2018年6月28日、NHKニュースで「ホンダがASIMOの開発を中止し、研究開発チームも解散」と伝えられ、大きな話題となりました。ASIMOといえば、かつてホンダの多様性、面白さ、チャレンジスピリッツのアイコンともいえる存在だっただけに、この報道に衝撃を受けた人も多かったのではないでしょうか。
しかしこの報道を受け、本田技研工業の広報部は同日中すみやかにコメントを発表。「今後もヒューマノイドロボットの開発が続けていく」と明かしました。
え、NHKが誤報ってこと?? ではなぜこのような報道へと繋がったのか。実際のところ開発状況はどうなっているのか。
ホンダのヒューマノイドロボット開発の現状を取材しました。
文:大音安弘 写真:HONDA
■ロボットは開発中、ただしそれは…?
取材によると、ホンダ広報部は「現在も二足歩行ロボットの研究開発チームは存在し、ヒューマノイドロボットの開発は続いています」と断言した。
ホンダの二足歩行ロボット開発は1986年からスタートしている。それが「ASIMO」として結実したのは2000年。この長い歴史を持つ開発の歴史は途絶えたわけではないという
ただしこれには注釈がつく。
昨年(2017年)4月に、今後のロボティクス事業やAIなど新たな技術の波に対応すべく、ホンダ社内における研究開発部門の大規模な組織変更が行われ、チームや技術者たちの異動があったという。
これによりASIMOの研究開発を行っていた「基礎研究所」がなくなり、新たに「HONDA R&DセンターX」が立ち上げられ、その中でロボティクスの研究開発を行っていくことになった。
またASIMOを担当していた一部の技術者は「ホンダ・リサーチ・インスティチュート(HRI)」という本田技術研究所の子会社へ異動。この改編により、これまでASIMOの開発を担当していた組織がいったんなくなり、チームの形にも変化があったため、それがASIMO開発チーム解散という報道に繋がったようだ。
ここは表現が難しいところだが、より厳密にいうと「研究開発部隊が新たな組織へ移った」というのが正しい認識だという。
■「ASIMO」の名前が使われるかどうか
ご存じのように、ASIMOは様々な技術要素から作り上げられている(視覚センサー、感圧センサー、各種解析技術、アクチュエーター、軽量化、自立制御、振動吸収など)。今回の組織変更で、各技術者はそれぞれその成果を将来的に活用していくために、それぞれの技術分野のアプリケーション開発部門へ異動した。
一方で、引き続きヒューマノイドロボットの研究開発に携わる人もいる。しかしASIMO自体、2011年に現行バージョンが登場して以降、新しいものは発表されていない。それではやはり「ASIMOの研究開発は終わってしまった」といえるのではないか。
「そういうわけではありません」とホンダ広報部は繰り返す。
新技術の波が押し寄せる今、研究開発を進めるヒューマノイドロボットに関しても、今後どういうものにすべきか模索している最中なのだという。
新時代に向けたヒューマノイドロボットの研究開発が続いているのは間違いない。ただし「それ」が「ASIMO」という名前を引き継ぐかどうか、ASIMOと名付けられるかどうかは未定なのだという。つまり、ホンダ製の新しい二足歩行ロボットが今後登場するとしても、「それ」にはまったく新しい名称を与えるかもしれない、今はまだ決まっていないという。
この名称問題が、今回の「ASIMO開発終了」という報道の端緒となったのではないか、とホンダ広報部は語る。
ホンダの二足歩行ロボット研究は「人との協調」を目指して開発の蓄積が続けられてきた。多くの現場で経験値が積み上げられてきているが……
■報道がASIMOの将来を切り開くかもしれない
今回のNHKによるASIMO報道については、「これはあくまで憶測ですが」と前置きした上で、
「社内の一部には、ASIMOはもう不要ではないか、(初期の開発者の多くはもう別部署へ異動したのだから)次のステップへ進むべきではないか、と考えている人もいるようで、そういう方に取材されたのではないか」
とは前述のホンダ広報部。
ただそうした思いを抱くホンダ社内の人間も、「ASIMOはもう不要」と言っただけで、次世代ヒューマノイドロボットの開発についてまで否定しているわけではない、とも受け取れる。それだけ多くの関係者が、ロボットの持つ様々な可能性を模索しているということだろう。
ASIMOの技術は、研究開発中のパーソナルモビリティ「UNI-CAB」に加え、意外なところでは2輪レース「MOTO GP」の参戦マシンにも応用されているという。もちろん、現在活躍中の現行型ASIMOも、これまでどおりにPR活動などに活用されていくというから、「ASIMOと会えなくなる」ということでもなさそうだ。
ホンダの開発したパーソナルモビリティ「UNI-CAB」にも、ASIMOで培ったバランス制御技術や遠隔操作技術などが活かされている
最後に、ホンダ広報部は、
「今回の報道については、多くの社員が反響の大きさに驚いています。それだけASIMOが多くの方々に愛されているということを実感するいい機会になったし、改めて、大事にしていなかくてはならないという想いを強くしました」
とコメントしてくれた。
今回の報道は、ASIMOの存在の大きさをホンダ内部にも改めて知らしめたとも言え、愛らしいロボットであるASIMOの将来を切り開くきっかけになるかもしれない。
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