リチャード・シャトルワース氏は英国空軍ボランティア予備隊に入隊。飛行訓練が始まると、レイルトンのボディ製作は保留にされた。

【画像】レイルトン・ロードスターとインヴィクタSタイプ 同時代のクラシックと比較 全129枚

ところが彼は、1940年8月の夜間飛行テストで命を落としてしまう。母のドロシーは息子の死に衝撃を受け、気持ちを整理するべく赤十字へ参加。自宅を病院として開放し、救命に貢献した。さらに記念基金を設立したほか、大学や航空機博物館も創設した。

さらに、シャシー番号741240のレイルトンを完成させることも決めた。1930年代には彼女も同社のクルマを運転しており、このブランドには特別な思い入れがあったようだ。

1950年、裸のハドソン・モーター社製シャシーはケタリング・ルーツ社へ輸送された。亡きリチャードが記した、2シーターボディの指示書と一緒に。最終的にJNM 700のナンバーで登録され、16インチ・ホイールと息子が好んだブルーの塗装で仕上げられた。

真新しい2シーターのロードスターが届けられると、70歳を過ぎていたドロシーは運転して楽しんだという。その2年後に売却され、レイルトン・オーナーズクラブのジョン・ダイソン氏とリチャード・ヒューズ氏が買い取っている。

ところが、クルマの調子は良好とはいえなかった。「ヒューズが運転して持ち帰ろうとしたのですが、ロンドンを横断する前にオーバーヒート。クルマを置いて戻らざるを得なかったようです」。と、ダイソンが振り返る。

当時の英国車より内容で優れたテラプレーン

「フロントアクスルも駄目でした。1937年製のハドソン・フレームでしたが、トルクアームがなかったんです。リチャードさんは農耕に使っていたとも聞いています。その影響か、シャシーには亀裂も。簡易的な補修はされていましたが」

ダイソンが最初にレイルトンを購入したのは1956年。カーボディーズ社のツアラーボディを載せた、警察車両だったクルマを皮切りに、これまで6台のレイルトンを所有してきた。

「シングル・ダウンドラフト・キャブレターに、形状の良くない吸排気のマニフォールドが組まれていました。それで良く走ったんですから、驚くべき事実です」

「スポーツカーとして設計されたわけではありません。それでも当時の英国車と比べて、内容で優れるテラプレーンをハドソン・モーター社は量産していました」。と話すダイソンのお気に入りは、ラナラ社によるボディを載せたサルーンだという。

「ツアラーとは異なり荷物をしっかり積めるので、休日のツーリングに丁度いいんです。乗り心地は快適で、調子良く走りますよ」

1970年代に入ると、2人はクリスティーズ・オークションへ出展。それは、ドロシーの姪に当たるドイツのシャルロット・フォン・クロイ王女の目に留まった。

彼女が暮らすドイツ北部ニーダーザクセン州の道を、ホワイトに塗り替えられたレイルトンのロードスターが走る姿は地元の名物になった。最終的には叔父へ敬意を評してブルーに塗り替え、1975年にシャトルワース・コレクションへ寄贈されている。

分厚いノイズで目覚める4.0L直列8気筒

1970年代にブルーの2シーターの姿を目にして以来、筆者もこのレイルトンに強い関心を抱いてきた。ショートシャシーに戦後のコーチビルド・ボディが組み合わされ、同社の他のモデルとは一線を画している。

マックリンはツーリングカーがマーケティング上重要だと判断していたが、ライト・スポーツ・ツアラー(LST)と呼ばれる2シーターモデルは、2台しか作られていない。それは、時速160km/hをブルックランズのテストコースで記録している。

今回はシャトルワース家のお屋敷の前で、ブルーのレイルトン・ロードスターの試乗が許された。ボンネットは長く、テールは丸く短く、スペアタイヤが2本載っている。

フロントノーズで存在感を示すのは、かつてAUTOCARのフレデリック・ゴードン・クロスビー氏がデザインしたシャープなラジエター。その両脇で、大きなヘッドライトが鋭い眼光を放つ。

控えめなカウルの付いたダッシュボードには、オリジナルのテラプレーンとは異なり、スミス社のメーターが整然と並ぶ。大きな4スポーク・ステアリングホイールも、輸入後に英国で交換されたもの。フロアのレバーは、3速MTとつながっている。

4.0Lの直列8気筒エンジンは、分厚いノイズで目覚める。長いリンケージを介するシフトレバーは、1速が横に飛び出たドッグレッグ・パターンで、ゲートは狭いが軽く正確に動かせる。ウェットコルクのクラッチも扱いやすい。

トップのまま殆どの交通状況に対応できる

3速へシフトアップすると、エンジンの滑らかさと洗練性が引き立つ。レスポンスも良い。低回転域からトルクが太く、加速も勇ましい。「10年は先取りしています」。と当時のAUTOCARが絶賛した理由がわかる。

トップに入れたまま、殆どの交通状況に対応できる。シフトチェンジの多さにうんざりしていたドライバーにとって、米英の合作といえるレイルトンは、魅力的に映ったことだろう。初代オーナー、リチャード・シャトルワース氏にも。

ボール・ナット式のステアリングラックは、速度が乗ってくると軽くなる。摩擦ダンパーで揺れが鎮められるリジットアクスルは、最初のオーナーもドライブしたであろう、私道の凹凸を見事に受け流す。砂埃を巻き上げながら。

フロントノーズに収まる4.0L直8エンジンは、約80年前もこの場所でノイズを撒き散らしていたことを想像すると、不思議な気分になる。笑顔のリチャードが、畑を耕すために広大な敷地へ向かう姿が思い浮かぶ。

第二次大戦中、レイルトンはフェアマイルBモーター・ランチと呼ばれる戦闘艇の生産に関与した。創業者のノエル・マックリン氏は功績を讃えられナイトの称号を与えられ、フランスへ移り住み1946年に命を落とした。

フェアマイルは1隻も残っていないが、1台限りの2シーターはしっかり受け継がれている。レイルトンとインヴィクタの熱心なファンによって。ユニークなロードスターは、平和の尊さや親子の絆を確認するのに、これ以上ないクラシックカーかもしれない。

協力:シャトルワース・コレクション&ガーデンズ

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