一部改良を受けたマツダのフラグシップモデル「マツダ6」を今尾直樹がチェックした。
まるでアルファ・ロメオのようだ!
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マツダのフラッグシップ、マツダ6の商品改良と、発売20周年を記念した特別仕様車「20thアニバーサリー・エディション」が12月9日に発表され、同日より予約受付を開始した。発売は12月下旬となる。
われわれGQ取材班は、神奈川県横浜市にあるマツダR&Dセンター横浜で20周年記念車の実物を見た。まるでアルファ・ロメオのようだ、と筆者は思った。
ボディ色は「アーティザンレッドプレミアムメタリック」という名前の新色で、マツダの誇る塗装技術「匠塗TAKUMINURI」の第4弾となる。ちなみに匠塗の第1弾はソウルレッドクリスタルメタリックで、広島カープのヘルメットに用いられていることでも知られている(正確には素材が異なるので、まったく同じではない)。
「アーティザンレッドプレミアムメタリック」というのは直訳すると「職人の赤の高級メタリック」という意味になるけれど、基本的にはワイン色で、驚くべきことに光の加減で、薄くて透明なワイン色、ワインでいうところのバーガンディから、深みのある濃いワイン色、いわゆるボルドー、英語だとクラレットにまで変化する。陽が当たっていないと、ボルドーより濃く見えることもある。まことにマニアックで、ワイン好きも放っておけないのではあるまいか。
実車はなかったけれど、「ロジウムホワイトプレミアムメタリック」という匠塗第3弾のボディ色を選ぶこともできる。これは「CX-60」で導入された、「絹のようなきめ細やかな白」と表現されているペイントだ。
エクステリアではこのほか、専用のオーナメント(バッジ)やシルバー塗装のフロント・グリル、高輝度塗装の19インチの専用アルミ・ホイールを装備する。
インテリアではタンのナッパ・レザーを使ったシートが目立っている。前席ヘッドレストには、20thのエンボス加工が入る。ドア・トリムにはシートと同じタン色の人工皮革が用いられていて、全体にイタリア製品のような享楽的な、艶やかなムードを醸し出している。
マニアックな改良商品改良ということでは、SKYACTIV-D 2.2こと2.2リッターのディーゼル・ターボのエンジン制御の変更により、最高出力が190psから200psに強化されている。トルクは最大トルクの450Nmという数値は変わっていないものの、中間トルクの厚みが増している。具体的には、4000rpm時におけるトルクをプラス25Nmの350Nmに向上しているのだ。
さらにSKYACTIV-2.2の6ATでは、アクセル・ペダルの踏力特性の変更により、エンジン出力のコントロール性を高めている。もうちょっと具体的には、筆者も運転してわけではありません。マツダによると、力強いトルクやパワーをペダルから、より感じられるようにするとともに、狙いの速度にピタリと合わせられるような設定にしているという。
マニアックだなぁ。
もうひとつ、さらにマツダ6全モデルの電動パワーステアリングを、「クルマの向きのコントロール性」を向上させる方向にチューニングしている。いわく、より路面の接地感をステアリングから感じられるように、そして、狙いのラインに決められるように見直しているという。
これまたマニアックだぁ。
運転支援機能のCTS(クルージング&トラフィック・サポート:高速道路や自動車専用道路で渋滞した時に運転疲労を軽減するための追従走行機能とステアリング・アシスト機能で構成されているシステム。運転者がアクセル・ペダルやブレーキ・ペダルを踏まなくても、設定した速度で前方車との車間距離を一定に保つ追従走行を行なう。ステアリング・アシスト機能では、車線を検知している場合は、車線に沿った走行をアシストし、車線を検知していない場合は、前方車の走行軌跡に沿った走行をアシストする)や、アップルカープレイ、ワイヤレス充電を、グレードによって標準設定、またはオプション設定している。
グレードの見直しも図られている。冒頭に記した特別仕様車「MAZDA6 20th Anniversary Edition」とは別に、新たに「スポーツ・アピアランス」という新機種が追加されている。2020年に発売された「ブラック・トーン・エディション」をベースに、ブラックの部分をさらに増やすことによってスポーティヴネスと精悍さを強調したモデルだ。
従来からあるLパッケージにはシート・カラーのバリエーションを変更したりもしている。
神は細部に宿る。というのが、このような小改良における決まり文句だけれど、マツダの場合は徹底的にエンスー方向、すなわちクルマ好き方向で推し進められている。
「最低でも一流、最高で超一流」
遡ること20年前に登場した初代アテンザこと初代マツダは、それまでのカペラに代わるFWDの中型セダンで、ワゴンとクーペ・スタイルの5ドア・ハッチバックもあった。
当時のマツダは、そのちょっと前の1990年代の拡大路線が仇となり、バブル崩壊によって倒産の危機に陥っていた。フォードから出資を仰ぎ、フォード出身の社長のもとで再建を進めているさなかだった。
このときマツダは、マツダとはどういうブランドなのか? どういうブランドでありたいのか? と、みずからの立ち位置を見つめ直すことになった。当時のフォードは、アストン・マーティン、ジャガー、ボルボといった名だたるブランドを抱えていたから、なおさらそれが必要だった。
そういえば、初代カペラの足まわりを担当して以来、初代ロードスターの開発にも携わった名物エンジニアの方が、1990年代の初め頃、「マツダの歴史はジャガーよりも長いんですよ」と、なにかの取材のおりにつぶやいておられた。
「Zoom-Zoom」という世界共通のブランド・メッセージが発表されたのは2002年4月。子どもがクルマを表すときにいう「ブーブー!」の英語が「Zoom-Zoom」だそうで、のちに海外名のマツダ6に統一される初代アテンザは、この1カ月後に発売された。カペラの後継モデルの開発を中止し、白紙からやり直した。マツダ6は♪Zoom-Zoom-Zoom走る喜び~を象徴するモデルでなければならなかった。
このとき、初代マツダ6の開発責任者は「最低でも一流、最高で超一流」という高い志を掲げて、スタッフを鼓舞したという。おそらく2000年のシドニー・オリンピック女子柔道48kg級で悲願の金メダルを獲得した旧姓・田村亮子の「最高で金、最低でも金」からきているのだろう。
初代マツダ6はグローバルで199万台が販売されるヒット作となり、マツダはここから捲土重来を果たした。
3代目となる現行マツダ6は、2012年の登場だから、はや10年選手である。この間、2度のマイナーチェンジを受けるなどにより、10年経ったいまも色褪せていない。これこそ不断の商品改良のなせるわざであろう。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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