2009年、デトロイトショーでW212型(4代目)メルセデス・ベンツ Eクラスがデビュー。新たに採用された運転支援システムをはじめとした最新のテクノロジーや新しいスタイリングが大きな注目を集めた。ここでは日本市場登場を前に、スペイン・マドリッドで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年6月号より)
乗らなければわからない部分にも大きな進化
7年ぶりのフルモデルチェンジを受けた新型メルセデス・ベンツ Eクラスだが、正直に言って初めて対面したときの印象は、期待に胸躍るというほどのものではなかった。
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そのスタイリングはCクラスあたりからの流れにあるエッジが強調されたスポーティなもの。アイデンティティと言える丸型ツインヘッドランプが角形に改められ、ボディサイドにEクラスの祖先たる1953年の180を彷彿とさせるキャラクターラインが入れられるなど意欲的ではあるのだが、かと言って驚くほど斬新ともスタイリッシュとも思えなかったのだ。
実際にスペックを見ても、メルセデス自慢の安全性能に関しては、様々な先進技術の投入によって、この分野でトップを走る日本車に負けない大幅な進化を果たしているものの、クルマの根幹には、さほど目新しい部分は見当たらない。電子式ブレーキのEBCを投入したもののトラブルが続発して途中でコンベンショナルなブレーキに戻さざるを得なかった現行モデルの教訓かもしれないが、物足りなく思えたのは事実である。
しかし、先入観は実際にステアリングホイールを握るや完全に覆されることとなった。新しいEクラスは、とくにその走りの面で目を見張る進化を遂げ、確かな魅力を発散していたのだ。
最初に乗り込んだのはE500アバンギャルド。V型8気筒5.5Lエンジンや7Gトロニックなど、そのメカニズムの基本は先代型から継続して使われている。
ドライバーズシートに乗り込むと、目の前には直線基調でまとめられたダッシュボードが広がる。高い位置にCOMANDシステムのモニターが配置され、ダイレクトセレクトの採用でATのセレクターレバーはステアリングコラムに移動。その位置にはCOMANDコントローラーが配されたインテリアは、機能主義的な色彩が濃い。それは悪くないのだが、フロントウインドウの傾斜角の強さや、それにともなって手前に移動したルームミラーの圧迫感は、ちょっと気になった。
しかし、それも些細なことだ。何しろ乗り心地が抜群に良いのである。マドリッド近郊の荒れた路面で、改良されたエアマティックサスペンションを備えたE500アバンギャルドは、車体の姿勢を徹頭徹尾フラットに保ち続ける。路面がうねっていれば当然上下に煽られるが、その時にも余計な伸び縮みによる「お釣り」は皆無で、目線がブレることはない。
それだけではない。エンジンノイズやロードノイズ、さらには風切り音も非常に小さいなど、静粛性もとにかく高い。寝かされたAピラーは、セダンとして世界最高の0.25というCd値だけでなく、こうした部分でも役立っているに違いない。
そして、走行中に思わず溜息が出てしまったのは、路面の継ぎ目の段差を超えた時だ。この時、室内には「コトッ」というごく軽い音が聞こえただけ。この騒音や振動の遮断ぶりは、まるで自分はカプセルの中にいて、すべてはその外側で起きているように思わせるほどだ。
フットワークは、Cクラスのように敏捷性を強調した味付けではなく、応答性は正確ではあるが比較的ゆったりとした感じ。時に先代モデルのまったりとしたステアリングフィールが懐かしくもなるが、実際に走らせやすいのは新型の方である。
続いて乗ったE350CGIアバンギャルドはコンベンショナルな形式スポーツサスペンション仕様。乗り心地はやや硬めでスプリングが勝ったようなところもあるが、新たに採用されたCクラスなどでお馴染みのセレクティブダンピングシステムのおかげか、ショックの角は丸められているし、動きの方向性自体は一緒ということで、アバンギャルドを選ぶ人にとっては十分納得できるだろうと感じた。
スプレーガイデッド式直噴のV型6気筒エンジンは、先代モデルの本国仕様に最初に投入された時より明らかに洗練されていた。低速トルクはそこそこだが、そのぶんトップエンドまでスッキリと精度感高く回り切る様は、とてもスポーティなもの。パドルシフトの存在を一番楽しめるエンジンはこのV6だろう。
原点回帰と言っていい走りと優れた安全性
もう1台、マークしておかなければならないのがE250CGIブルーエフィシェンシーである。何と、そのエンジンは先代モデルのV型6気筒2.5L自然吸気から、直列4気筒1.8L直噴ターボへと刷新。最高出力204ps、最大トルク310Nmというスペックは、現行E250に対して最高出力は同じで、最大トルクは実に60Nm増しにもなる。しかも当然、燃費は大幅に向上している。
そんな特性だけに、走りに不満はない。下から上まで全域でフラットなトルクは、大型化されたボディにも十分なパフォーマンスをもたらす。エンジンフィールにとくに味わいはないが、ターボだけに音は静かだし、そもそも回転をさほど上下させなくても良く走るだけに、物足りなさはなかった。むしろ望みはトランスミッションを5速ATではなく7Gトロニックにしてほしかったということだが、これとて実用上の問題があるわけではない。
フィーリングで言えば、ノーズの軽さが活きるハンドリングの軽快感というポジティブな要素の方が際立って感じられた。ノーマルサスペンションは乗り心地だって速度域問わず上々。優れた実用車としてメルセデスを見た場合、これは最強の1台となり得る可能性を十分秘めていると言えるだろう。
駆け足で見てきたが、こうした原点回帰とも言うべき走りっぷりと優れた安全性能の磨き上げによって、新型Eクラスはまさにメルセデス・ベンツ特有の価値を再認識させるクルマに仕上がっている。それはすなわち、A点からB点までの移動を、疲れを最小限に、快適にこなすための最良の1台という意味である。
確かに目を見張るような新技術や飛び道具も取り敢えずは見当たらないが、本質を磨き上げることで得たその価値は、他では決して得られないものだ。
冒頭に第一印象は良くはなかったと書いたが、考えてみればEクラスは、いつもそういうクルマだった。ハッと目を惹くことはないが、付き合ううちに良き道具としてずっと寄り添ってほしい存在となる。新型Eクラスには、そんなEクラスらしさ、メルセデス・ベンツらしさが濃厚なのだ。
ちなみに日本仕様は、まずはV型8気筒とV型6気筒の3エンジンで展開される予定だ。そのうちE350はCGIではなく現行のエンジンが使われる。E250CGIブルーエフィシェンシーも、遅れての導入となるようだ。個人的には、これら新エンジンこそが、新しいEクラスには相応しいと感じている。早期の導入を期待したい。(文:島下泰久)
メルセデス・ベンツ E500 主要諸元
●全長×全幅×全高:4868×1854×1447mm
●ホイールベース:2874mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:285kW(388ps)/6000rpm
●最大トルク:530Nm/2800-4800rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●EU総合燃費:9.2km/L
●タイヤサイズ:245/45R17
●最高速度:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:5.3秒
※EU準拠
メルセデス・ベンツ E250CGIブルーエフィシェンシー 主要諸元
●全長×全幅×全高:4868×1854×1465mm
●ホイールベース:2874mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1796cc
●最高出力:150kW(204ps)/5500rpm
●最大トルク:310Nm/2000-4300rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●EU総合燃費:13.7km/L
●タイヤサイズ:225/55R16
●最高速度:241km/h
●0→100km/h加速:7.7秒
※EU準拠
[ アルバム : W212型4代目メルセデス・ベンツEクラス はオリジナルサイトでご覧ください ]
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