協議会が発足
関西電力など5社が発起人となり、「EVワイヤレス給電協議会」が設立された。自動車メーカーや電機メーカーも参加しており、ワイヤレス給電の実用化に向けた動きが始まっている。
【画像】「え…!」これが「ワイヤレス給電の仕組み」だ! 画像で見る
電気自動車(EV)は、CO2を排出しないエコカーとして急速に普及しており、ハイブリッド車と並んで今後の環境対策車の主力になると期待されている。しかし、EVにはバッテリー容量によって航続距離が制限されるという弱点がある。航続距離を伸ばすにはバッテリー容量を増やす必要があるが、それにより車のコストが大幅に上がり、同価格帯のガソリン車に比べて長距離走行が苦手になる。
この問題を解決するために、以前から研究されているのが
「EVワイヤレス給電」
技術だ。この技術では、EVが走行中に道路から直接バッテリーに給電することで、バッテリー容量に依存せず長距離走行が可能になる。
給電方法としては、電磁誘導式が有力で、道路に埋め込んだコイルと車側のコイルの間に磁界を作って無線で電力を供給する仕組みだ。これは、スマートフォンのワイヤレス充電に使われている技術と同じで、道路に給電パッドを埋め込み、その上を車が走ると常に給電できるイメージだ。協議会では、電磁誘導式以外にも
・磁力
・マイクロ波
などさまざまな方式を検討している。
また、協議会ではワイヤレス給電を、車が停車中に行うSWPT(静的ワイヤレス給電)と、走行中に行うDWPT(動的ワイヤレス給電)の2種類に分けて活動を進めている。SWPTはすでにいくつか採用例があるが、DWPTは世界的にもまだ実証実験の段階だ。
協議会には、民間企業だけでなく、経済産業省、国土交通省、環境省、そして大学もオブザーバーとして参加しており、日本全体で産学官が連携し、ワイヤレス給電の実現に向けた本格的な取り組みが始まった。
公道実験で進むEV給電技術
EVワイヤレス給電協議会は発足したばかりで具体的な活動はこれからだが、日本でもすでに実証実験が始まっている場所がある。
千葉県柏市では、東京大学を中心とした「柏ITS推進協議会新車両検討部会」が走行中ワイヤレス給電の実証実験を進めている。つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅近くの公道に実験設備を設置した。
この実験は日本初の公道での実証実験という点で画期的だ。それまでは実験室や特定のフィールドでのみ行われていたが、柏市の事例では公道で行われている。電磁誘導式のワイヤレス給電システムを使用し、公道の路面に送電用コイルを埋め込み、車には受電用のコイルを搭載した実験車両を走らせる。
今回の実験で注目されているのは次の三つのポイントだ。
・さまざまな車両に使える走行中給電システム
・標準化につながる走行中給電システム
・高耐久性プレキャストコイル
走行中給電システムは、将来さまざまな車両に給電する必要があるため、EVだけでなくプラグインハイブリッド車にも対応できるように設計されている。また、車が通っていないときにコイルに電力を送ると無駄になるため、給電可能な車を検知して効率的に電力を供給するシステムも開発されている。
さらに、公道実験で重要なのは、埋設されたコイルの耐久性だ。1日何万台もの車が通行する公道では、コイルや充電システムに常に重量の負荷がかかる。また、雨風や路面の劣化も影響するため、これらに耐えることが求められる。この実験は、ワイヤレス給電の実現に向けた第一歩となる。
2023年10月から始まったこの実験は、2025年まで続く予定で、駅前という多くの車が行き来する場所での実証実験が一定の成果を上げるだろう。
高速道の新たな挑戦
2024年にNEXCO東日本が高速道路上でのワイヤレス給電に関する実証実験に参加することを発表した。
これは、高速道路の運営を行うNEXCO東日本が進める「moVisionプロジェクト」の一環で、次世代の高速道路を見据えた構想に基づいている。このプロジェクトでは、自動運転や交通システムの改善など幅広い分野が含まれており、その中で特に注目されているのが走行中給電の実現だ。
NEXCO東日本は、停止中および高速道路の本線でのワイヤレス給電の実証実験を計画しており、将来的には高速道路の走行レーンにEV用給電レーンを設置することや、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)の駐車場にワイヤレス給電システムを導入することを視野に入れている。
高速道路は特にEVの長距離走行において、充電の必要性が課題となっている。現在、EVで長距離を移動する場合、SAやPAで定期的に充電する必要があり、充電には最短でも30分から1時間かかる。そのため、燃料補給だけで走行を続けられるエンジン車と比較すると、EVの移動時間は長くなる。この問題を解決するために、高速道路でのワイヤレス給電が実現すれば、充電のために停車する時間が不要となり、EVの方がより快適に移動できる未来も期待できる。
ただし、給電レーンにコイルを埋設するなど、システムの構築にはまだ大きな課題が残っている。しかし、この実証実験が実用化に向けた重要な一歩となるだろう。
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