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人生の半分の時間をともにした愛車「2000年式トヨタ チェイサー ツアラーV(JZX100型)」との出会い。そして別れを考える

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人生の半分の時間をともにした愛車「2000年式トヨタ チェイサー ツアラーV(JZX100型)」との出会い。そして別れを考える

運営元:旧車王
著者 :松村 透

オーナーが“青春の一部”と語る愛車「1986年式トヨタ スプリンタートレノGT-V改」との出会い。そして別れを考える

はじめまして、輸入車・旧車を専門とするライターの松村透です。

いくつかの自動車専門メディアで執筆しておりますが、この旧車王マガジンでは旧車の所有者に取材し、旧車を愛する方々の「そうそう、あるある」をお伝えしていきたいと思っています。

3回目となる今回は、人生の半分もの時間をともに過ごしたオーナーと、その愛車の物語をお届けします。

また本企画である、決して手放すつもりのない愛車と「もしも別れることになったら」についても考えてみます。

オーナープロフィールひでぼーさん。年齢は50歳、職業は会社員です。

所有するクルマは、2000年式トヨタ チェイサー ツアラーV(JZX100型)です。所有歴は25年、オドメーター上はおよそ18.8万キロです。

2000年に新古車で購入しました。四半世紀を経たいまも、エンジンをかけるたびに胸が高鳴ります。「このクルマがある限り、まだ頑張れる」――いつもそう感じています。

現在は通勤にも使っていますが、25年というスパンで考えると、年間の走行距離は1万kmは届かないということになりますね。

クルマが好きになったきっかけは覚えていますか?中学生の頃でしょうか。同級生にもクルマ好きがいて、2人で自転車に乗って国道沿いにある日産ディーラーに行き、スカイライン(R32型)やフェアレディZ(Z32型)のカタログをもらいにいきましたね。そのディーラーではクルマを買えるはずがない中学生にもカタログをくれたんです。

その後、私が運転免許を取得した1990年代前半は個性豊かなクルマが街を走っていました。なかでもソアラ(Z20型/2代目)は憧れましたね。「いつか自分も、胸を張って"これが俺のクルマだ"といえる1台を持ちたい」と思ったのが、本格的にクルマ熱に火がついたきっかけかもしれません。

これまでの愛車遍歴を教えてください叔父に譲ってもらったトヨタ カリーナ マイロード(AT150型/4代目)が最初の愛車です。その後、トヨタ カリーナED(ST182型/2代目)を経て、満を持して迎えたのが現在の愛車であるチェイサー ツアラーVです。この3台が、私の「走りの系譜」を形づくってくれたように思います。

カリーナ マイロードは、叔父に譲ってもらった時点ですでに11万キロ走っていたこともあって、1年くらい乗ってカリーナEDに乗り換えました。このクルマにはは5、6年乗ったと記憶しています。

奇しくも、3台ともトヨタ車ですね叔父が自衛官で「車輌器材隊」という、クルマ関連の整備の仕事に就いていました。その叔父がトヨタ党で、常々「クルマを買うならトヨタ車だ。いいかトヨタ車だぞ」っていわれ続けたことが影響しているかもしれません(苦笑)。なにしろ、運転免許を取得したときに憧れたクルマもトヨタ ソアラ(2代目)でしたから。

当時のソアラの最上級グレードだった3.0GTリミテッドが憧れの存在でしたね。中古車でも300万円オーバーの時代でしたから、当時10代の私には手も足も出ない値段でした。いうまでもなく、スカイラインGT-R(R32型)なんてとてもとても…。

愛車であるチェイサー ツアラーVの存在を知ったきっかけを教えてください先代モデルにあたるJZX90型のマークIIの頃から、スポーツグレードにあたる「ツアラー」のデザインに強く惹かれていました。1996年にフルモデルチェンジしてJZX100型になったとき、「これしかない」と心を奪われましたね。

決定打になったのがテレビCMです。霧のなかから鮫が姿を現し、その奥からチェイサーが静かに登場する…。あのシーンを初めて見た瞬間、全身が震えました。「牙を隠した猛獣」のような美しさと力強さに、完全に心を掴まれましたね。

個人的に、映像にインパクトがあるのは後期型のCMでしたが、前期型の「The Strong.強い高級車に乗ろう。」のキャッチコピーがなにより強烈でしたね。事実、あのコピーが「刺さった」人は多かったのではないでしょうか。いま思い返してみても、あのCMこそ私にとっての運命の出会いでした。

初めてチェイサー ツアラーVの実車を見たのは地元のネッツ店でした。定期メンテナンスで入庫してきたパールホワイトのチェイサー ツアラーV(純正オプションのフルエアロ仕様)を目の前で見ていっぱつで魅せられました。

その後、ディーラーでチェイサーのカタログを入手して以来、毎日のように読み返し、写真を眺めては胸を高鳴らせていました。気づけば、頭のなかはチェイサー一色になっていましたね。

そこから貯金にはげむことになるわけですねチェイサー ツアラーVの購入を決意したのが20代前半でしたから、そこから給料を毎月コツコツと貯めていくことになります。あるとき、職場の先輩が『とにかく1年で100万円貯めてみな。そこまで貯めたらもったいなくて使えなくなるから』とアドバイスしてくれたんです。そこで一念発起、実際に1年間で100万を貯めることができました。その後もコツコツと貯金を続けた結果、25歳になる頃には450万円になっていたんです。

450万円あれば新車のチェイサー ツアラーVが購入できます。しかし、今後のことを考えると、貯めたお金をすべて使うのはどうかという思いもありました。そこで、程度の良い中古車を手に入れようとチェイサーの中古車を販売していたネッツ店に電話をして「いい個体が入庫したらすぐに連絡して欲しい」と頼んでおいたんです。

それから数ヶ月が経過したある日、そのディーラーから『新古車のチェイサー ツアラーVが入庫した』と連絡が入ったんです。現地に赴き実車を確認すると、オドメーターの走行距離はわずか21キロ。ATなのに、メーカーオプションのトルセンLSDが装着されており、しかも未登録車。新車ではなく新古車扱いとのことでしたが、新車と比較しても破格の条件でした。

いざ買うときになって迷っていると、母が「お金はそういうときのために貯めて使うもんなんだから、また働けば貯められるじゃない」と背中を押してくれたんです。そんな後押しもあり、同時にまたとないチャンスであることは間違いないので、現金一括で購入しました。

愛車であるチェイサー ツアラーVが納車された日のことを覚えていますか?契約した近県のディーラーまでカリーナEDに乗って引き取りに行きました。帰り道、夕暮れの交差点でふとカーブミラーに映る自分とチェイサーを見て、「本当に自分のクルマになったんだ」と何度も確かめましたことを覚えています。窓を少し開けて吸い込んだ新車の匂い、まだ慣れないドライブフィーリング――すべてが宝物のような記憶です。

初ドライブは慣らし運転を兼ねて草津温泉まで行きました。驚いたのはエンジンの静かさです。これが「シルキーシックス」といわれる、滑らかで静かなエンジンなんだと感激しましたね。それでいて、白根山の登り坂でもグイグイ加速していくんです。CMのキャッチコピーのとおり、まさに「強い高級車」であることを実感した瞬間です。

チェイサー ツアラーVが「一生モノになるな」と思うようになったのはいつ頃ですか?購入する前から「このクルマは一生乗り続ける」と心に決めていました。穴があくほどカタログを眺めながら、何年も貯金を続けつつ「このクルマを手に入れたら、ずっと大切にしよう」と心に誓ったクルマですから。実際に手に入れてみて、デザインも走りも存在感もどれを取っても理想を超える存在でした。25年経った今も、その想いはまったく変わっていません。

愛車であるチェイサー ツアラーVとの一番の思い出は何ですか?所有歴が20年を過ぎた頃から、雑誌やWeb媒体の取材を受ける機会が増えました。「こんな長く、しかもノーマルのままずっと大事に乗っていて、どうやったら取材に来てくれるんだろう」と思い続けていたんです。いきなり取材のオファーが届いたときは本当にびっくりしました。私としても「長く、大切に乗り続けている」ことを評価してもらえたのがとても嬉しかったですね。取材を受けるのって、何かのステージに立つような、まるでスポットライトが当たるような、そういう感覚がありますよね。

そしてもうひとつ、忘れられないできごとがあります。それは、自宅のローンを繰り上げ返済できた日のことです。この車に乗り続ける事で出費を抑え、長年の目標を達成して法務局に手続きへ向かうとき、ハンドルを握っていたのはチェイサーでした。運転しながら、「ここまで頑張ってこられたのは、このクルマがそばにいてくれたからだ」と心から思いました。人生の節目も喜びも、いつもチェイサーとともにありましたね。

失礼ながら、これまで愛車を手放そうと思ったことはありましたか?これまでの25年間、1度もありません!むしろ「このクルマがあるから頑張れる」という気持ちで今日にいたっています。どんなに仕事が辛い日も、帰りにチェイサーを見ると心が落ち着くんです。私にとって、チェイサーは自分の軸を取り戻させてくれる存在です。

純正部品も製造廃止が増えてきて、リアアームや足回りの部品も「出ない」っていわれてますね。外装はもちろんガラスやモール類、コンピューターも「出ない」し、内装もエアコンのルーバーやホース関係もかなり欠品になっていると聞きます。そのほか電装系も含めると、いまやないもの尽くしです。

貴重なオリジナルコンディションを維持されていますが、これもこだわりですか?BLITZ製のターボタイマーは購入直後すぐに装着しましたね。あとは傷んできたタイミングで、ステアリングとシフトノブをTRD製に交換しました。あとは、ナンバーのボルトを盗難防止用のものに換えたり、インストルメントパネルの照明をLEDに交換したくらいです。

手に入れたときは維持するのが精一杯で、改造掛けるお金が捻出できなかったです。あとは、ディーラーのメカニックさんにも「ノーマルが一番長生きするよ」ってアドバイスされたことも大きいですね。改造するってことは、やっぱり無理をさせるってことだから。見た目は純正フルエアロが気に入っているので手を加える必要がありませんし、やっぱりノーマルの方が長生きするっていうので、それは正解でしたね。

3年前、これまでの感謝の気持ちを込めて新車時と同じボディカラーに再塗装してもらいました。ガラスを外してもらうなど、かなり念入りに塗ってもらった結果、2ヶ月くらい掛かりました。クルマが完成してディーラーに行ったとき、あまりの仕上がりの良さに感激しすぎてディーラーの商談ルームでワンワン泣いてしまったほどです。

欲しいクルマ、乗ってみたいクルマ、買いたかったけど諦めたクルマはありますか?強いていうなら「チェイサー ツアラーV TRDバージョン」と2代目ソアラです。どちらもあの時代のトヨタを象徴するクルマだと思います。今でも街で見かけると、思わず目で追ってしまいますね。

オーナーが思う「愛車との理想の別れ方」や「これだけは避けたい別れ」とは?私の理想としては、博物館やレストア施設のような場所で動態保存してもらうことです。「生きた文化」として、次の世代に残ってほしいと思っています。トヨタ博物館に収蔵できたら…なんて密かに思っています。反対に避けたいのは、事故、部品欠品で走れなくなることですね。まだまだ元気に走れるのに、そんな形で終わらせたくはありませんから…。

ひでぼーさんにとって愛車であるチェイサー ツアラーVとはどのような存在ですか? 家族であり、相棒であり、人生の証です。このチェイサーがあるから、前を向いて頑張ることができました。家のローン返せたのもチェイサーのおかげですし。

これまでこのクルマを最高の状態で維持してくれたメカニックの方々には、この場を借りて心から感謝の気持ちを伝えたいです。一台のクルマを25年守り続けることは、ひとりの力ではできませんでした。

そして国には、初年度登録から13年を過ぎた車に重税を課す制度を見直してほしいです。古いクルマをていねいに維持しているオーナーたちは、むしろ「文化を守る人たち」だと思います。

メーカーにもお願いがあります。ネオクラシックカーが再び脚光を浴びる今こそ、部品の再生産やサポート体制の拡充を進めてほしいです。

チェイサーは、単なる移動手段ではありませんでした。人生の喜びも苦しみも共にした「もう一人の自分」でした。これからもできる限り長く走り続けたいです。そしてその姿が、次の世代のクルマ好きの心に届けば嬉しいですね。

文:旧車王 松村 透
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