先日、スバル「ソルテラ」/トヨタ「bZ4X」で、石川県金沢市から長野県松本市経由で軽井沢まで、300km弱をロングドライブする、という機会があった。ソルテラ/bZ4Xは、一般道から高速道路の様々な走行シーンで高い静粛性と軽快な走り、そしてすっきりとした乗り心地で、実に好印象。「いいクルマ感」がひしひしと伝わってくるものがあったが、案の定、充電イシューにおいては、苦労があった。
筆者は、初代日産リーフを1年程所有していたことがあり、バッテリーEV(以下BEV)特有のライフスタイルはそれなりに経験している。リーフを手放して3年程になるが、ソルテラ/bZ4Xの試乗においても、そのころ痛感していたBEVの弱点を改めて認識することになり、「やはり現状ではBEVの普及は難しいな…」と感じた。筆者がBEVの普及は難しいと感じる理由をご紹介しよう。
求むもう一歩の技術革新!! 「EV普及はもうちょいかかるな…」と実感した事情
文:吉川賢一
アイキャッチ写真:Adobe Stock_joel_420
写真:HONDA、NISSAN、TOYOTA、SUBARU、MAZDA、Mercedes-BENZ、BMW、Audi、TESLA、VOLVO、STELLANTIS、Porsche、JAGUAR、HYUNDAI、ベストカー編集部
30分の急速充電でも、100km程度しか回復しないことも
ソルテラ/bZ4XのWLTCモードでの航続可能距離は542km(AWD、FFは567km)。近い大きさの最新ミドルクラスSUVであれば、ハイブリッドモデルならば一度の給油で800km~900km、ディーゼルモデルであれば1,000kmは余裕で走ることができる。昨今のBEVのなかには、100kWhの超大型バッテリーを搭載したBEV(メルセデスEQSなど)もあるが、それでも最大770kmだ。
ソルテラ/bZ4Xの試乗の際、「松本市へ到着する時点で航続距離を200km以上残すこと」というタスクをこなすため、途中、30kW急速充電器で30分間の充電をした。計算では、30kW×0.5h=15kWは蓄えられるはずだが、回復したのは13.3kWh、走行距離に直すと約93km程度(電費は7.0km/kWhで算出)だ。走行によって、熱を持ったBEVのバッテリーは、今回のソルテラ/bZ4X のように、30分の急速充電をしても期待したほど回復はできない。
また、BEVは、車速を出すほどに電力消費が高まり、残航続距離がみるみるうちに減少する。純ガソリン車や純ディーゼル車の場合だと、新東名高速道路で120km/h巡行をすれば、燃費は伸びる傾向にあるのとは逆(ストロングハイブリッドは中速域の方が燃費は良いが)だ。
昨今は急速充電設備も、90kW~100kWクラスの高速充電へと更新され始めてはいるが、現状は、都市部にある自動車ディーラーが中心であり、コンビニエンスストアや道の駅の急速充電器は、30kWや50kWクラスのまま。5分で満タンにできる内燃機関車との利便性の差は歴然であり、「航続距離は500km以上」と聞くと、それならば十分だと安心される方が多いが、実際には、全く問題がないかというと決してそうではない。
筆者が試乗した際、bZ4X(FWD)のスタート時点での充電量は約90%、走行残距離は420km。ただ、エアコンをつけると走行残距離は340kmに減少した
地方にも都市部にも適さないBEV
一方で、BEVならではの魅力があるのも事実だ。ガソリン車やハイブリッド車では得られない、浮遊したような運転感覚はとても心地よく、「もうガソリン車には戻れない」という方もいるほど。筆者もリーフの、路面を滑っていくかのようなドライブフィールは、忘れられない。
自宅で夜間、充電ができる設備を導入し、片道50km程度の通勤通学や、近所の買い物で使う用途であれば、BEVの良いところを最大限満喫できるだろう。近所の買い物程度につかう「チョイ乗り」であれば、むしろ内燃機関車よりもBEVのほうが向いている。
ただ、自宅に充電設備が導入しやすい戸建ての多い地方では、街中の充電設備が少なく、街中に充電設備が充実している都市部では、マンションに住む人も多いため、充電設備が導入しにくい。地方でも都市部でも、BEVでのカーライフには、困難がつきまとう。
特にロングトリップはBEVにとって鬼門だ。充電スポットの位置を事前に確認するのはもちろんのこと、先客がいた場合のバックアップも立て動く用意周到さがないと、ストレスフルなドライブになってしまう。もちろん、人によって感じ方は変わってくるだろうが、「慣れれば大丈夫」という問題でもなく、少なくとも筆者は、1年あまりのリーフライフにおいて、利便性の面では、最後まで不満だった。
効率を求める現代において、BEVの普及は難しい
日産が初代リーフを発売したのは2007年のこと。初期型モデルの航続可能距離のカタログ値は、180kmほどであった。実際には、130~150km程度が実力であったため、戸惑った方も多かっただろう。世間から航続距離の少なさを指摘され続けた日産は、2代目リーフに設定した上級グレード「e+」で航続可能距離458kmを実現。
一方で日産は、充電インフラに関しても整備を積極的に進め、すべての日産ディーラーに充電器を設置し、充電中は、ディーラーの中でドリンクを振る舞う(無料)。もちろん、お付き合いのある店だけではなく、出かけた先の日産ディーラーでも、「リーフ充電させてもらっています」と伝えれば、快く迎えてくれる。2021年6月時点の全国の急速充電器は約7900基。そのうち、およそ1/4が日産ディーラーだという。
トヨタも、2025年を目途にすべてのトヨタ系ディーラーに急速充電設備を設置すると発表しており、充電設備については今後増えてくることが期待できるが、BEVは充電に時間がかかるため、それでもまだ十分な量とはいえない。
また、BEVの課題はそれだけではない。繰り返しになるが、何事にも効率が求められる現代において、5分で100%回復できる内燃機関車の利便性になれたユーザーが、30分かかっても100%の回復は難しいBEVのカーライフに満足してくれるのか。BEVは、少なくとも現状では内燃機関車の代替になることは難しく、それを実現するには、インフラ設備の一層の充実はもちろんのこと、技術のブレークスルーやカーライフスタイルの見直しも求められると思う。BEVの普及には、まだまだ時間がかかりそうだ。
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事実上遠出ができない車など車ではない。