車の最新技術 [2023.02.24 UP]
バッテリーリサイクルを考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●日産
先週の記事で、バッテリー原材料が全世界的に足りない話を書いたので、今週はその先で必ず出てくるリサイクルの話である。
レアアースの資源開発が思うように進まない今、誰しもが考えるのは、都市鉱山の再利用である。BEV用に生産されたバッテリーの原材料を再循環して利用できれば、資源不足を解消できる可能性があるし、何より新規の地下資源採掘は環境負荷が高いことからも、バッテリーリサイクルはBEVの本格的普及に際して、重要な意味を持っている。
日産自動車は、量産BEVの先駆けとして、かなり早期からバッテリーリサイクルに取り組んできており、住友商事と共同で、2010年からバッテリーリサイクルに取り組むフォーアールエナジー株式会社(英名 4R Energy Corporation )を運営してきた。今回フォーアールエナジー社の浪江事業所に取材に行って伺ってきたことを踏まえて、リサイクルの現状を考えてみたいと思う。
フォーアールエナジーは、EVの使用済みリチウムイオンバッテリーの再利用および再製品化に特化した日本初の工場
ちなみに福島県双葉郡浪江町は、福島原発のお膝元。元々、原発の夜間余剰電力の活用を意図したスマートグリッド計画の一環としてスタートした日産リーフの事業計画にとって意義深いだけでなく、東北大震災によって傷ついた福島経済の復興の一助とすべく2018年に開所した。
さて、まずはBEVバッテリーの基本構造から話をしなくてはならないだろう。多くのクルマで床下に搭載されるBEVのバッテリーは、大きくわけで3つの階層構造になっている。
リーフe+のバッテリー
セル(薄い板状のもの)を複数束ねたものをモジュールと呼び、これを複数個搭載してバッテリーを構成する
最も基本的単位をセルという。セルは陽極と負極と電解質からなる化学エネルギーの貯蔵庫だ。このセルを複数束ねたものをモジュールと呼ぶが、近年では、そこに各セルの制御装置が加わる場合も増えている。このモジュールをさらに束ねて充放電制御や電圧・温度などをモニターし、場合によってはシャットダウンさせる安全装置などを組み込んだものをパックと呼ぶ。
現在、フォーアールエナジーでは、このパック内のモジュールの性能劣化を個別に測定して選別し、主に3つの階級にわけで分類・再利用している。一番性能が高いAランクの電池は、BEVの補修用リビルドバッテリーとして使われ、残る2つのランクはそれぞれに、Bグレードは定置型の大型蓄電設備などに、Cグレードはバックアップ用電源などに再利用される。つまり現状ではバッテリーのリユース事業が主軸になっている。
日産、JVCケンウッド、フォーアールエナジーが開発したEVの再生バッテリーを利用したポータブル電源
ん? リユースとリサイクルって何が違うの? という疑問はもっともで、ものすごくざっくりと言えば、セルやモジュールを分解することなく再利用する。つまり部品単位での再就職先を探すやり方がリユース。対して、原材料単位までバラして、再精製を行いブランニューの陽極、負極、電解質に生まれ変わらせるのがリサイクルである。
バッテリーの再利用を考えた時、その再生に費やすエネルギーは可能な限り少ない方が良いので、当然元の形に近いほど有利になる。だから可能な限りはモジュールで再利用を図るわけだ。BEV用の電池は高性能なので、BEVで利用限界を迎えたバッテリーであっても、他の用途、例えば定置型バッテリーなどならまだ十分活躍の場があるのだ。そしてその時、世界中で59万台販売したリーフが一回も重大事故を起こしていないという信頼性は有利に働く。
しかしながら、いくら元の性能が高くとも、いつかはお役御免の日がやってくる。そうなった時にはどうしても原材料レベルのリサイクルによって、元BEV用バッテリーから新品のBEV用バッテリーへのリサイクルが必要になってくる。現在その技術は開発過程にあり、毎週のようにリサイクル技術に関するニュースが入ってくるが、現時点で商用営業が始まっている会社は1社もない。ちなみにフォーアールエナジーで、バッテリーtoバッテリーの完全リサイクルが事業化できる時期を尋ねると、およそ10年後という回答だった。
問題点は多岐に及ぶのだが、まずは再精製される原材料の純度の問題である。現状一応の目安として99.5%と言われているが、これも素材による。フォーナイン、ファイブナインレベルの純度が必要とする発表もみたことがある。
何より面倒なのは、元のバッテリーが画一ではないことだ。いろんなバッテリーをまとめて処理することは一見コストに有利に感じるが、違う元素の混入をさらに増やすデメリットもある。だからBEVと他の用途のバッテリーを混ぜたり、もっと厳密に言えば、同じリーフ用でも、素材が変わった世代違いバッテリーは、混ぜたくない。
しかもリユースまでやり切って退役してくるバッテリーは、どんなに新しくても10年前のバッテリー。今後は20年ものが増えていくことも考えられる。そうなると、バッテリーの技術世代が変わってしまい、今更リサイクルしても使わない素材になっている可能性もある。
簡単に都市鉱山というが、スマホのバッテリーなどは、いろんなバッテリーが混在しており、しかも容量が小さい。ものすごくざっくり言って、スマホの100倍がハイブリッド用のバッテリー、そのハイブリッドの60倍から100倍がBEV用バッテリーということなので、チマチマとスマホでリサイクルするくらいなら、BEVのバッテリーにしっかり取り組んだ方がずっと効率が良いのは確かだ。
ということで、世界は今後切実にバッテリーリサイクルを必要としているし、BEV用バッテリーのリサイクルは他のバッテリーとの比較上、効率的にベストなのだが、それでもなお、さまざまな問題を解決して、採算ベースに載せるのには、後10年を要する状態にあるのが現実である。
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みんなのコメント
このままだとバッテリー関係は全部中国に握られてしまいます
それでもBEVのりますか?