2022年7月から日本で実証実験が開始されるヤマハの新型電動スクーター「E01」は、ガソリンエンジンの125ccスクーター同等の動力性能・使い勝手が追求されたモデルだ(実際、原付二種となる)。
それを実現するためどのような工夫が行われたのか、E01ならではの特徴とは──プロジェクトリーダー・丸尾卓也さん、パワーユニット設計担当・桃井雅之さんに話を伺った。
モーター、バッテリー、フレームは全て新規に開発
【画像11点】ヤマハ E01の構造を写真で解説!「バッテリーを脱着式にせず、シート下トランクをしっかり確保」
E01の開発プロジェクトリーダーを務めた丸尾卓也さん
ヤマハ発動機PF車両ユニット・PF車両開発統括部・CV開発部・EM設計グループ・プロジェクトリーダー主査
──E01の開発で重視したポイントについて教えてください。
丸尾さん:EVは熱への対策が重要で、またバッテリーから供給されるエネルギーをどのような割合で効率よく使っていくかというところがポイントになります。小さなモーターをギリギリで使うと熱の発生が厳しくなり、逆に大きなモーターを使うと熱に関しては楽になるがその分スペースが必要となる。今回我々はそのバランスを取り、モデルに合ったものを追求していきました。
このモデルの開発では、まず車格に合わせて作り上げていくいうところを最初に決め、そこに入れるために性能面をどこまで頑張れるか、また航続距離に関しても連続して走ることで起こる熱のリスクの回避、熱のマネージメントも考えて進めてきました。またバッテリーも専用で、電池パック自体も内製品となり、電池セルやBMS(バッテリーマネジメントシステム)、コントローラーなどを組み込む作業まで自社で行い、レイアウトに最適な形状、そして大きさを計算して作り上げています。
──安定感のある走りや乗りやすさはどこから生まれているのでしょうか? また、実証実験のモニターに選ばれた人にはどんな部分を見て、感じてもらいたいですか?
丸尾さん:通常スクーターはユニットスイングという後輪のバネ下にエンジンを搭載し、エンジンとリヤを兼ねるような構造体となっていますが、それでは路面の追従性などに重さを感じてしまう場合があります。そこで今回のE01では、ボディの中心に全ての重さを積載する構造、言うなればTMAXのように重量物をマスの中心にして、前後の重量分布を前後50:50にしてバランス良く仕上げることで、乗り味の良さを引き出しています。
また車両を構成するフレームやリヤアーム、前後サスペンションなど全てE01のための新規設計とし、E01でベストな走りができるように仕上げているところもポイントです。
モニターに選ばれた皆様には、EVは低速からトルクが出るし、E01の場合3500回転以上はフラットパワーで最大出力が出続けるので、街乗りはもちろん、後輪の駆動力を感じながらコーナーを曲がっていく乗り味なども面白く、ワインディングなども楽しく走れると思います。
静かでエコなのは基本として、それだけでなく、乗り物としても楽しく、走りもしっかりしています。開発スタッフの僕らも試乗の際「もっと乗っていたい」と思えたほどで、モニターになられた人には、走りが面白すぎて、電欠にならないように注意してくださいと伝えたいですね。
──今後、実証実験を経て、自動車ディーラーなど、他の場所でも充電をしたいという意見が出た場合、充電ソケットが変更になることも考えられますか?
丸尾さん:現状、充電ソケットは一旦、こういった形で提案をしてはいますが、これで決定とは考えてはおらず、モーターサイクルショーで色々な人の声を聞き、また四輪用のインフラが充実してきている中で、それを上手く利用できたらいいとも思っています。ただ、それには二輪と四輪、相互のユーザーさんの理解が深まっていないと実現は難しいと思うので、今回の実証実験で皆さんの意見や考え方をぜひ参考にして、今後に活かしていきたいと考えています。
コンパクトかつ高回転な空冷モーターに
E01のパワーユニット設計を担当した桃井雅之さん
ヤマハ発動機パワートレインユニットプロダクト開発統括部・第1PT設計部・電動設計グループ主務
──E01のモーターに関して特徴的な部分を教えてください。
桃井さん:とにかくモーターの設計スペースを小さくしなければいけなかった
こと、またNMAXクラスの車体に収めるために空冷にすることがポイントでした。もし水冷にするとそれに必要なレイアウトも必要になってきてしまうことから、今回は空冷が選択されました。さらにNMAX以上の駆動力を得るためには大トルクも必要です。そうすると、電流を流したときにかなりの放熱が考えられるわけですが……それらを全て成立させるのが一番大変でした。
そのために、四輪でも使用している太いコイル線を採用し、通常の丸い形状のものから断面が四角い形状のものに変えてより高密度に巻くことによって効率を上げ、熱を発しにくいモーターに仕上げています。
──E01は実証実験用の車両という発表ですが、今後このモーターは上のクラスの車両などへの転用される可能性はありますか?
桃井さん:現時点でそのような予定はありませんが、モーターとしては他の車両でも使えないわけではなく、その可能性はあります。さらに今後発展していける可能性を持っているモーターであることも間違いありません。
──E01用のモーターは一般的なモーターに比べ高回転まで回るということですが、デメリットはないのでしょうか?
桃井さん:高回転になるからといって使いにくくなることはなく、0回転から2000回転までに最大トルクに達してそこから一定の出力となるので、低速から高速まで使いやすいモーターになっています。低速で使う場合も特に問題はなく、E01で高回転にしたのは、最高速を延ばすためです。
──変速機を組み合わせる……たとえば2段変速にするような考えはありましたか?
桃井さん:そのような話もありましたが、E01の最高速100km/hという場合では、特に2段変速をしなくても十分車両の製品性としては満足できるものとなっているので、モーターの回転数を上げることで対応できると判断をしました。
──今後、モーターをさらに高回転型とする場合、サイズは大きくなっていくのでしょうか?
桃井さん:モーターの大きさは、放熱量をはじめ、トルクやどのような電圧の電池を使うか、またどの程度の電流を流すかによってサイズが決まってきます。大きければ大きいほどトルクを稼ぐことはできますし、放熱面積も大きくなって、放熱性は良くなるのですが……。今回はなるべく小さくしたいというところもありましたので、大きさとトルク、そして放熱性のバランスをとったというところです。
──ちなみにバッテリーは暖かいほうが良いのでしょうか、またモーターはどれくらいが適切な温度なのでしょうか?
桃井さん:バッテリーの温度というのは高すぎてもダメ、また冷えすぎてもダメで、許容範囲というものがあります。ちなみにモーターの場合は基本的には冷えていた方が良いとされています。
──実証実験のモニターとなる人に、走りの面で感じ取ってほしいポイントはどこでしょう?
桃井さん:自分も実際に乗って体感をしたのですが、非常に静かで振動もなくて乗りやすいのでヘビーユースでも疲れにくい。周囲に迷惑をかけることもなく、非常に気持ち良く乗れます。コンセプトとしては街中での使用ですが、実は峠を走るとすごく気持ちいいんですよね。そういった場所でも使っていただけると、よりこのバイクの良さがわかってもらえるかなとは思います。
それとスペック的にはNMAXよりも車重はあるのですが、それを感じさせない走りができるように作っているので、そこも注目してもらえると嬉しいですね。また回生ブレーキのフィーリングは、NMAXでスロットルを戻した際の減速感を目標に作っているので自然な感じです。回生ブレーキで得られる電力が航続距離に大きく寄与するかというとそこまでではなく、それよりも走行フィーリングを大切にした考えのもとに開発されています。
ヤマハ E01主要諸元
[モーター・性能]
種類:高回転型空冷永久磁石埋込型 定格出力:0.98kW 最高出力:8.1kW<11ps>/5000rpm 最大トルク:30Nm<3.1kgm>/1950rpm
[バッテリー]
種類:リチウムイオン電池 電圧:87.6V 容量:56.3Ah 充電能力:標準装備の携帯充電器で約14時間/普通充電器で約5時間/急速充電器で約1時間
[寸法・重量]
全長:1930 全幅:740 全高:1230 ホイールベース:1380 シート高755(各mm) タイヤサイズ:F110/70−13 R130/70−13 車両重量:158kg
[車体色]
ホワイト
[価格]
実証実験用のリース対応のみ。リース料は月額2万円。
実証実験への申し込みは専用サイトから(2022年5月22日締切)。
レポート●安室淳一 写真●山内潤也/ヤマハ 編集●上野茂岐
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