新しいプラットフォームで生まれ変わったダイハツ タント
軽スーパーハイトワゴンのダイハツ タントがフルモデルチェンジ。新たな開発思想「DNGA(Daihatsu New Global Architecture)」に基づき生み出される第1弾商品となった。
ちまたでは、その新開発したプラットフォームに注目が集まっているが、カーセンサーはあえて「福祉車両」に注目したい。
新型タントの福祉車両は、実に“画期的”なのだ。
「福祉車両」とは、足腰の弱くなった高齢者や身体の不自由な人、車イス利用者などが使いやすい、あるいはその介助者が介助しやすい装備を備えた自動車のこと。
新型タントの福祉車両には大きく3つの画期的ポイントがあるのだ。この記事ではそのポイントを紹介したい。
【1】福祉車両開発担当がベース車の開発にイチから加わっている
一つ目の画期的ポイントは、福祉車両開発担当がベース車の開発にイチから加わっていること。
福祉車両は、販売台数が極端に少ないため、ベースとなる車の開発が進んでから福祉車両化を考えるのが当たり前。
製造も、工場で出来上がったベース車を別の場所に運んで架装するという、いわば改造車であることが一般的だ。
何しろダイハツの福祉車両で、2018年度に最も売れたタントスローパー(車イス仕様車)ですら、年間販売台数がわずか3706台。他のタントなら1ヵ月もかからずに売れる台数だ。
最近は希に、例えば旧型タントでは開発の初期段階から福祉車両開発担当が加わるというようなケースも出てきている。
だが、今回のタントのように文字どおりイチから、白紙の状態から一緒に「福祉車両もあるタント」を開発したのは初めてとなる。ちなみにダイハツはそのために組織改編までしたという。
この恩恵は様々なところにあるが、一例を挙げるとラクスマグリップがほぼ全車(※)にディーラーオプションで用意されたことだ。
要は助手席から乗り降りする際につかまるグリップなのだが、ディーラーで簡単に取り付けるには、壁に棚を取り付けるには壁裏に柱がないとクギが打てないのと同じ理屈で、最初から骨格にある程度の強度が必要だ。
だから新型タントは、助手席のAピラー根本部分だけを太くするなど後から簡単にグリップが取り付けられるようにしている。
グラム単位で軽量化したり一銭単位でコストを削減したい軽自動車にとって、骨格の一部だけ太くすることは本来やりたくはないことだ。
また、根本にグリップを付けるとなると、その隣にあるドアミラーをドライバーが見やすいよう位置の調整をしなければならない。これらは開発を一緒にやっていないとまずできない。
【2】産学協同研究を通じてイチから開発された
産学協同研究を通じて開発されたことによって、これまでにない機能を備えることができた。
その一例が、介護は必要ないが足腰が弱っているという高齢者に対しての機能「30度しか回らない助手席回転シート」だ。
助手席が90度回転する福祉車両は従来もあった。しかしタントは、あえて回転を30度で止めた。
実は、90度回ると座る人はドアと離れるのでつかまるところがなくなり、乗り降りがしにくいということが、鈴鹿医療科学大学とともに高齢者の乗降動作を解析して明らかになったからだ。
ところが30度なら、ドアの内側につかまって乗り降りできる。先述のラクスマグリップの取り付け位置が、よくあるピラーの上部ではなく根本に必要なのもそのためだ。
グリップの形状も理学療法士とともに実施した調査結果に基づいて開発された。
【3】ライン生産(工場生産)される
先述のとおり福祉車両は販売台数が少ないので、たいていメーカーは福祉車両のためだけの設備を工場に備える費用、つまり設備投資費用を抑えるため、ライン生産しないのが普通だ。
それでもライン生産にこだわったのは、一度完成した車を福祉車両に架装するために分解したり、別の場所に移送する無駄を省けるので(設備投資費用を無視すれば)販売価格を抑えられるから。また納期を明確にしやすい、とダイハツは説明する。
しかし、それだけだろうか。そもそも同社は以前から福祉車両だけのカタログを用意せず、タントカスタムも載る同じカタログ内で、タントスローパーやウェルカムシートリフトを掲載している。
これは「福祉車両」もタントカスタムと同じように、タントの1グレードだという意思表示だ。
だからライン生産も「福祉車両は特別な車ではない」という意思から敢行したのだと捉えることができる。
以上の3つをすべてを揃えた福祉車両は、従来どのメーカーにもなかったし、今後も難しいハードルだ。
新型タントの福祉車両は、一足先に「改造車」から「1グレード」という新しいステージに進んだといえそうだ。
文/ぴえいる、写真/ダイハツ
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